2020/08/18

シンクロ、について

nature communication という雑誌に、複雑ネットワークにおける同期法の一例、というような論文がありました。



写真はバイオリニストに演奏をしてもらう実験の様子です。バイオリニストはお互いの音が聞こえず、中央の管制機器により、特定の人の音を特定の演奏者に流すことが出来ます。特定のメロディを演奏してもらい、2人では、3人では、4人では、と組み合わせを変えていくと、バラバラに演奏していても、いつかはハーモニーを奏でるわけですが、実際にどう同期していくのか、を観察した実験です。


複数の振動子を用意して並べておくと、お互いに影響しあっていつしか同期していくのは実験などで見たことがあるのではないでしょうか。それを数式化したのは日本の蔵本由紀先生で、蔵本モデル、と呼ばれています。蔵本先生は1977年にノーベル賞を受賞した散逸構造論にインスパイアされて研究に入られたそうですが、散逸構造論というのは相対性理論、量子論以来の発見、と言われている科学の命題です。

現在研究されている複雑ネットワーク上での同期はもちろん蔵本モデルで計算しきれるものではないから、それを生物の実際の機能から探ってみよう、という実験なのです。

難しい実験の内容は自分も理解できたかどうかはわかりませんが、以下のように理解しました。

人間は偶数のプレーヤーとつながっている時に同期を見つけやすい事が観察された。一方で奇数のプレーヤーとつながっている時にはやや遅れるようだがやがて同期する。ではどういう事をしているのかをコンピューターでシミュレーションしてみる。1つの接続を意識的に切って(要するに聞こえないように頭の中で処理して)偶数の音を聞きながら同期する、そういうモデルを作ると、実際の人間での同期と良く一致する。おそらく人間は奇数の音源があるときには、頭の中で一つを切断することで、うまく同期させているのではないか、みたいな内容が書かれているように思いました。(よくわかっていないです)

全く一部の接続を切っておいて同期させる、というようなモデルは今までなかったらしくて、経済、意思決定、伝染病、情報伝達、交通管制など、複雑ネットワークの研究に役立つのでは?と書かれています。

演奏者が偶数のときに割合同期を人間が探しやすい事は不思議なのですが蔵本モデルでもそうらしくて、生命と非生命で同じなのがとても面白いですし、奇数だったら一つの接続だけを切って(聞こえてはいるんでしょうが)一旦偶数にしておいて同期する、というのは演奏者が全員プロとは言え、すごい能力を人間が持っているものだ、と関心もしました。

また、これは「同期」に関して、面白い洞察を与えてくれました。すなわち「多数決が絶対か」という問題への一つの回答です。例えば会議は2人4人6人などでやれば、多数決で決められないわけですから同期するという方向性があるのではないか。空前の成長率で知られるAmazonという会社では、プロジェクトは2つのピザを分けられる人数でやれ、と超天才であるCEOベゾスが指示したそうですが、これも「同期しやすさ」という視点で良く語られます。



意識しなくてもいろいろなものが同期する現象は、生命と非生命関係なく起きる。人間社会ではそれがうまく行かない事がままありますが、進化とともにより良い姿で安定してくれるでしょうか。

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