エキスパートどうしで会話しているときには、耳学問には「関係ないと思っていた知識同士をつなげる」働きがあると良く感じているので非常に好んでいる。
しかし、知識のない相手(患者や学生)ではそうはいかず、そのために間違った知識をもったまま歪んだ意見を持つものも残念ながら多い。レメディーや、自然、天然、漢方、薬は嫌、検査は嫌、あるいは特定の医師の名前、そういったキーワードを話す人の中にはそういう芽があるのではないか、と警戒しながら話さねばならぬから面倒くさい。(実際には話すのはやめて筆談にしてしまう。聞き間違いは誤解の半分以下とわかってはいるのだけれど、それでもましだと思うから)
私自身は記憶力にどうも特別なものがあった(過去形)らしく、それは瞬間記憶ではないけれども、「その時に感じたほんの少しの矛盾を忘れない」と言った類の記憶力であったので学生時代の実習というのはまことに良く身についており、その時に指導医が話したひとつひとつの意味があとになって良くわかる、という事を経験したのであった。その中には少なからず自分の聞き間違いだったのだ、と思われることもあるのです。
私は医師になってから8年間、内視鏡は触らずにずっと見学(見取り稽古)だけをしていた。通常ならば自分でやってみたくて気が狂ってしまうのかもしれないけれども、幸い自分はそれほど内視鏡に愛着があるわけではなかったし、手先が器用なことに関しては自信があって持てばうまくなるのはわかっていたし、もともと体が弱くて体育などは見学することが多かったからそういう経験には慣れていてそれで良かったのだ。その裏に内視鏡黎明期の熱狂を幼少時(父と叔父が東大分院だから)に体験し、完全に「乗り遅れた」との自覚もあったためやや冷めていた部分もあるかもしれない。むろんその当時、ESDに熱狂していた先生方が今は内視鏡界をリードしているわけで、なるほど学問とはそういう熱い思いが根底に流れているべきだと思っている。つまり自分のように冷めた人間はクロニクラー(観察者、記録者)向きなのだろう。今もほぼ診断だけをしている。
見取り稽古の期間が長すぎたため、自分は「見ればわかるだろう」と思いが少し強すぎるようだ。例えばお腹にエコーを塗るときの始点は一定であり、場所も決まっているという事は2回見れば理解し、3回見れば確信するだろうと思うわけだ。私の場合には指導者の動作のうち、「ゆるがないもの」「ややぶれるもの」「まったく規則性のないもの」とを分類し、さらに指導者数人の動作を統合して何が大切なのか、を選択していく、という当たり前のやり方をする。なので自分を見学し、次にハンズオンで学生がどのように動いてくれるのか、というのは多少楽しみにしている。というのは自分の影響がどの程度あるか、で他の指導者のやり方が想像できるからだ。これは相手が優秀な生徒である場合にのみ通用する話だけれど。
8年の見取り稽古の結果良かった事は、学んだことを言葉にできる、という事である。良い解説が出来るからハンズオンにおいてはまあまあ良い指導をする。しかしながら、見取り稽古というのは自分で発見する楽しみがある。何もかも教わってしまって、発見の楽しみを学生から奪ってはならぬ、(だって自分で規則性を発見することこそ楽しいものだ)という思いから、最初からすべてを教えるという事はしない。理解のぶれ、が新しい発見や手技を産むこともあるからある程度あいまいにすべきだとも思う。
ハンズオンはラーニングカーブが急峻である。したがって知識を手技が追い越して危険に陥るということがしばしば生じるのが欠点である。見取り稽古が長かった自分は十分な医学的知識を身に着ける余裕があったとも言える。昨今、学生にせよ、研修医にせよ、「早く上手くなりたい」との思いを良く口にするようだけれど、患者さんの事を考えれば、必死で知識を身に着けなければ危険だ、という事に気付かねばならぬ。それこそ、自ら気付かねばならぬことである。
2015/04/14
IBS(過敏性腸症候群)
過敏性腸症候群を考える際に、患者さんひとりひとりに対して自分が持っている生理学、解剖学の知識を総動員して様々な因子がそれぞれどのように重ねあわさっているのかフーリエ変換を行うわけです。人間の頭脳は聴覚においてはフーリエ変換をアナログ回路で実現しているわけですから、こうした思考も当然可能なのではないか。したがってそこから導き出される処方は全員異なるというわけです。
精神的な因子が最も周波数が---
~周波数と言う言葉がおかしければ他の言葉を使いたいところですが思いつきません。このような病態に与える因子と言うのはリズムを持っている事が多いのです。だからフーリエ変換、という言葉を上で使っているのです。~
最も周波数が不安定です。これをコントロールして残りの因子を見えやすくするために海外ではまず抗うつ薬を使ってしまうという発想が出てきたのは全く不思議ではありません。実際効果があるのですから。しかし私の場合は精神的な因子を最後のほうに考えることにしています。これは海外とは真逆の発想だと言えると思いますが、別の方法で介入をしているので本質的には同じことをしている可能性はあります。
さて残りの因子はそれぞれの周波数を持っておりそれらはあまり極端に揺れ動くという事はないでしょう。
胆汁分泌とその成分の個人差
膵液分泌とその成分の個人差
小腸での水分のin/out
胃内pH
小腸各部分の腸内細菌とpH、粘性
大腸各部分の腸内細菌とpH、粘性
腸管リンパ球の構成や非特異的な炎症
C. difficile、原虫、寄生虫など病原性をもつ感染症*
胃・小腸・大腸それぞれでのペースメーカーの動作
胃・小腸・大腸それぞれの平滑筋の発達と柔軟性
部分的にペースメーカーに従わない部分の存在
物理的な屈曲や狭窄・憩室などの形態的因子*
腸内圧上昇とPeptide Y、セロトニンなどの腸管ホルモンの放出
胃・結腸反射とその強さの個人差
月経
アルコールやたばこなどの嗜好品
アレルギー
特異的な糖や油の消化障害
食事の薬理作用
血流障害の有無(漢方薬などによる静脈血栓症など*)
直腸の形態
匂いに対する過敏性
甲状腺など各種ホルモン分泌
室温・体温
*IBSの診断の前に除外されるべきだが除外しきれないものは当然ある
今ぱっと思い浮かぶのがこの位ですが、症状を分解していってそれぞれの因子がどのくらい関与するのかを想像し、シミュレーションをし、投薬をし、フィードバックを受け、精度を上げていく、というのが外来で行っている事です、難しく言えば。
2015/04/04
下痢・軟便が6ヶ月以上続くとき
だいたい全員にこういう感じで書いて説明します。シンプルで理解しやすいと思ってるんですが。
消化障害
-消化が出来ない
--慢性膵炎など、膵液が出ない
--胆道ディスキネジアなど、胆汁が出ない
--消化を邪魔するものを食べている
-吸収が出来ない
--短腸症候群のようなもの
--熱帯スプルーのようなもの
--つまり小腸に異常があるタイプ
蠕動亢進
-アルコールによる蠕動亢進
-他の副交感神経刺激による蠕動亢進(過敏性腸症候群を含む)
-甲状腺機能亢進症
腸内細菌叢の異常
-急性胃腸炎後
-抗生物質投与後
炎症
-大腸炎(特異的・非特異的)
--潰瘍性大腸炎やクローン、あるいは細菌性大腸炎、寄生虫
-憩室炎(大腸・小腸)
-毒
アレルギー
-セリアック・スプルー
-薬剤性(含サプリメント)
--collagenous colitis, microscopic colitis
-食事
通過障害
-腫瘍
-癒着障害
そしてこれらの鑑別診断から、一気に正解に近づくために最初に食後のエコーをしてみます。病院を渡り歩く人ほど準備が悪いのでたいてい食べて来院するのです。それを逆手に取ります。
食後エコーをしてみると、胃の動き、胆嚢の動き、膵臓の様子、大腸の様子、甲状腺の様子がすべてわかりますが、これは職人芸なので他の人に簡単に真似できるとは思いません。そもそも生理学の深い理解が必要です。これと病歴を組み合わせる事で、鑑別診断を大胆に絞っていくのが私の臨床のやり方です。わけわからないと思いますが。
絶食なら絶食で別のアプローチで鑑別をしていきます。
世の中で下痢型過敏性腸症候群と診断されている人は当然これらの病気を除外されてるはずなんです。でも実際にはどうなんでしょうね、という話です。
消化障害
-消化が出来ない
--慢性膵炎など、膵液が出ない
--胆道ディスキネジアなど、胆汁が出ない
--消化を邪魔するものを食べている
-吸収が出来ない
--短腸症候群のようなもの
--熱帯スプルーのようなもの
--つまり小腸に異常があるタイプ
蠕動亢進
-アルコールによる蠕動亢進
-他の副交感神経刺激による蠕動亢進(過敏性腸症候群を含む)
-甲状腺機能亢進症
腸内細菌叢の異常
-急性胃腸炎後
-抗生物質投与後
炎症
-大腸炎(特異的・非特異的)
--潰瘍性大腸炎やクローン、あるいは細菌性大腸炎、寄生虫
-憩室炎(大腸・小腸)
-毒
アレルギー
-セリアック・スプルー
-薬剤性(含サプリメント)
--collagenous colitis, microscopic colitis
-食事
通過障害
-腫瘍
-癒着障害
そしてこれらの鑑別診断から、一気に正解に近づくために最初に食後のエコーをしてみます。病院を渡り歩く人ほど準備が悪いのでたいてい食べて来院するのです。それを逆手に取ります。
食後エコーをしてみると、胃の動き、胆嚢の動き、膵臓の様子、大腸の様子、甲状腺の様子がすべてわかりますが、これは職人芸なので他の人に簡単に真似できるとは思いません。そもそも生理学の深い理解が必要です。これと病歴を組み合わせる事で、鑑別診断を大胆に絞っていくのが私の臨床のやり方です。わけわからないと思いますが。
絶食なら絶食で別のアプローチで鑑別をしていきます。
世の中で下痢型過敏性腸症候群と診断されている人は当然これらの病気を除外されてるはずなんです。でも実際にはどうなんでしょうね、という話です。
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