胃液が1リットル、胆汁+膵液=消化液が1リットル、小腸から10リットルぐらいの分泌が毎日あると言います。コレラではそれらが一切吸収できなくなります。だから下手すれば一日目で12リットルの下痢があって、その日のうちに死んでしまうでしょう。だからコロリ=コレラです。
一日10行(ぎょう=下痢はこう数えます)の下痢があったとしても、一回100mlくらいとすれば、せいぜい1リットルの液体が出て行くだけでして、11リットルは小腸+大腸で吸収されているというわけです。全然余裕です。何とかなるんじゃないか、と思うわけです。
むろん脱水の評価には別の方法がちゃんとありまして、身体の10%の水分が失われるとど~だこ~だって。それはちゃんとやるにせよ、10行とかいうと患者さんがびびりまくりですので、「大丈夫だよ」と伝えるためにこういう話をするわけです。むろん神経質な人にはこういう話はだめでしょうね。最初のコロリが出てきた時点で恐れおののいてしまい、落ちを聞いてくれません。神経質な人には結論を最初に言うこと。「大丈夫、これは薬で治ります」ってね。
胃液ばかり吐いたときには、H+とかCl-が喪失するわけですが、小腸からの分泌物が下痢として出て行くとなりますと、Na+とかK+とかの喪失がバカにならないわけです。血液検査ですぐに喪失量が算定できるかと言いますと、喪失した電解質が血液中に反映するにはタイムラグがあるわけでして、そればっかり信用するとエライ目にあいます。例えば胃で大出血した、なんてときに血液で血の濃さを測定したらHb14g/dlだから大丈夫です!(キリッ・・・みたいなお馬鹿な研修医だってひょっとしたら世の中に居るかも知れません。1リットル出血したら、その1リットルが間質液で完全に置換された状態ではじめて血液検査では11g/dlとかに下がったりするわけです。電解質でもそういう事が起きますので、血液検査ばかりしてるんじゃなくて大体予想で電解質を補正するのが良いのでしょう。
そういうのはエライ人が経口補水塩ってのを考えて下さってますので、それを利用してしまいます。
血液ってのはNa+が140mEqの濃度で入っています。10%の食塩水のNa+がだいたい1700mEqだってんですね。下痢便ってのは30mEqとかそんなもんでしょう。するとまあ、0.2%ぐらいの食塩を考えておけば良いって事ですね。K+はどうかっていうと、喪失してしまうんですが実際にはK+は体内プールがものすごく大きいんですね。だからK+をとって血圧を下げようとかいうのは本当になんちゃって科学もいいところなんでして、それでK+をとりますと下痢がひどくなったりしますので(蠕動を亢進させてしまう)、それでWHOの言う「経口補水塩」が正しいって事になります。
http://www.city.yokohama.jp/me/kenkou/eiken/health_inf/info/fruitjuice.html
市販品でOS-1ってのがありまして便利なんですが、例えばスポーツドリンク(ポカリスエットとか)に500mlあたり1gの食塩を加えて飲んでも良いですよ、なんて話もします。ただ、これでは炭水化物が濃すぎるわけで、ひどい下痢の場合はもう少し薄めたいところです。
表. WHO(世界保健機関)・UNICEFが推奨する経口補液の組成(含有成分)
重量 | g/L | 浸透圧 | mmol/L |
---|---|---|---|
塩化ナトリウム | 2.6 | ナトリウム | 75 |
グルコース、無水物 | 13.5 | 塩素 | 65 |
塩化カリウム | 1.5 | グルコース | 75 |
クエン酸三ナトリウム、二水和物 | 2.9 | カリウム | 20 |
クエン酸 | 10 | ||
総計 | 20.5 | 総計 | 245 |
そういった背景があって、患者さんには例えばこんな指導をします。
1)500mlあたり1gの塩を加えたスポーツドリンク(ポカリスエットはスポーツドリンクの中では糖分が最も濃いほうなので半分に薄めても良いし、アクエリアスや生協のスポーツドリンクならだいたいそのままで良いのですが、人工甘味料のスクラロースなどが添加されている場合には下痢する人もおられるため注意が必要かもしれません)を用意する。少し高いのですが市販のOS-1を用意してもよいし、自分で作っても良い。
2)一口20mlを3分間隔で飲んでも時間当たり600mlの水分が補給できることを知ること。むろん吐いている場合は別である。ストローや「すいのみ」で飲むと空気を嚥下しにくいので良い。一気に水分を飲むと下痢をする。
3)下痢の反復では腸内細菌が極めて減っていることを知ること。これを元に戻すことを目標としたい。すなわち投薬には整腸剤が含まれ、それは下痢の治癒後もしばらく投与される。
4)飲水、下痢のバランスが取れてきた場合、栄養補給を考える段階である。ゼリードリンク、流動食、カロリーメイト、栄養剤などの補給を考慮しても良い。(病状によります:すなわちこの判断が適確に出来るほど回復は早く、それが出来ない人は入院も考慮せざるを得ない場合があります)
5)原因を調べるのも重要で、大腸菌以外にもカンピロバクター、サルモネラ、アメーバなど、鑑別する疾患は多い。培養はしておいて、私の判断で抗生物質を投与します。症状やエコー所見によって原因菌の想像がつく場合もあります。
6)むろん手洗いは励行。
7)下血、血尿、高熱の持続は悪い兆候であるから、ただちに救急病院に受診の事。
さて、下痢をしているときに遠くから(当院には一時間以上かけて来院する患者さんが多い)来院するのはやめてください。
あなたにとって悪いことです。
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