2015/08/22

平均と標準偏差

「中性脂肪は変動するのに血圧は変動しないのが不思議だ」という人がいるとしてどういう説明をしますか?というような問題を医者に出題すると面白いと思うんです。

こうした、医者にとって見ればあちこち認識がずれているように見える質問を、どこまでさかのぼって定義して説明し納得してもらうのか、の方法論にその医者の実力と個性が見えるからです。

検査の値の平均や標準偏差の意味、考え方。

中性脂肪の変動に影響を与える無数の要素。

血圧変動がなさすぎる病気の存在。

限られた時間の中で、患者さんが持つやや歪んだ認知をある程度修正しようと試みるのは医者の仕事の真骨頂と言えますけれど、たまに全く自分が予想していなかった答えがそこに転がっている事があります。



例えば中性脂肪が変動するような病気が実際に存在した、というような結論が得られたりして。

ある程度の変動を標準偏差の中にあるから大丈夫だと患者さんを教育するつもりが「本当にそうですね」という結論に至る。

ところがこういう経験は患者さんの将来にとっては邪魔だったりします。検査値の変動に対する歪んだ認知がそのままになり、些細な事を気にしすぎたりする。



ベストな方法は毎回の検査の結果を、検査を行った医師が正しく評価し説明をする、という事です。そうすれば認知のずれの予防が出来るからです。患者の認知のずれをニュートラルに戻すのは内科外来の役割の一つだ、と書きましたけれど、予防も出来るのが良き内科医に求められる技能の一つだ、と思います。

2015/08/19

体脂肪率はお風呂のあとに測定してもらっている

「先生、私体脂肪率が高いんですけど」と相談をうけました。

体脂肪計はインピーダンスを測定して脂肪量の近似値を出しているだけで、誤差はとっても大きくてあてにならないんですけど、なんとなく高いと嫌ですよね。

これはタニタの体脂肪計の説明書ですが、抵抗が高くなりそうな事、低くなりそうな事を避けるように説明しているってのは少し電気をかじった人ならわかりますよね?



見るとおわかりいただけると思いますが、体脂肪計で測定する条件として一番安定しているのは、「お風呂に入って、身体を拭いて、下着をつけた後」です。

かかとは適度に湿っていて、汚れがついていませんから。

それが一番体脂肪率の数値を低く算出させる測定の仕方です。
私は足の裏がとても柔らかくて足が短いせいか、体脂肪率は一桁に出ますが絶対にそれ以上ありますよ。体脂肪率が高くなってしまう方には「足が長いんですよきっと」などと言うと喜ばれるかもしれません。

2015/08/17

一人より二人のほうが幸運を手に入れやすかったりする

「あなたはどうして手術を受けたんでしたっけ」
「先生に言われたからですよ!」
「あ、そうでした?」
「夫に先生が検査を勧めて、私も受けたんです」
「そうでした。勧めました」
「そうしたら私が」
「ああ少し思い出しました」
「で夫は去年先生に言われて大腸がん検診を受けたら」
「なんか取ったようで。たしかそれはあなたに勧めたんじゃなかったでしたっけ」
「そうなんです。私は大丈夫だったんですけど」
「不思議でしょう?ふふ」
「今でも夢の中のようで」
「でも運が良い人ってそういうものですよ。夫婦っていうのは結構共同作業的に幸運を手に入れる人々がいます」

夫婦の仲が良いと、
医者が注意したことを双方で気を付けたりするので、
例えば片方に「便潜血検査を受けてくださいね」と言うと、
もう一人も受けてくださったりして、
それが大腸がんが見つかるきっかけになったりすることが
良くあります。

「お互いに尊重し合う」という関係はしかし、
なかなか難しいもののようです。

2015/08/01

かわいい、の定義

かわいい、という言葉をどう捉えるか、どう使うか、というのは極めて主観的な行動なのではないか。

使う人によって意味が違う言葉として「かわいい(Kawaii)」は興味深い研究対象と言える。



私にも私なりの定義があるのではないか、とある日思ったので自分がどういう場面でその言葉を心の中で唱えるのかを観察し、その共通点を探った。

自分はその言葉を、ものに対しても使うが人に対して多く使い、しかも相手が老若男女どういう人であるかは関係なかった。

さらに観察し共通点を見出した。自分の中の「かわいい」を矛盾なく説明するのはこの解釈だ。



その人の人生に介入させてくれる相手は、かわいい。



自分の気持ちを正直に打ち明ける人であるとか、恥ずかしい事を恥ずかしいという人であるとか、相手の話を一生懸命理解しようとする人であるとか、自分の弱さを隠さない人であるとか、親切にされることを嫌がらない人であるとか。相手が子供ならばしたがってかわいい、と思うことが当然多いように思う。こういう職業なので、必ず相手に関わろうとする。その時に心のドアがふわっと開いている人は必ずしも多くはないのだけれど、そういう相手をかわいいと自分は捉えているらしい。



相手がものや動物である場合には、手にとることが出来るもので、しかも手にとってみようかな、と思える事が「かわいい」の根にあるようだ。これも「介入」というキーワードで説明が出来そうだ。