2013/08/11

薬が効かない

人が出した処方を見ていると、
「こんな全部入りないだろ」
と思う事があります。

そんな処方では、私の単純な脳では、患者さんが「効果がない」と言った時に
どう効かないのか理解を超えてしまうからです。オーバーフローとも言います。
自分には出来ない処方です。

3種類で閉口し、5種類超えるともうだめで、
「一旦すべてお休みしてみて…」と患者さんに提案してしまう事があります。
一種の敗北感であります。

私がいわゆる「漢方薬」に手を出さない理由は、漢方薬の売られているエキス剤そのものが合剤でありまして、上述したところの「全部入り」であるからです。したがって私のような考え方ではオーバーフローしてしまう。
メタ知識を積み重ねるというような別の論理が必要になってきます。
それが理解できて時々「なるほどな」と思う場合があります。
証と言う考え方は実に理に適っていると思うのです。混乱を避けるという意味で。

しかし取りあえず「漢方薬のエキス剤」も一種類、として扱っております。

3種類ぐらいまででしたら、他院から「効かない」と受診された時にこう提案します。
薬A、薬B、薬Cがあるとします。

現在はAxBxCという組み合わせで飲んでおられる。
これを
AxB
BxC
AxC
という組み合わせに変更して一週間ずつお試しいただいて、
症状に変化がないかどうかを見てもらう。
そうするとひとつの薬が効果を相殺してしまうために効かない場合に、
薬を減らした方が効く、という事があるのです。
さらにシンプルに
A
B
C
単独でお試しいただくこともあります。

4種類ですとこうなります。
AxBxCxDという組み合わせで飲んでおられると、
AxBxC
AxBxD
AxCxD
BxCxD
となり、さらにもう一つ抜くとすると
AxB
AxC
AxD
BxC
BxD
CxD
という組み合わせでお試しいただくことになります。

お薬を抜いてみる場合には、それほど膨大な組み合わせにはならないのですが、
それでも試すには時間がかかります。
こうした理由で他院でお薬が増えてしまった症例を診るのは苦手です。増やした先生がどうして増やしたのか、お薬手帳で手に取るようにわかる場合があり、この場合には少々楽です。
ですからお薬手帳すらもたない患者さんが受診されると我々から「おうちからとっていらっしゃい」と言われるわけです。

では薬は一種類からだんだん増やした方が良いのでしょうか。
必ずそうすべきなのでしょうか。
そうでないから医学は難しいのです。
漢方薬が一定の効果があることからわかるように、組み合わせには組み合わせの利点もまたあるのです。
経験上、そして生理学や薬理学などから考慮すると5種類の薬が今は必要だ、と思う場合は当然あるのです。

ただ、全然効果がないと患者さんが言う場合に、
「引いてみる」という発想がある医師とない医師がいることに気づいておられる皆さんも多いのではないでしょうか。
その発想がない医師は、生理学だとか薬理学よりもメタ知識を優先して医療をしている、そう思う場合があります。EBMの意外な落とし穴もそこにあるのです。EBMは組み合わせに対応できるほどまだ洗練されてはいないのです。そこをICTで解決しようというのがひとつの夢ではあります。

さらに患者さんのインテリジェンスと気分(ムード)が実際には因子として加わってきます。
周期的にムードが変化する患者さんは一定数おられ、しかも周期が年単位だったりします。
「薬が効く」「効かない」の訴えが安定しないことや、自分での工夫をしない、薬の淘汰のようなことが生活のなかで起きないのが特徴なのである程度「ムードが影響しているな」というのはわかるのですが、そういう方への干渉、介入は大変に難しいのです。
薬が効かない方の中には一定数そういう方々がおられます。

一方で全く誤診であるという場合もあるのです。それは診断がまず間違っている、という意味です。

本来、薬が効かないという場合には、上記のように「投薬があっていない」「患者さんのムード」「診断の間違い」の三点を基本にして考え直すのが基本ですが、そこに時間とコスト、医療リソースの無駄遣いがないかどうかのバランスを加味します。

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