2009/07/25

どうして足がつるのか

「どうして足がつるのか」の、「どうして」は、「足」にかかっているのか、「つるのか」にかかっているのか、あるいは言外のどこかにかかっているのかで答えは変わってくるのでしょう。電解質の濃度が変化して細胞膜の安定性がどうのこうのって説明しても自分がわかってないわけで。芍薬甘草湯が効くのだからカルシウムチャンネルが開きすぎたりするんだろうとは思うのですが説明しても「だから何?」と言われるのがオチでしょう。

ただ、気づいたのです。

ふにゃふにゃの人は、足がつるとは言わないようだ。

もともと足が細くて、運動もしない、そういう人が足がつると言うのをあまり聞いた事がない。

そこでこんな答えを用意してみました。

「もともと運動が得意だとか、健脚だという人が、年をとったとする。筋力は低下するのに、まだまだ若いつもりの頭からの命令はその低下した筋力を超えたチカラを要求すると。すると痙攣してしまうんじゃないでしょうか」

などと言いますと、「健脚」だとか言われて悪い気はしないようで、素直に納得される方が多いようです。

「じゃあどうすれば良いのでしょう」という問いに対する答えは、「自分の筋力を知ろう」です。あるいはずっと筋力を維持する?

夢の中でスーパーマンになっていると夜中に足がつってしまうのでしょうか。私の場合、伸びをするとそのまま足がつります。もっと上品に伸びをすれば解決です。実際のところは芍薬甘草湯で解決です。カルシウム拮抗薬に予防効果があるのかどうかは知りません。[このリンクを見ていると効きそうな気もしないでもありませんが]

PPIと膵炎

心窩部痛にニトログリセリンが効いて、それが実は胆石だったとか、逆流性食道炎だったとか言う話は以前からありますが。

心窩部痛にパリエットが効いて、それが実は膵炎だったときには案外しゃれになりません。

なので、逆流性食道炎のファーストチョイスは最近PPIじゃなくなりつつあります。

ちなみに逆流性食道炎に効く薬は沢山あります。

PPI・・・萎縮がない人とか除菌後の人に適応があると思います。(もちろん例外あり)腎障害があるときにはH2RAよりも使用しやすい薬です。各種のPPIで薬剤への感受性、薬価は違うのでその特徴を見極めながら各人にあったPPIを投与するのが通だと思います。PPIを使用しすぎた時の胃や消化管内での雑菌の繁殖、骨粗鬆症の悪化には注意しています。

H2RA・・・夜間の酸分泌はヒスタミン依存です。夜間の酸分泌を抑えたい時にはPPIよりも効果があります。また効果の立ち上がりが早いので、ファーストチョイスとしても良い薬です。使用方法はその切れの良さもあり、オン・デマンドです。PPIほどではないけれど、カルシウム吸収を抑制します。プロテカジンには逆流性食道炎の保険適応はありません。

制酸剤・・・これらの中にはカルシウムを吸収しやすくする薬があり、PPI、H2RAの悪い効果を帳消しにしてくれるかも。と言うことで併用すると良いことがあるかもしれません。速効性はあり、痛み、しみる、などの症状をすばやく取ってくれる場合があります。

蠕動促進薬・・・ガス◯チンは全く悪化させることがあるので要注意です。患者さんは黙って逃げます。逆流性食道炎には、食道が痙攣するタイプとそうでないタイプとがあります。便秘に麻痺性と痙攣性があるのと似ています。痙攣するタイプの患者さんに投与すれば症状を悪化させます。これを理解しないで全員にこの手の薬を処方しておいて不思議がっていてはいけません。そういう患者さんには逆にブスコパンを処方して効くことがあるのです。頭を柔軟にしましょう。

私の隠し玉・・・ガスコン。要するに逆流性食道炎の生理は単純ではないのです。どうして大して圧もかかっていないのに、胃からのどへ胃酸が逆流するのですか?そんなのおかしいではないですか。LES圧が低いだの高いとか言う前に物理的にどうして逆流するのか、考えなければ。考えられるとすれば表面張力です。つぶれた食道内に胃酸が進入した時、比較的すばやくのどまで上昇してくるとすれば、それは表面張力によります。したがって、ガスコンで表面張力を下げれば良いのではないか。のどの症状や咳が強い患者さんには試す価値がある投薬だと思います。

アルギン酸・・・アルコール飲みすぎて味覚障害などある場合には、その微妙な甘みをまずく感じるらしく恐ろしくコンプライアンスの悪い薬ですが、この薬でないとコントロール出来ない場合があり重宝しています。人工イクラの原料です。イクラは胸焼けを悪化させるのに、人工イクラは胸焼けを軽快させる。人工なのにイイやつです。

他にも挙げればきりがないのですが、内視鏡時に食道を洗浄した水の挙動(流れ具合)も結構参考になることを追加しておきましょう。

結論から言えば、沢山の患者さんが来院されますが、シンプルにPPIだけ服用している患者さんは、当院では稀です。まずはダイエットからはじめます。あと、下手なウェイトトレーニングをしている方も多いので注意しています。

膵炎の話のはずでしたが、いつのまにやら逆流性食道炎の話になってしまいました。慢性膵炎はアルコール性が多いのですが、自己免疫性とやらも増加しつつあるようです。まだまだ診断・治療に進歩が望める病気です。

2009/07/22

センチネルループサイン

「お腹が痛い」と来院する場合には、食道・胃・十二指腸・小腸・大腸と言った消化管が原因であるとは限りません。もちろん病歴が一番重要で、いつから、どこが、どのように、どのくらいの頻度で、どのくらいの時間、どの程度痛くて、便とか尿の性状がどうか、原因として、何を食べたのか、他の疾患はないか、薬を飲んでいないか、過去にどのような病気があったかなどを事細かに聞くわけです。

そして必要だと思えば腹部超音波検査を行うわけですけれど、例えば尿管結石の時には麻痺性イレウスになっていることが多く、尿管結石を念頭に置いていない場合にはついだまされてしまうことがあります。胆石発作の時、膵炎の時、それぞれその周辺の腸管の動きが麻痺して非常にガスが目立つようになってきます。腹部単純X線写真で「センチネルループサイン」と呼ばれるような所見を腹部超音波検査で認めることは本当にしばしばで、毎週のように見ることが出来ます。そしてこの時に痛みの質を聞いていると元の病気で痛いのか、腸管が痛いのか、その痛みが混合されて複雑になっている場合も多いのです。

  • <メモ> センチネルとは歩哨(みはり)の事です。見張りのように腸が痛いところにへばりついてループを描いているのでそう表現されたのでしょう。裂痔を繰り返すとその部分が盛り上がって白いイボになってきます。これを痔だと勘違いする人が多いのですが、違います。これはセンチネル・タグと言って、肛門の見張り番です。タグ=荷札のようなイボの形なのでそう呼ばれるのだと思います。胃酸が多い人には胃の入り口、噴門に過形成性ポリープが出来ます。これはピロリ菌の有無とは関係なく出来るポリープです。これもセンチネル・ポリープと言います。胃の見張り番です。ネーミングにはセンスが必要ですが、これらの命名はなかなかセンスがあると私は思います。

ちなみに腰椎椎間板ヘルニアの時にも腸管が麻痺している例がありますし、帯状疱疹でも同様です。

女性の下腹部痛と聞けばまずは女性器、しかし周期的な強い痛みと聞いて最初は消化管の痛みかと思いました。そしてエコーを行いました。


私はこの所見はフレッシュなチョコレート嚢胞だと思います。なぜフレッシュだと判断したかというと、少し時間が経つと卵巣嚢腫の中で血液が沈殿してくるのですが、ここではそれがないからです。たぶんこれが悪さをしていることは理解できるのですが、周期的にどうして痛いのでしょう。


すぐそばの腸管、S状結腸なのでしょうか、非常にガスがたまっています。周期が少し不定期で痛みがある瞬間を捉えられなかったのが残念ですが、センチネルループとでも言うべき腸管の麻痺、ガスの貯留はこのように腹痛がある場合一般に見ることが出来ます。そして以外と診断には役立ちません。しかしながら、そこが痛いのだなあ、詐病ではないのだろう、よほど痛いのだろうと同情を禁じ得ない所見だという点で重要だと考えています。

先程書いたようにこのような場合のお腹の辛さというのは原疾患の辛さ+腸管の辛さなのかもしれません。周期的に痛いのも、腸が周期的に収縮してこれが嚢腫の頚部を刺激したりするのかもしれませんし、腸自体が痛いのかもしれません。

したがって、ガスコン、整腸剤、消化剤を使用して腸管ストレスを減弱するような処方をしてみることが良くあります。文句を言われたことはないので、多少は役にたつのでしょう。

2009/07/17

食道アカラシア

昨日第9回西神奈川消化器カンファレンスで発表した食道アカラシアです。


まずこの一枚目の写真に意味があります。
私は余裕があれば梨状窩の写真、声帯の写真は必ず撮ります。
しかし撮っていないということは、すばやく検査をしなければと思わせる理由があったに違いありません。
反射はなかったのでそれ以外の理由です。
また、この泡を洗わずに写真を撮っているということは泡を洗える状況ではなかったということ。

すなわち食道に残渣が沢山あるために水で洗えば患者さんが誤嚥をしてしまい危険だと判断したということです。この泡だらけの写真には、「食道残渣があって、粘膜を洗う余裕がなかった」という意志がこめられていると思ってください。食道粘膜の白っぽさには注目しておいてください。


微妙に白っぽい粘膜と共に残渣をとらえた写真です。ここでも注意しているのはなるべく残渣が咽頭に戻ってこないようにスコープをコントロールすることです。誤嚥したら危険ですので吸引できるものは吸引し、無理なものはなるべく吸引せずに押し込むようにしていると思います。重力の関係で残渣は9時の方向に見えます。


胃内に残渣があるのはおかしいのですが、挿入時に食道から落ちたのだと考えています。残渣がありますのでいつものように水で洗浄はせずに観察しています。



噴門です。少し巻きついている感じはします。くるくるスコープを回したときにくっついてくる感覚なのでしょうが、実際にはあまり良く分かりませんでした。


抜去時は残渣が少なくなり余裕があったので空気を入れて拡張した食道を見ています。透視で見ると6cm近くの拡張がありました。
アカラシアは挿入時の残渣と、食道粘膜の白っぽい感じを見て確信を持ちました。以前に同様の所見を見たことがあったので。



<アカラシア・メモランダム>

Symptoms
  • 嚥下困難、悪心、嘔吐、胸焼け、しみる、食道痛、胸骨後方痛、せき、たん、体重減少
Type(X-ray)
  • Sp.(Spindle) / F.(Flask) / S.(Sigmoid)
  • Spindleタイプで発見するにはアカラシアをまず疑うことが大切かもしれません。
Grade
  • I. d<3.5cm / II. 3.5≦d<6cm / III. 6cm≦d
Endoscopic findings
  • 結腸様収縮波、憩室様陥凹、噴門のまきつき現象、めくれこみ
  • しかし、個人的には食道のglycogenic acanthosisおよび残渣も重要所見だと思います。当院ではアカラシアは2例目です。

2009/07/04

減圧弁

私は横浜市立大学出身なのだけれど、生理学は川上正澄教授一門の先生方の授業が面白く、魅力的で大好きな教科のひとつ。ところが勉強しない私は前期で落第点を取ってしまい、田中教授に後期に満点取らねば落とすと言われて頑張ったものの残念ながら満点はならず、肩を落としていたところが「出題ミスがあったので全員6点加算されます」のアナウンスがあったために進級させてもらえたのも良い思い出です。
呼吸生理は内科の大久保隆男教授の授業が難解で面白く、流体力学を駆使して説明する喘息を含めたCOPDの生理は臨床にずいぶん役立っていて、CO2内視鏡の安全性の理解に寄与している。

液体二酸化炭素だがボンベ内では当然ながら液体部分と気体部分が存在している。
我々の減圧弁は歴史があるので「~気圧」と表示されているが、みなさんが使用している圧力計はPa(パスカル)で表示されているはずだ。室温では液体二酸化炭素ボンベ内の気体部分の圧力は50気圧強である。今は単位系にPa(パスカル)を使用するので、50気圧が4.965MPa(メガパスカル)だから、だいたい5MPaという場所に圧力計の針があれば二酸化炭素ボンベ内にはまだ液体があるという事になる。

そして、ボンベの内容は当院で使っている7kgボンベで8リットルくらいだと仮定すると、二酸化炭素の液体部分が無くなったときに、二酸化炭素は(1気圧に換算すると)400リットルぐらい残っている事になる。400リットルあれば普通の内視鏡で10人は可能(1人2Lx10分=20L)だから、減圧弁の第一の表示の圧力はあと何人患者さんの検査が出来るかの指標になる事を知っておくと良い。

つまり圧力が下がり始めた時に「あと何人出来るか」がわかるわけで、その一番大切な一瞬を5段階とか6段階でしか表示しないオリンパスや富士フィルムの機械は「経験がない人が作ったなあ・・・」とややがっかりなのである。

減圧弁についている第二の圧力計は、その50気圧の圧力を下げるために使用する。
内視鏡の空気が出るところの断面積と圧力との兼ね合いで、二酸化炭素の流量が決定される。したがって、すべての内視鏡において二酸化炭素の流量は変化して差し支えないし、また送気バルブの押し方によって断面積は変化するので当然二酸化炭素の流量は変化して差し支えない。むしろ断面積の変化に応じてダイナミックに圧力を変化させ、流量を一定にしようと機械的な操作を加えることの方が愚かであって新たなエラーを生むのでやめた方が良い。所詮細かいコントロールは無理なのであってその部分は術者に任せる方がよほど良い。

さて、安全な二酸化炭素の流量は前回私は最大5.6リットル/分くらいなのではないかと試算した。実際には私は上部内視鏡では2リットル/分の流量で、大腸内視鏡では1.5から2リットル/分の流量で使用することが多い。そして、半分以上の時間は送気ボタンに触っていないから通常は1リットル/分以下なのだろうと思われる。

多くのオリンパス社製スコープでは、圧力を0.3気圧程度、つまり0.03MPa程度とすると流量が2リットル/分となる事が多い。当院ではそうしている。しかし、癌研究会有明病院ではさらに特注で酸素用の流量計をつけてあるから便利だ。減圧弁で0.05MPaとしておいて、さらに流量計のバルブで調節をするように提案し、ほとんどの先生がそう使用しているようだ。減圧弁で0.05MPaとすることで非常に安全に検査が行える。第二の圧力計はそのように使う。

理解できなければ、使用してはならない。

そしてオリンパスからも富士フィルムからも二酸化炭素送気装置が発売されている。(オリンパス→リンク)(富士フィルム→リンク

蛇足になるが、オリンパス製二酸化炭素専用送気バルブを使用したときには二酸化炭素を使用しない(ボタンを押していない)間に管内圧力が上昇してしまうので微妙なコントロールが出来ないし、そもそも減圧弁使用時には1000ml/min以上の送気を彼らは認めていない。(専用装置を使った時には一定以上の圧力が上がらないように調節されるのでOKだ)一方で少しゴムが劣化すると二酸化炭素を使用しない間もチャンネルから二酸化炭素が漏れ出てしまう。そう考えると通常の送気バルブの方がより細かい圧力のコントロールが可能である。微妙な送気加減を日頃から多用している先生には通常の送気バルブを使用する事を勧めている。

富士フィルムの場合、送気チャンネルがあったけれど管が細すぎて相当圧力を高くしないと二酸化炭素が入らず自分は諦めてしまったのだけれど、当ブログを読んで減圧弁を上手に使っている先生がおられる。

Pentaxは一方、送気チャンネルに二股のチューブを使用するだけで二酸化炭素が使用できる。

2009/07/01

花王サニーナ

いつのころからか、大腸検査の患者さんが増えてしまい、必然的にお尻の件について相談されることも多くなりました。当院では院長がもともと外科ですから肛門疾患に関しては詳しいのですが、数を見ていると消化器内科医の私でもだんだんわかってくるものですね。今では症状を聞く前にお尻を見ればすぐにわかります。(ちょっとだけ嘘です)

お尻に関しては悩みも人それぞれ。

しかし、これを勧めておいて間違いないという商品があり、それが「花王サニーナ」です。

サニーナは現在体験キャンペーン中です。(2009年7月16日で終了しています)

花王サニーナがピンチかもしれない、という記事も面白いので御覧ください。

類似商品もなく、しかしどのドラッグストアに行っても片隅に必ずある、ロングセラーでありベストセラーである商品だと思います。地味なヒット商品として、お菓子界のかっぱえびせんに匹敵する存在だと思っています。

中身はスクワランオイルにアズレンを混ぜただけのもの。

それでも応用範囲は極めて広いのです。

1) 排便前に潤滑剤として(内痔核や裂痔を予防する)
2) 排便後に潤滑剤として(清拭による刺激を和らげる)
3) 裂痔(きれぢ)の治療薬として(アズレンスルホン酸が裂創を治癒させる)
4) おむつかぶれにひとふき(オイルによる肌の保護)

それだけでなく手に塗ったり、擦り傷に塗ったりしてもかまいません。効果があります。

シャワーによる肛門の洗浄装置には確かに汚れの除去やマッサージの効果があるかもしれません。しかし、水は浸透圧の関係で粘膜を荒らしてしまいます。したがってあまり根本的な解決にはなっていないと考えますのでおすすめはしていません。

温水洗浄便座が自動生理食塩水製造装置と紫外線滅菌機能を備え、かつ前方から後方への洗浄を実現したら革命だな。