咳が出る人の中には逆流性食道炎の方が一定数おられ、
その咳の出る機序を患者さんにこう説明している先生がおられる。
「胃酸が喉頭や気管支に炎症を起こし云々」(microaspirationの事のみを説明)
私はその説明のみでは不十分だと思う。明らかに声帯に胃酸によると思しき炎症がある印象的な症例はあるものの、半数以下だと考えて良いのではないか。
Gastroesophageal reflux and chronic cough
Susan M. Harding, M.D., F.C.C.P., F.A.G.A.
GI Motility online (2006) doi:10.1038/gimo77
というのは、内視鏡時の以下のような反応がヒントになる。
内視鏡を梨状窩より挿入時に、唾液やルブリカントなどを誤嚥していないにも関わらずしばらくの間咳が止まらない人々が一定数いる。
割合最近まで、挿入時に患者さんが咳をするのは自分の未熟のためだと思い、ひたすら研鑽に勤しんでいた。しかしどう自分の手技を減点法で厳しく採点しても減点できない場合にすら咳が出るケースがある。その症例を観察していると以前森谷先生から教えていただいた、「咽頭食道神経症と咳喘息症例がオーバーラップする」という一言が思い浮かんだ。咳が出る症例を一例づつ検討すると、それらはいわゆる過敏症に属する人々であり、上部食道への様々な物理・化学的刺激がそのまま咳につながると考えると論理的である。
つまり胃酸が本当に気管支内に入る事で咳を誘発するのではなく、上部食道まで胃酸が逆流した時点で反射的に咳が出る、という症例が多いと考えると無理がない。
気管支の中に胃酸が逆流すればひどい炎症を起こし咳を誘発するだろうけれど、実臨床ではそのような炎症を確認できることは少ない。私は内視鏡時の咳反射を観察することも病因にせまる一つの方法として利用している。英語での"esophageal cough"という言葉はよく本質をあらわしているように思う。("acid"や"reflux"という言葉を使っていない)
「呼吸と循環」という雑誌があり、この53巻6号pp. 581-587に胃食道逆流と呼吸器症状(岩永知秋、高田昇平)という総説がある。この中に、"esophageal cough"が最初に記述されたのは1世紀以上前、Sir William Oslerによると記載されている(!)。このウィリアム・オスラーという人は高名な医学者であり、ジョンス・ホプキンスの最初の内科教授である。
オスラーの業績はあまりに多いけれど例えば、
Osler兆候1:橈骨動脈がカチコチに硬いときに、血圧計で測定するといくらカフに空気を入れても音が聞こえてしまい、血圧が200とか250などと測定されてしまうけれど、実際にはそんなに高くはない"pseudohypertension"において、血圧測定中に橈骨動脈を触れると硬いサイン。これはこれで強い動脈硬化がある事をしめす。
Osler兆候2:Osler結節(感染性心内膜炎で指先端に見られる有痛性の紅斑性皮下結節)
Osler兆候3:グレーブス病で稀に認められる粘液水腫
などと、Osler兆候だけで3つもあるほどである。
Osler-Weber-Rendu病
Osler-Vaquez病(真性多血症)
などに名前が残るし、彼の名言も良く医学あるあるのネタになる。
そして"esophageal cough"に関しても記述していたとは本当に驚きだし、総説を書いて下った岩永、高田先生には感謝だ。実はまだ、上記文献を手に入れていないので大学に行って検索してみようと思う。
0 件のコメント:
コメントを投稿