2015/10/04

腫瘍の大きさについての雑感

普通のがんの成長スピードは遅く、経過観察する場合もありますが、その事について不安を感じる方が少なからずおられます。そういう人はどういう人なのでしょうか。

------------------------------

(論理的に考えられ、説明しなくても予後について理解できるグループ)

 医者同士の場合にはあまり説明しなくても済みます。
 予測どおりいかない場合でも、臨機応変に考えを変更してくれトラブルが少ない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(言葉ではわかっていても、例外的なことが起きたらどうしようというような感情が優先するグループ)

 家族や友人に不幸な転帰をたどった患者さんがいる場合
 もともと医者不信がある場合
 テレビ・週刊誌の雑音が雑音だと判断できるほどの知識がない場合

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(完全に理解したわけではないけれど、医師を心底信頼しているグループ)

 この方々は結果が良ければ非常に幸せと言えます。
 逆に信頼しすぎて重要なサインを教えてくれないというピットフォールがあるのが難点です。

------------------------------

この中間層にいる方々に上手に説明できるかどうか、が大切だとは思いますが、理詰めでなく感情に訴えねばなりませんから、なかなか難しいものがあります。そこで我々のようなプライマリケア医といいますか、脇役が重要になってくるんじゃないでしょうか。総合病院で癌と診断されたときに不安になって周囲に相談した時に、運が悪いともっと不安をあおる人々につかまってしまうのが大変な不幸です。総合内科という言葉がありますけれど、私はその言葉はあまり好きじゃなくて、なぜかといいますと不安を抱える人のバックアップが出来ることは彼らの仕事には含まれていないのではないか、と思うことが多いからです。プライマリケアという言葉の方が好きです。

感情に訴える方法はいくつかあって、一つは「とことん親切」という事だと思います。頻回なフォローは患者さんを楽にします。他には「上手に言葉を言い替える」というスキルもあるかと思います。これも脇役だから出来るのではないかと思います。もう一つは「なんとなく理解した気になってもらう」という方法で、テレビや週刊誌、あるいは代替医療などで行われている手法ですが、事実を捻じ曲げないところが彼らと我々は違うと言えましょう。私には大きな武器がいくつかあります。エコーの腕(というか、目、あるいは記録力)であり、内視鏡の腕であり、あとはコンピューターを駆使できることも武器のひとつです。言葉だけでなく、記号や絵で訴えかけることは患者さんの感情を動かすのには有効であろうと思います。動画ならなおさら効果的です。エクセルのワークシートは一か所の数字を変化させると全体がダイナミックに変化しますから非常に効果的かと思います。


さて患者さんの不安の芽の多くは腫瘍の大きさだろうと思います。
腫瘍の直径など人が計測すれば私と違うのは当然なのですが、それでも一部の患者さんは不安を感じるものなのです。
あらかじめ「あの病院の計測のほうが私よりも大きく言いますよ」と予防線をはっても私が紹介した患者さんが「大きくなっていた」と泣きついてくることがあります。それはバイアスなので本来心配すべきじゃないんですが、乳がんのような腫瘍では、大きさを割と患者さんが気になさるので発生しがちな不安の芽だと思います。したがって同じ測定方法で時間をあけて測定するチャンスがあった方についてはもう一度測定して(検査代をチャージしなければ保険から文句を言われることはありませんよね?)変化がない事を納得してもらえば良いですし、ずいぶん昔に検査をしたことがある人ならば、いかに大きくなりにくい腫瘍かを上記のような計算をしてみせて納得してもらうという方法も考えられると思うのです。(上の計算では、腫瘍の成長速度は一定である、と仮定して腫瘍の大きさを過去にさかのぼって示しています。また手術をいつごろにすればいいか、のシミュレーションをしています。甲状腺がんをかなり若い方に見つけることがあるのですが、さかのぼれば10代から存在したのだろうな、という思考実験でもあるのです。こういう計算をしてみると有効数字は2桁ないと精度がずいぶん落ちるなという事も実感できます。早期胃がんのような平面に広がるタイプの腫瘍はこういう計算とは別モデルを作らねばなりません)

0 件のコメント:

コメントを投稿