2014/09/26

low grade intraepithelial neoplasia of the esophagus

食道の低異型上皮内腫瘍は、内視鏡の発達により容易に診断されるようになりました。
(容易に発見できるのは慣れている内視鏡医だけですが)
この病変の自然史はまだ明らかではありません。しかし、自然史を明らかにするためには毎年フォローする必要があるのでそれは医療のリソースを圧迫することも事実です。

とはいえ、発見しなければはじまらないのです。

これはGIF-H260での写真です。NBIで容易に発見される病変でも、


白色光ではなかなか。NBIのない時代、これを見つけるのを自分は得意にしていましたが、今ではその自信はありません。


ルゴール不染です。


H画質でないとだめかというとそんな事は全然なく、GIF-Q260でも容易に発見できます。


白色光では難しいですね。見つけられますか?


ルゴール不染です。


この病変は、胃腺腫よりもはるかに高確率で見つかります。ですから、内視鏡医のトレーニング問題として使えるとすら思います。厳しいですか?

2014/09/07

内視鏡と画像強調


オリンパスの内視鏡用画像プロセッサCV-260以降のモデルでは内視鏡画像の画像強調をA、B、2つのモードでそれぞれ8段階設定することができる。Aモードは輪郭強調とも言われ、画像の明暗・色調変化のある部分を太く強調 する。このため、皺襞や凹凸などの輪郭、血管や腺窩などの構造物はより太く強調される。一方Bモードは構造強調とも言い、画像の明暗・色調の変化率をより強調する 設定となっている。アンシャープマスクの半径の大小の違いだ、と言うと画像処理をする人ならば感覚的にわかるだろう。したがってBモードでは構造そのものがシャープに 強調される。

Aモードが何に役だつかというと、皺襞や凹凸などを見ることに役立っている。内視鏡のレンズは曇りやすく、少しの粘液でも解像感が落ちる場合がある。それを補うのがAモードで、シャープな輪郭で写真をわかりやすくしてくれる。反面、解像度が落ち、小さな構造を見ることが不得意だという特徴がある。

例:

B5 での観察であるがややシャープさを欠く
A5とすると襞辺縁はどうにかシャープなのだが発赤が強調されすぎているし、解像度が落ちている
B5 レンズをきれいにしてシャープな画像を得る 情報量が多い画像
Bモードは、もっと細かい構造を見るのに適している。特にIPCLやRACなどの構造はAモードより観察することが容易だ。反面レンズの曇りに弱く、粘膜とのコンタクトを避ける、曇りを取り除くテクニックなど、Aモードを使用した観察よりも操作に繊細さが必要になる。技術的に難しくても高い解像度を活かすためにはBモードでの観察は欠かせず、特にNBIを用いた観察についてはBモードしか使うべきではないと言って良い。もともとNBIは短波長であるために画像は白色光よりもはるかにボケにくいのでそれほど難しくもない。

直接は関係ないが必ず水を一度フラッシュすべき。そうするだけで情報量は格段に増える。髙橋寛先生と自分とでウォータープリーズを癌研大塚で作った時の当初の目的はこういう使い道だった。

こうした反射は粘液を洗っていないから生じる
洗うとこれだけ情報量が増えるので、胃でも必ず水で粘膜をフラッシュすべき

CV-260SLを使い始めて7−8年ほど経つと思うが大学でAモードになっている機械を使うと非常に戸惑う。ピロリ菌がいない時のきれいなRACがAモードで強調されると、ピロリ菌がいるときのザラザラ感との見分けが難しいからだ。すぐに気づいてBモードに戻すけれど、練習も必要かと思いAモードも試してはいるが、やはり慣れない。

これが自分にとってのRAC+ 
これは無駄に強調されすぎていると思う
Bモードで、ピントのあったきれいな写真を撮るのは難しいかもしれないけれど、早期食道がんの診断や、RACの同定には非常に役立つので、H画質、HQ画質の内視鏡を用いるときにはBモードでの観察をおすすめしたいと思う。自分は慣れているのでB5だけれどもオリンパスのデモを見る限りB8を使っている先生が最近は増えてきているように思う。

ところでオリンパスには理解してもらえないが、RAW画像の記録がまだ出来ないのはどうにかならないか。かつてはそのようなコンセプトがあり、あとから画像強調を行うことが出来るソフトを販売していたのに。

2014/09/01

名医を探している人たちに共通する特徴

「先生、○○科で名医はいないでしょうか」という質問が来ました。


ホイ来た。それは当院でのFAQです。患者の住所を確認。
そしてその近隣には名医のA先生がおられます。


(きっといつものパターンだろうな)と思い、慎重に聞いていきます。


「あなたはS市にお住いでしたね」

「はい」

「もうすでに近隣の先生にはおかかりである、と考えてよろしいですね」

「はい」

「では、評判の良い、患者のとても多い先生にすでにおかかりになったのではないですか?」

「はい。A先生です」

「やっぱり、それでどうなりました?」

「実は一ヶ月ほど前にかかったのですが、処置して、これで治ると言われたんです」

「なるほど。しかし治らずに黙って別の医院に行きましたね?」

「そうなんです。またなってしまったので、今度はB病院に行きました。そうしたら、B病院では前の処置が悪いと言うんです」

「なるほど、でもB病院でも治ってないんでしょ?」

「そうなんです」

「私、A先生は名医だと思ってます。厳しすぎるっていう評判もありますけれどね。まず、見立てが良いです。診断が正しい。これは大切なことです。実はB病院でやっている定期的な研究会がありまして、私それに出るんですけれど、そこで毎回発表されている開業医ってA先生だけです。他の先生たちより圧倒的に珍しい症例が多いです。そしてとても頭が良いです。こういう研究会でどういう活動をしているのか、って実は医者の実力を一番知るいい機会。名医だと思う次の理由は患者が多い事です。あんなに厳しくてもやっぱり多いんです。どうしてか。治るからでしょ?あと、あなたにもそうだけれど、『治りますよ』って言ったんでしょ?つまり混んでいるのは次回も来なさいと強制しているからじゃないっていう証明です。混んでいる医院の中には予約を必ずとるところが多いですからね。でもそうじゃないことがあなたの言動からわかって、良かったです。ますます名医だと確信を持ちました。さて、B病院。診てくれた先生、ひよっこでしたよね?」

「ええ、まあ。若い先生で」

「B病院が損してるなあと思うのは、前の医療機関の批判を必ずする先生が多いってところです。自分が上手くいかない時の保険をかけちゃう」

「自信がないんでしょうか」

「だとすれば、損ですよね。きっと上の先生の言動を真似しているだけなんですけれど。そこがB病院の惜しいところです。でもあなたが紹介状を持っていかないのが悪いんですけれどね。今聞いたところではA先生の処置は正しいです。でもね、あなたは再発をするリスクを持ってる。これは再発してからわかります。再発してから情報を集めるのが効率が良いですからA先生のやり方は正解だと思うんです。だからあなたが失敗だったのは治らなかった時にA先生のところにもう一度行かなかったことです。名医ってのはまた来いとは言わないことが多いです。だって患者さん減らしたいんだもん。そこで淘汰されるわけ。あなた淘汰されちゃったんです。だからあなたの通院パターンでは誰も名医になることは出来ません。逆にいうとあなたは名医にはかかれないんです」

「えー」

「だってそうでしょ。最初から名医にかかっちゃってるんです。でも親切でもない、手取り足取りでもなかった、という理由で二度とかからなかったんです。名医はなんとなく患者さんを減らそうとする、という法則があることさえ知っていればねえ。惜しい。ちなみに名医はこんな無駄話はしない」

「じゃあもう一度かかるのが良いんですね」

「です。治らなかった時こそ名医の真価が発揮されます。そこから糖尿病とか膠原病とか別の病気が見つかることがある。良い患者さんというのは先生とのコミュニケーションがうまい。あなたもそうなれるようにしてください」



名医を探している人にある程度共通する特徴があります。

1)自分がかかっている医師の真価がわからず素通りしている。
2)なぜなら「後医は名医」の法則を信用しすぎており、あとに聞いた意見を優先するから。
3)コミュニケーションが上手いと思っているけれど、本当は下手で、前に引き返すことが出来ない。

常にベルトコンベアーに乗っているかのように、一方通行でドクターショッピングをする人に名医を見つけられるわけがありません。


ほとんどがこんな具合なので、まずはその人の経過を聞いてみます。すると途中ですでに答えを出してくださっている先生がおられ、しかしそこを無視して通りすぎてしまっている、という事がよくあります。そして通りすぎてしまう理由がコミュニケーション不足です。

ちょっとだけ考え方を変えると良い医療が受けられるのにもったいないことです。良くならないときにいかに上手く情報を医師に伝えられるか、です。メモを書いて持っていく。自分の病歴を詳しく話す。できる事はたくさんあると思います。