メタ化:この言葉を良く私はブログで使用します。物事を事実ではなく、抽象的に理解する事を「メタ化」と呼んでいます。「○○は身体に良い」と言うような知識をメタ知識、と呼びます。
「その知識は常識だ」
「それは教科書的な知識だ」
と、教える側が言ってしまう場合があると思うのですが、
それを自ら戒めるべきなのではないか、と実習に来た学生さんに話していたのです。
「胸部レントゲンをどう読む?」
と質問をしたときに彼が答えられなかったのでそういう話になったのです。
学生さんには私が習った胸部レントゲンのEDBCAを説明しました。
あるいは他のソースに「
胸部レントゲンのABC」というものもあります。
どちらも覚えやすいのでたまに小ネタとして話します。
(撮影条件をまずは語るべきですが)
「人に教えやすい」ということこそメタ知識の特徴です。マスコミはメタ化を利用して意図的に視聴者をコントロールさえできます。
すぐれた教科書は網羅的であるか、あるいは上手に知識がメタ化されているのが特徴だと考えています。
英語で書かれた教科書は私のような非ネイティブでもわかりやすい良い本が多いと感じますがその理由のひとつとしてメタ化がうまいのではないか。
読者が多いので当然なのでしょうけれど、非常に役立つ(人にも教えやすい)知識が多いから、英語の教科書(あるいはその訳本)は是非参考にして欲しい、と彼には申し上げました。
胸部レントゲンのEDBCAは「周囲から写真を読むこと」という概念が貫かれている良い読み方だと個人的には思います。実は胃や食道の所見も「周囲から読む」のが誤診をしない基本です。
Extra thoracic(胸郭外を読む、骨軟部組織、腹部頸部などもここに含みます)
Diaphragm
Central shadow(縦隔と心臓を含みます)
Bronchus
Airway
というのが私が習った胸部レントゲンの"EDBCA"です。習ったのが学生時代ですからずいぶん長い間忘れずに頭に留まっている良いメタ知識だと思います。
他にインターネットで見つけたABCには、
Airway
Bone
Cardiac
Diaphragm
E&F-equal (lung) fields
Gastric bubble
Hilum (and mediastinum)
Airway (midline, patent)
Bones (eg, fractures, lytic lesions)
Cardiac silhouette size
Diaphragm (eg, flat or elevated hemidiaphragm)
Edges (borders) of the heart (to rule out lingular and left middle lobe pneumonia or infiltrates)
Fields (lung fields well inflated; no effusions, infiltrates, or nodules noted)
Gastric bubble (present, obscured, absent)
Hilum (nodes, masses)
Instrumentation (eg, lines, tubes)
というものがありました。日本人には少し量が多いかも知れないな、と感じます。
でも参考にはなりますね。
医師の知識は他の職業における知識とは性格が異なるかも知れません。弟子に教え伝えることがすべての医師の義務であるとヒポクラテスの誓いに記されている事からわかるように、「教科書を読んでおけ」と言うような教育の形態はおそらく正しくはない。教える側には教科書的な知識のメタ化および、それまで自分が積み上げてきた知識から得られたメタ知識を弟子に伝えることが求められるのではあるまいか。一方教えられたことをただ実行するだけの能力の持ち主では医師は務まりません。「教えてくれ」というような態度の学生はすでにその条件を満たしてはいませんから、学生にも相当の努力が求められるでしょう。そして新たなメタ知識を獲得していくべきなのです。
と言うような事を話しました。
その(知識のメタ化の)練習は「勉強会」なのであろう、と話しました。医学において「勉強する」事は将来「教える」事をすでに要求されています。勉強としては非常にハードルが高いけれども、人に教えるつもりで勉強する(メタ化する)と知識が身につくし、逆に友人からメタ知識を教えてもらう事によって膨大な領域の知識を効率よく吸収することが出来る。
自分が将来開業などをするとすべての知識が要求されるが、ちゃんと出来るかどうかが心配だ、と学生さんは言いましたけれども、今自分が診療しているすべての知識は専門分野をのぞけば学生時代に身につけてしまったもので、それが通用しているのだから心配することはないのです。
学生さんには、「是非後輩に伝えて欲しい優れたメタ知識」を伝えたい。そのひとつは胃粘膜萎縮の木村・竹本分類です。
科学的な思考には、ときにメタ知識は邪魔になってしまう事がありますが、メタ化の練習をしておくことで、「これはつかえる」「これはつかえない」と判断することが出来るようになるはずです。医学の勉強とはそういうものだし、それが出来ると勉強はずいぶん効率的になります。(以前、法律家に聞いた司法試験の勉強の仕方も全く同じでした。記憶力ではないそうです)