2011/08/11

脳内シミュレーション

木村分類亜型というような分類方法で我々は胃の萎縮をC-0〜O-3の7段階に分けている。

なぜそれが重要かというと、胃癌のリスク評価のためだけではない。

例えば胃酸の分泌量は、最高で2L/dayと規定しておく。

C-0 = 1.0、C-1= 0.9、C-2 = 0.8、C-3 = 0.7、O-1 = 0.5、O-2 = 0.35、O-3 = 0.2

という風に係数を設定しておく。

ピロリ菌除菌後の係数は x1.1〜 x1.5 とする。

アルコールなど刺激物を飲んでいる人の係数は x1.2 とする。

これで一日の患者さんの胃液量を推定する。

次に、患者さんの胃粘膜の防御について考える。

遺伝因子を大切にする。例えば親兄弟がNSAIDS潰瘍。

あとはもろもろの因子。内視鏡所見の見た目も重要で。



PPI は胃酸の分泌量を1/3くらいにすると仮定する。ただし立ち上がりは悪い。

H2RAは初日は1/3と効きがよく、あとは徐々に効きが悪くなってきて、主に夜間の(ヒスタミン依存性)胃酸分泌は1/3にし、日中は少し胃酸分泌を抑制する程度と仮定する。



ついでに、胃酸分泌が1/3以下になった場合には、鉄とカルシウムの吸収障害が起きるのでその長期的影響を考えておく。



数万人の患者さんの経験からこうしたシミュレーションで構わないと思っている。

私から見れば、萎縮性胃炎がオープンタイプ(O-1、O-2、O-3)の場合にPPIを長期処方するのは「余程のことだ」という事になる。(他院での処方で一番違和感を感じる部分)

ひとつのお薬を出すときに、こうした脳内シミュレーションをしてから処方する。胃酸分泌についてはこんな感じ。

まずは萎縮の診断を正確に。

6 件のコメント:

  1. はじめまして。突然のコメント失礼します。
    私は35歳の女性です。

    先生の記事を読ませていただきすごく勉強になりました。

    以前から夜間・早朝空腹時の胃痛と喉のつかえた感じがあり、胃カメラをしました。10年くらい前に除菌しています。

    ”GradeMの逆流性食道炎、Close Typeの萎縮性変化があり、幽門輪周囲より生検、扁平な隆起が前庭部前壁にあり生検”と所見に書かれています。(ちなみに、隆起は小さなものに見えます。)

    萎縮の分類については説明されませんでしたが、
    オメプラゾールが処方されたので、気になってしまいました。
    萎縮がCloseタイプであれば、逆流性食道炎にはやはりPPIが処方されるものなのでしょうか。

    教えて頂けると助かります。よろしくお願いいたします。

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  2. 匿名様
    よくこの記事を見つけましたね。驚きました。
    そして医師でもこの内容を理解する人は少ないと思いますが、しっかりとお読みになられたようで感心しました。
    一言で申し上げますと、匿名様が受けた処方は正しいです。Closedタイプでしかもピロリ除菌後であれば、PPIを処方するのは標準的です。

    以下読まなくても結構です。
    1)GradeM(色調変化型)の逆流性食道炎はほぼすべての人間に見られる所見です。間欠的な胃酸逆流はどなたにでも生じるため、色調変化は生じます。したがってそれは病的ではありません。
    2)Closed typeと書かれていることから、C-1、C-2、C-3のいずれかであろうと考えます。25歳の時に除菌という事であれば、C-1かC-2である可能性が高いでしょう。そうなると除菌後は胃酸分泌量はほぼ正常です。したがって、胃酸を抑えたい時にはPPI(オメプラールもその一種)を使うことはおかしくはありません。安心して下さい。
    3)幽門輪付近には、蠕動の影響で小さな隆起が出来るのが普通で、それらを詳細に観察すると中心部に小さな凹みが見られる事がほとんどです。きわめて稀なことですが、そこに腺腫と言われるような腫瘍が出来る事があります。その除外目的での組織検査であろうと考えます。それ以外では、腸上皮化生と呼ばれる変化もあります。いずれにせよ心配する必要はありません。腺腫ならば粘膜切除で良いのです。

    匿名様は、きちんと教育をされた内視鏡の先生におかかりになった、と思いますので安心して良いと思います。

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    1. 鵜川先生

      早々にご回答ありがとうございました。
      大変わかりやすいご説明で感謝しております。
      きちんと服薬して過ごしていますが、胃痛は変わらずあります。

      病理結果を聞いてにはなりますが、今後は(萎縮の度合いを知ったうえで)定期的に胃カメラを受けていきたいと思いました。祖母は胃癌で他界しています。気を付けなければ…。

      ところで、経験年数はものすごく浅いのですが、医療従事者でして(管理栄養士です。)お褒めのお言葉を頂きましたが、むしろ、まだまだ勉強不足といったところですね。。


      先生のほかの記事も興味深いものが多く、今後も読ませていただきたいと思います。

      ありがとうございました。

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  3. 匿名様
    若いころに除菌、委縮がC-2以下である場合、胃がんリスクは極めて低く、定期的な検査をするとしても3年に一度など、頻度を低く設定しています。(そうでないと、胃癌のリスクが高いグループの人々が検査を受けるチャンスを奪ってしまうためです。当院混んでいるので、胃癌食道癌ハイリスクの患者さん優先です。ちなみに胃癌は噴門部癌以外は家族歴は関係ないと考えています。余裕のある医療機関やドックでお受けになる場合にはこの限りではありません)
    それよりは痛みの解決のほうが大切だと思います。
    案外市販薬のほうが効いたりする場合もありますよ。そして「どんなお薬が効いたか」も病態をうかがい知るヒントになりますので、医師に伝えてください。
    痛みの原因については実に多彩ですから、痛みが解消しないときにも焦らず、医師とコミュニケーションをとるようにしましょう。

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  4. 鵜川先生

    ご丁寧な回答ありがとうございました。

    除菌をしても、結局のところ胃の痛みがあることは多く、不快感があったり、消化不良で嘔気があったり、ということはよくあります。
    除菌された方はやはり、胃の不調をその後も訴えたりする方が多いのでしょうか?

    症状があるときは、市販薬を利用することが多いですが、効く時と効かない時があります。
    オメプラゾールは眠前だけなので、朝だけ市販薬を服用するなど併用しても大丈夫かなと思い、少し試してみたいと思います。ありがとうございます。

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    1. 除菌で症状が取れるのは半分、という論文があり、それは正しいと思います。
      一方別の論文で、ピロリ菌陽性者の1/3は胃になんらかの不快感を持つ。一方ピロリ菌陰性者の1/2は胃になんらかの不快感を持つ、という報告があります。

      いろいろ工夫をしてみるのは良い事で、痛いときに白湯を飲むとどうなるかとか、ミントの飴は効くかだとか、いろいろお試しください。

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