「下腹部の痛み」を訴える患者さんが来院された時、下腹部のどこがどう痛いのか、という事をヒントにしながら考えるのですけれど、たくさんの病気がありすぎて最初は忘れているものも多いのです。
膀胱と膀胱周囲(前立腺を含めて)が原因である場合。
血管が原因である場合。
筋肉や骨が原因である場合。
子宮や子宮付属器が原因である場合。
小腸が原因である場合。
結腸・直腸が原因である場合。
それ以外の原因。
それらを思い出させてくれるのが自分にとっては超音波検査で、見ているうちにやっと色々な鑑別診断が頭の中に浮かんできます。こう書くと頼りない医者なのですが、本当に自分で検査をしなければ診断できないという情け無さであります。
このところ下腹部痛といえばS状結腸の痛みが連続していたので、患者さんの病歴を聞きながら病気を絞り込んでいこうとしてもどうも絞りきれ無い違和感を持っていたところが、実は痛がっているのは右だった、というオチでずっこけてしまいました。
触ればすぐに「あ~あ~」とわかるのですが、どうも「下腹部痛」と患者さんが仰ったのでそれを真ん中だと思い込んでしまったのは失敗でした。そんな事も、お腹を触ると明らかになりますので診察は取り敢えず全員やっとけ、と思います。
右だとわかり、一ヶ月も持続すると聞けばキャンピロバクター腸炎だとかの鑑別診断が思い浮かんで、あるいはベーチェットかもしれませんけれども、まあ原発性硬化性胆管炎だって良いわけですが、腸結核だってありますよ、ずいぶん色々でますね…、とにかく回盲部に炎症が起きる疾患も鑑別診断に入れれば良いわけですっきりしてきます。
さて、患者さんから一生懸命お話を聞くわけですが、これをカルテに書いたら一度忘れることにしています。
なぜかといいますと私が重要視しているのは「頭を真っ白にして得られた超音波所見が病歴と矛盾しないこと」だからです。なにも考えない状態で、「あれ?回盲部が浮腫んでないか?」と思うことと、上記の鑑別診断が矛盾しないとき、なるべく連想せずに別々の経路で同じ疾患が思い浮かんだときに自分としては診断がより強固になると感じるからです。
変な話ですが、一人の患者さんを自分の中の二人の医師が見て、別の診方で同じ結論が出れば良し、出なければ合議制、というような思考回路を使います。
意識してそうしているのではなく、私はいい加減なものですからあんまり考えておりませんで、検査の前に、それまで考えていたことを忘れてしまうからそういう事ができるのかも知れません。
三歩歩くとものを忘れてしまうニワトリ脳も、こういう時には役立つというものです。
検査が得意な先生というのは多かれ少なかれこのような思考をしているのではないか、と思います。答え合わせを無意識に繰り返しクオリティコントロールをしているのではないでしょうか。
二つの脳のテーマに引かれて読ませて頂きました。
返信削除先生は、常に新鮮な見方をされており、勉強になります。
超音波検査も、充分に修得されている先生のお話はよく理解できます。
おお!
返信削除こちらにコメントいただくとうれしいです。
医者のQuality Controlの方法をずっとテーマにしてきていて、「三歩歩くと忘れる頭の悪さ」が逆に良いんじゃないかという、逆転の発想でござる。