2009/09/14

結腸憩室症

結腸憩室症・・けっちょうけいしつしょう・・と読みます。
結腸だけでなく、消化管ならばどこにでも、食道にも胃にも十二指腸にも小腸にも憩室というものができます。袋状に粘膜が管外に脱出した状態です。
「休憩室」の「憩室」です、などと説明しますが、時々悪さをしますので困ります。

下にイラストを書きました。粘膜の一部分が、ぽこっと外側に飛び出た状態なんですが、伝わりますでしょうか?

外側に飛び出しているだけならばそんなに困ること無いはずですけど、炎症が起きますと扁桃炎などと同様になかなか治りにくいものです。そして脱出した粘膜から出血することがあります。また、憩室ができる方には、ガスなどによる腹痛を訴える方も多く居られます。

有病率はなんと4割、内視鏡を受ける患者さんのうち約半数に認めるありふれた状態です。

この憩室に細菌が入りこみ炎症を起こすことを「憩室炎」と言います。急性虫垂炎になる人が約2割と言いますが、憩室のトラブルも、憩室症の方の約2割に起こるといわれます。一生のうち一回でも起きれば、それはカウントされるので2割が多いのか少ないのか、その判断は皆さんにお任せします。他の統計では毎年1%というものもあります。

実際の写真は下に示します。





よく憩室症には水分と食物繊維と言いますが、この食物繊維という言葉には罠があるのです。

大切という繊維ですが、それは水溶性の繊維の事です。水溶性と言うのは水を含むとブヨブヨになる性質を示しています。それは効率よく色々な物を吸着して腸の中をきれいにしてくれますし大便の形や硬さを上手に調節してくれます。不溶性というのは文字通りで、水分を吸収しない繊維を示しています。例えばゴボウなどの根菜。水溶性と不溶性の違いはというと、廊下を雑巾で拭くか、ほうきで大雑把に掃くかくらいの違いがります。困ったことに不溶性の繊維は小腸での消化吸収を邪魔するので、小腸で吸収しきれなかった糖質が大腸内に増加する事となり、結果として発酵が活発となりすぎてガスが多くなります。このガスが憩室症には非常によくないので避けた方が良いのです。

では、水溶性、不溶性、どうやって区別すれば良いのでしょう。勉強して覚える必要はありません。①水でふやける様な食べ物は水溶性、②水につけても姿が変わらない物は不溶性と判断すれば良いのです。ゴボウは水につけても何も変わらないから不溶性。お豆やフルーツ、穀類はふやけるので水溶性と判断します。不溶性繊維が悪いとは言っていませんが、合わない人がいるのです。

水は一日2リットル以上飲むことを心がけると良いとされていますが、できれば食事といっしょに摂取した方が大腸には良い影響があると思われます。

私見ですが整腸剤も大切です。多発した憩室症の患者さんには整腸剤を処方する場合があります。自覚症状の改善に役立ちます。(予防が出来るかどうかは検討しておりません)

上記のような心がけでトラブルを予防しても炎症が起きてしまった場合、なるべく早期にエコーなどで診断をし、ニューキノロン系の抗生物質を使うと著効することが多く入院を回避できます。

一方、この憩室の粘膜は薄いので出血も起きやすいのです。

高齢になると、加速度的にS状結腸の憩室症の有病者が増加します。70歳以上では非常に多くなります。また出血などの合併症が多く、虚血性腸炎との鑑別が重要ですが、稀に命取りになります。実際内視鏡をしていると、高齢者の大腸は非常に緊張が強く、その理由がまだわかりません。バイアスピリンなどの抗血小板薬を使用している患者さんも多いので困った問題です。この内臓の緊張が強いのは手足の緊張が強いのと同様、末梢神経障害なのでしょうか。

ではいざ出血した場合に止血をどうするかというと、注腸バリウムを行うことがあります。粘度の高い液体で、出血点を封じ込めるという古典的だが効き目のある方法です。

アメリカでは手術での治療も多く、私が勤務していた病院では毎週のように症例がありました。

日本では保存的に治療をすることが多いと思います。憩室を裏返して内視鏡で止血することは不可能ではありません。アメリカでの実験的なライゲーション(ゴムで結紮する)による治療を見てきましたが、それを応用した手法を日本でも知人が発表した事があります。しかし、その手技は労力に対して利益が少なすぎ、二酸化炭素などを使用しなければ長時間にわたる検査は患者への侵襲も大きく、あまりお勧めの止血法ではないような気がします。出血点が幸い特定できればクリップなどでの止血が行われます。大量出血の場合は血管造影も行われると思いますが、症例は多くはないでしょう。

ところで横浜市大時代お世話になった多羅尾先生が、先日の神奈川消化器で驚くべき発表をなさいました。「長期ランニングによって上行結腸憩室症が治癒した一症例」というものです。憩室症は治らないと思っていた私は、衝撃を受けると同時に感激しました。実際の発表を拝見できなかったのが残念ですが、今後は「憩室症は治るかも」と患者さんに積極的にアピールしていこうと思います。

4 件のコメント:

  1. 78歳になる妻が腹痛がひどく入院して検査をしてもらったところ小腸の憩室炎と診断されました。今年3回目の痛みでしたがこれまでは見過ごされたようです。
    完治のためには手術をと言われていますが、老齢なのでどうすべきか悩んでいます。手術は開腹と腹腔鏡によるものの2種類あるそうですが体力的に開腹手術は大変ではないかと思いますが どうしたものでしょう。
    手術をしないでも治る方法はあるのでしょうか。
    ご教示ください。必要とあらばCT写真も送れると思います。

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  2. 匿名様
    小腸の憩室炎を診断するのは極めて難しく、今年3回目の痛みで診断できたという事は、おかかりの先生は非常に優れた先生であるのは間違いないことです。
    完治のためには手術、これは本当で、しかも癒着があることも考慮して腹腔鏡をメインにしつつも開腹術を考慮するという戦略も正しいと思います。

    あとは患者さんがリスクをとることが出来るかどうか決心することです。
    今までの人生、これからの人生、手術のリスク、これらをすべて考慮して人生の選択を出来るかどうか、そして主治医の先生に自分の人生を託す、という事ができるかどうか。重い選択ですが避けることは出来ません。頑張ってください。

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  3. 初めまして。10月から2月までの5ヶ月間に5回出血しました。
    バリウム検査で右下腹部の方の大腸に 8つ憩室が出来ていました。
    消化器外科のドクターに 短期間に出血が何回もあったので 緊急手術にならないように腹腔鏡で腸を切りましょう。と言われました。
    最初に診察してもらったドクターは 炎症がある時は 入院して治療と言っていて 手術とは言ってなかったので ちょっと悩んでいました。
    アドバイスを頂けたら嬉しいのですが。
    宜しくお願いいたします。

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    1. 匿名様、大変だったことでしょう。

      頻回の入院加療は患者さんの生活のトータルの質を下げ、手術のリスクを上回りますし、緊急手術や輸血のリスクも回避したい外科の先生のご意見は理のあることと思います。

      憩室「炎」の場合には手術をすれば良い、とうものでもなく、保存的に診た方が良い場合もあります。そして何度も出血を繰り返すという例は多くないので、手術に言及されなかった最初のドクターの仰ることも理解が出来ます。

      あえて別のご意見を聞いてみたい、とう場合には、最初の診察をして下さったドクターに現在の状況をお伝えになってみる事をおすすめいたします。

      お答えになっておりますでしょうか?

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