友人から紹介された「調香師の手帖(ノオト)」を読み直した。
二回目なのにどうも内容を全く覚えていなくて、「ああ面白い」ともう一度感心しながら読み終えた。これはどうも自分の記憶力もそろそろ下り坂だぞ、とわかって「銃・病原菌・鉄」の二回目を読み始めたところだ。マクニールの世界史なんて、まだ表紙しか読んでいないのにもう読んだ気になっているので、本当は「銃・病原菌・鉄」もまだ読んでいないのかもしれない。
調香師のノオト、のノオトは、オリエンタル・ノートとか、グリーン・ノートなどと言う香りの呼び方とかけている。とりあえずジャンパトゥのJOYっていう高価な香水が天然のジャスミンの香りなんだっていうのを覚えておけば良いのかもしれないけれど、どうしても普段の仕事が仕事なので、うんこの匂いのスカトールも薄めるといい匂いとか、そういうネタばかり頭に入ってくるのはしょうがないのだ。
◆竜涎香はマッコウクジラの体内に出来る。とてつもなく高価な香料だ。
そして高価な天然香料も材料の成り立ちを知るとぎょっとするものもある。竜涎香(龍涎香:りゅうぜんこう アンバーグリス)がそれ。だってクジラの消化管の中で食べかすが発酵して固まったもので、糞便みたいなものだ。そして竜涎香は香りの分類でいうとアニマル・ノートという事になる。
麝香(じゃこう)と並ぶ高価な天然香料の代表格、竜涎香を作るのはクジラの中でもマッコウクジラだけ。
なぜマッコウクジラだけ?不思議に思わないだろうか。
◆なぜクジラでもマッコウクジラなのだろう?
竜涎香は胃石のように消化管で出来る石で、大きいものでは160kgもあるという。
マッコウクジラが消化しきれなかった食べ物が消化管内で固まったものらしい。
時々マッコウクジラが吐き出すが、あるいはそれが原因でイレウスになって死ぬこともあるという。
吐き出したもの、あるいは病死したマッコウクジラのそれが海流にのって海岸へ漂着すれば、それは1kg200万円で取引される竜涎香だ。
マッコウクジラの肉質は油っこく食べられないそうだけれど、かつては良質の油や、あるいは竜涎香採取のために捕獲されていた。
マッコウクジラだけに出来る理由を探した。
直接の答えはなかったけれど、推測は簡単だった。
哺乳類の消化管の長さを比べた表がWikipediaで見つかり、マッコウクジラは地球上の生物でダントツの1位。消化管が300m近くあって長いから。
◆消化管が圧倒的に長い
地球上で第2位であるシロナガスクジラですら140m程度だそうだから圧倒的。クジラ類の中ではイカなどを捕食する特異的なクジラだから、消化に時間がかかるので長くなるのだろう。(他のクジラはオキアミとかプランクトンとかを食べる)
ダイオウイカと戦うのはマッコウクジラでなくてはならない。そういう絵があるように記憶しているけれど、ちゃんと意味があるのだ。モビーディックはもちろんマッコウクジラだ。
特異的に長い消化管だからこそ竜涎香が出来やすい環境なのだろう。食べたものが消化しにくいもので、かつ発酵で成分が変化して粘調になりくっついてやがて石化していくのだ。
先日、クジラのお腹をつっつくと爆発する動画がネットにながれていたけれど、
見た瞬間、「あ、マッコウクジラに違いない」と思った。
動画で腹に穴をあける人は「やるぞ、やるぞ」とすべてがわかっているような動作をしているので結果をもちろん知っていたに違いない。
死んで何日か経つと発酵して産生されたメタンなどで腹が爆発するのは恐らく珍しいことではない。
それが起きやすいのは当然消化管が一番長いマッコウクジラだ。
あの動画の後日談は知らないけれど、きっと竜涎香を探したのだろう。大変な苦労だと思うけれど、1kgでも見つかれば元は取れるのだから自分なら頑張って探す。
◆マッコウクジラは神秘のクジラだ
マッコウクジラは不思議なクジラだ。深海に適応し、潜水病にならず、その秘密は英名の"sperm whale"に暗示されている精液様の頭部の油やそこに分布する血管にあるらしいが詳細は明らかになっていないとのこと。(油は極性が少なく、水に比較すると10倍ほど気体が溶けやすいという記述をインターネット上に認める。これが急に減圧した時の空気塞栓を予防する秘密だと想像するのは易しいが細かい挙動に関してはよくわからないという事であろう)
◆Ocean Cleanupプロジェクトは竜涎香を沢山発見出来るかもしれない
Boyan Slatという青年が提唱した"The Ocean Cleanup Project"という、海のプラスチックゴミをきれいにしようという運動があるのだけれど、これは竜涎香探しにおあつらえ向きの発明だ。
興味をもって見守りたい。
竜涎香を日本の海岸で探したい人はこちら→竜涎香「浮かぶ金塊」を探そう
身体の中で出来る石を人類は珍重するお話はこちら→胆石のできやすい人
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