自分はアラン・チューリングの天才性が好きで、寺田寅彦も好きなので、キリンの模様がどう出来るのか、という話も好きです。何の話かですって?
寅彦の弟子に平田森三という物理学者がいて、ヒビの研究者として有名なのですが、彼はキリンの模様を見て「成長とともにひび割れたのだ」と閃き1933年岩波書店『科学』に投稿します。これに対して動物学者が「非専門家が何をいう」と噛み付いて延々と論争が繰り広げられたという話です。すでに大物中の大物だった寺田寅彦が手打ちを促したとのこと。
こうした論争に決着をつけたのは天才数学者、第二次世界大戦を4年早く終結させたと後世賞賛されるアラン・チューリングです。化学反応が生み出す波が生物のパターンを作る、と数式を使い仮説を発表したのです。これはチューリングパターンとして知られますが、論文は彼が差別により不遇の死を遂げる2年前、1952年の事でした。チューリングのこの仮説は説得性があって、大阪大学の近藤先生により自然界にある事実だと確かめられた1995年には世界中の注目を浴びました。近藤研究室のホームページは以下のリンクからどうぞ。
https://www.fbs-osaka-kondolabo.net/
私は以前よりこの近藤研究室のWebサイトを購読しているのですが、ノーベル賞の本庶先生の弟子だとは初めて知りました。(NHKの記事)本庶先生の研究姿勢が厳しい事は知られていて、私はそういう雰囲気から傑出した人材が生まれるのか懐疑的だったのですが、「好き」はすべてを凌駕するのですね。とても感動しました。
その近藤研究室のブログの模様の記事は大変に面白いです。チューリングパターンとヒビは本質的なところで似ているというのです。
https://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/skondo/saibokogaku/categories/scientific%20columns/torahiko.htm
冒頭にある美女を侍らせる寺田の写真は現代のポリティカルコレクトネスの考え方からは受け入れ難い側面はありますが、内容は興味深く、天国で平田先生もチューリング先生も「そうそう、論争するような事じゃない」と言っていそうです。
ある日自分の夢で「スイカの模様の意味を述べよ」というテストの問題が出ました。
その時に考えた答えは、チューリング・パターンではなく、平田の「ひび割れ説」でした。スイカのひび割れ模様がある部分にタネがある、などという言説をインターネットで読んで、確かめて見たくてしょうがないのですがまだできていません。どなたか。では、自分がひび割れに肩入れしてしまうのはなぜなんでしょう。やはり大腸メラノーシスをいつも見ているからなのではないか、と思うのです。大腸の内視鏡写真を出しますよ。ほらね。
大腸メラノーシスとは、センナなどアントラキノン系の下剤を長年使用したときに大腸粘膜が着色してしまった様子をあらわす用語です。この状態になりますと腺腫(ポリープ)ができやすいとも言われますし、アントラキノン系の下剤は徐々に効果を失って大腸が動かなくなり手術が必要になる方がいますから、ぜひとも脱センナをしなければならないと日々注意しています。その大腸メラノーシスの持つ模様がちょうどキリンの模様とそっくりなのです。この着色は粘膜の成長とは関係ないように見えます。むしろ伸張/収縮と関係しそうなイメージ。だからひび割れが連想されるのです。
自然界には多くのチューリングパターンが存在しています。近藤研究室のブログはとても面白いので是非読んでみて下さい。
この模様も内視鏡で見える消化管粘膜のパターンです。チューリングパターンっぽいでしょう?きれいですよね。