胆石については今まで「絶食と胆泥」だとか「胆石が出来やすい人」という記事を書きました。世の中には胆石について「脂っこいものを食べるからだよ」という間違った知識が蔓延しているから、それに対して異議を唱えたわけです。逆にさっぱりしたものを食べている女性でも胆石が出来る理由を説明したのです。犬の胆石のでき方は違うだとか、ロセフィンでの胆石のでき方は犬のそれと少し似ているなどの知識も派生的に得られて自分にとっても役立ちました。では治療についてはどうかというと今まで書いていなかった事に気づきました。
脱線しますが胆石の大きさと、胆嚢の収縮リズムは関係あるだろうと当然思うわけです。6mmの胆石が3個あるご婦人を経過観察しているときに、その3年後には3個が3個とも大きくなるのではなく、6mmのものが増えている、そういう経験をします。それが「リズムが大きさを決定する説」の根拠です。したがって患者さん固有の胆嚢収縮リズムがわかれば胆石が出来る出来ないが予言できるのではないか。
そして胆石が大きい時に、患者さんに「痛くなるリスクは低いんじゃなかろうか」と説明するときには、二つの理由で説明が可能です。一つは風呂の栓がゴルフボールならばぽこっとはまるだろうけれども、フットサルのボールぐらいになると逆にはまらないでしょう?という説明の仕方。もう一つは、大きな胆石を育てるには胆嚢の動きはゆっくりとしたリズムであるはずで、したがって胆嚢の内圧の変化は緩やかであろう、という説明の仕方です。ただ現実の世界ではそのリズムというのは1周期が何時間だとかいうものでしょうから、証明は困難かもしれない。
なぜこうしたことを考えるのかというのは以下を読めばわかることでしょう。
今回の記事は本消化器病学会の胆石症ガイドブックを参考にします。
エコーで胆石が見つかった時にどうするか
1)症状があるとき:手術
手術までの間、コスパノンという薬を使う場合があります。
他にはニトログリセリンやカルシウム拮抗薬を使う場合があります。
症状がある時には油ものは食べないよう指導します。
なるべく早く外科に紹介しますが、すぐに手術にならない場合もあるため上記のような方針としています。
2)症状がないとき:治療しない
理由:発作が起きる人が年間2~4%だから。
ただし、
1)小さな結石が多数ある人
2)胆嚢管に結石がある人
3)胆嚢が全く動かない人
4)若年者
は発作の危険性が高いので手術を考慮します。
あるいは胆嚢の壁が厚い人、全く胆嚢の中が見えない人も手術を考慮します。
血液検査で胆道系酵素が上がっているときにも治療を考慮します。
リスクが低い人でも発作が起きる可能性はゼロではありません。このため患者さんにはお財布に胆石の写真を入れておいていただき、発作が起きたらすぐに病院へ行き写真を見せるよう指導しています。
エコーで胆石が見つかった時に、私は食後のエコーを検査することがあります。患者の胆嚢収縮の程度を参考にしたいためです。また、総胆管を良く見ようと努力します。
リスクが高そうだと判断したときには治療をするまでのあいだコスパノンを処方する場合があります。ウルソ(UDCA)を処方する場合もあります。そしてMRCPを依頼します。MRCPでは総胆管結石の他、胆嚢内部の評価ができ、膵胆管合流異常症などもわかりますし重要です。
リスクの低い人に、しかも石灰化のある結石の場合、UDCAを処方する事は当院ではしていません。UDCAは肝炎、PBC、原因不明の肝障害、胆泥などで使うことが多い薬です。
3)手術にはどういう種類があるか
腹腔鏡手術には2種類あり、ひとつだけおへその部分に穴をあけて治療をする単孔式手術が可能な施設も増えてきています。
癒着が強い場合などは開腹手術が必要な場合があります。
患者さんと相談して紹介先を決めています。
4)胆石は薬で溶けるか
完全なコレステロール結石は稀なので、あまり効果は期待できませんが、コレステロール結石の場合には6~12か月の間UDCAを服用して経過を見ることもできます。
5)手術をしても平気なのか
術後に総胆管結石が見つかったりなどの偶発症は本で読んでいただいて、ある程度時間が経ってからの合併症について述べます。
1)手術後に胆管の圧力が上がる事が不快で痛いと感ずる人がいる。
もともと胆石の通過で乳頭部に炎症が起きたりしていた人はこうした症状を呈する場合が多いような気がしています。コスパノンを処方します。
2)食事が脂っこいと下痢をしやすい人がいる。
胆汁を溜めておく胆嚢がないので消化障害が起きる人がいます。消化剤を飲むことで対処が出来ますがこれを知らない方が多いようです。外科で処方して下さらない場合には我々が処方します。以上2つは胆嚢摘出後症候群と呼びます。
3)胃に胆汁が逆流する場合がある。
もともと胆石の出来たぐらいの時から胃内に胆汁は逆流する場合があるので影響は軽微です。多少腸上皮化生が強いかなと思う場合はあります。
これらには例外事項、あるいは患者さんの背景によって異なる説明をする場合がありますので、消化器外科、ないしは消化器内科の医師に相談して下さい。