まだ胆嚢ポリープが胆嚢癌になった症例を、私は見たことがありません。何万人も見ているのにまだ見つかりません。もう、一生見つけられないかもしれません。(この記事を書いて10年以上経過してから経験しました。ゼロではない)
通常、早期癌を一症例見つけると二千万円くらいの社会的な貢献になるという計算を見たことがあります。
個人的にはその10分の1、つまり一人の早期癌を見つけるために200万円のお金をかけるのは許されるのではないかと思っています。大腸癌は内視鏡で2%の有病率なので50人の患者さんを拝見すれば見つかりますから1例あたりわずか100万円で見つかります。胃癌は特定のリスクがある患者さんを選ぶと同様の割合ですからやはり100万円から300万円で見つかります。消化器癌は内視鏡で検査するべきと主張する理由がここにあります。一方同じ消化器癌でもバレット癌は非常に発見効率が悪いので、それが多いヨーロッパですら「内視鏡にコストベネフィットなし」と結論づけられています。したがってピロリ菌のような明確なリスク因子が発見されるまで、内視鏡でのサーベイランスは合理的ではないとされてしまいます。(しかもラジオ波焼灼で先に治療をしてしまえば、さらにサーベイランスの意義が無くなってしまいます。もはやバレット癌は恐れる病気では無くなったと、欧米で盛り上がりを見せている理由はそれです)
胆嚢癌は、疫学によれば剖検例の0.2%~1%に見られるという事です。つまり私が胆嚢ポリープだと思っているものの中に多くの癌があるという事です。それでも胆嚢癌で命を失う人がいないという事実は、甲状腺癌と同様に害を及ぼさない癌が多い可能性を示唆します。一方で、胆嚢癌が発見されたのちは死亡率が高いというのが解せません。しかもその成長過程を私が出会った事がないというのはさらに解せない。(もちろん進行癌では見た事があります)
それを説明するには、害を及ぼさない癌がほとんどである一方で発育が極端に早いものがあり、1年に1度のスクリーニングでは容易に早期癌が発見できないのではないかという仮説を立てねばなりません。
だとすれば、チャンスはポリープを見つけたその時一回だけという事になります。エコーでポリープがある全員を3ヶ月毎にサーベイランスするというのではコストベネフィットがありません。何しろポリープはしょっちゅう見つかるのです。
したがって今重要で、しかも私に出来る唯一の事は、あとで残念ながらポリープが癌化したときに、さかのぼってそのエコー像がどうだったのか、という事を正確に記録に残しておく事です。と言っても経験がないので一生役に立たないかも知れませんが、それでも最高の機械で最高の記録を残しておく事が医学に貢献する可能性があります。
(2023年現在ではポリープ内の血流を見る事ができるようになりました。また、いかに良い条件で胆嚢を見るか、が大切だと確信しています。したがって腹部ガスで胆嚢が見えなくなることが多い高齢者が鬼門です)
内視鏡だってそれを繰り返して発展してきたのです。どういう腫瘍が進行しやすいのか。
今では上部内視鏡では「褪色した陥凹を見つけろ(それが未分化癌で進行しやすいから)」というのが常識になっていますが、それがわかるまでは大変な努力が必要だったのです。
胆嚢ポリープを当院で見る、というのは以上のような意味があり、残念ながら患者さんを安心させるためではないのです。それが理解できる患者さんは当院で検査を受けると良いと思います。
腹部エコーをやり始めた初期
返信削除(教科書もない時代に)
胆のうに,結石以外のものを見つけて(今考えるとほとんどポリープ)癌の疑いと外科に紹介手術して貰っていた中に,早期癌が1例のみありました。他は全てポリープ。(短期間でポリープって,いわれるようになりましたが。)
そんな時代もありました。。
kema先生、
返信削除思うに当時、沢山手術された事で「silent cancer」としての胆嚢癌と、進行する胆嚢癌がごちゃまぜになった可能性があると考えているのです。
粘膜下腫瘍の経過観察と、胆嚢ポリープの経過観察にはブレイクスルーが必要で、そうでないとあまりにも非効率。
剖検とも組み合わせた症例の蓄積がきわめて重要なのですが、望み薄です。久山研究でなんとかならないだろうか・・・。
以前エコー上胆嚢ポリープと診断されていたのですが、去年検査してもらったら無いと言われました。消失してしまったのか、あるいは単に脂肪が厚くて見えなかっただけでしょうか。
返信削除1)コレステロールだから溶けることがある。
削除2)機械(人)がかわって見つからなかった。
3)前回のがアーティファクト。
4)脂肪が厚くてプアスタディ。