スピード感は臨床の現場では大切だ。
例えば胆嚢炎が疑われた場合、当院で血液検査すると結果が翌日、翌々日になるのですぐに基幹病院に紹介するのだけれど、診察が終わったら電話してねってお願いしたりする。
病院で入院適応があるような状態かどうかを診ていただいて、入院ならばそれでこちらの役目は終わりだが、外来フォローとなった時にはすぐに当院でフォローしたほうが失敗が少ないからだ。
胆嚢炎のきっかけとして総胆管結石の通過が考えられる時にはすぐさま十二指腸を内視鏡で見ておきたく、あるいは某乳頭憩室も除外診断で、あるいは全然関係なく消化性潰瘍だってありうるので内視鏡をしておく意味がある。その検査を当日あるいは翌日に基幹病院ですぐに出来ないような時もある。そういう場合にはうちですぐに検査をしてしまわないと大切な証拠を逃してしまう。
もう一つの目的は2-3件の医療機関の処方が混乱した状態になるのでそれらをもう一度チェックし直したい。
そういう理由があることを患者さんに伝えると、その時にすでに症状は取れていたとしても「診断がつかないリスク」をきちんと理解し、証拠集めが重要で、その証拠は素早く集めないと消えてしまうと判断が出来る患者さんがちゃんといて、医者に言われたから受診のあとに電話をする、のではなく自らの判断で経過を伝えてくれる。こういう、判断がす早く出来る人は助かる(二重の意味で)。
時間には、スピードとリズムとがあると思うが、その概念の捉え方において、患者さんとのギャップを時々感じる。
患者さんが自分で悪性疾患を疑ったときには顕著で「とにかくなんでもいいから早く検査をしてほしい」になるが実際には患者さんが1日2日にこだわるメリットはなく、むしろ質の低い検査を急いで行うデメリットすらあり、ギャップが生まれる。
急性疾患の場合「すぐ検査をすれば証拠が見つかるのだが」と検査を勧めるが、患者は「今は忙しい」という判断をする場合がありギャップが生まれる。
スピードが必要な疾患とそうじゃない疾患があり、またリズムも千差万別である。それが医者個人が持つ臨床のセンスであって、患者さんにはそれを敏感に感じてほしいと思う。
臨床のリズムに乗れるかどうか、は患者さんの運命を左右するのだけれど、生活のノイズに振り回されてしまうことも多く、ほどよくスイング出来る人は多くはないかもしれない。
病気になったときに備えて生活に余裕を常に持たせたり、人とのコミュニケーションを密にしてお互い助け合える人は、自分から見るとリズム感のある人々だ。
2019/09/23
アルツハイマー病(AD)を根本から予防・治療できるか(2019年1月23日号Science Advances)
NASDAQに上場している創薬ベンチャーCortexymeからの論文、アルツハイマー病(AD)の原因が歯周病菌(Porphyromonas gingivalis)であるという大胆な仮説が提示され詳細に検証された。
現在彼らはThe GAIN (GingipAIN Inhibitor for Treatment of Alzheimer’s Disease) Trialを実施中。
現在彼らはThe GAIN (GingipAIN Inhibitor for Treatment of Alzheimer’s Disease) Trialを実施中。
Porphyromonas gingivalis in Alzheimer’s disease brains:
Evidence for disease causation and treatment with small-molecule inhibitors
Evidence for disease causation and treatment with small-molecule inhibitors
アルツハイマー病の脳内に存在するP. gingivalis:
病因の証拠、および小分子阻害剤を用いた治療
病因の証拠、および小分子阻害剤を用いた治療
実験1
ADの脳組織と正常の脳組織を50症例前後で比較した。歯周病菌P. gingivalisが分泌するタンパク分解酵素gingipain(KgpやRgpA、RgpB)に対する抗体で調べると、AD患者では非常に高値を示し(グラフがlogスケールになっている)さらにタウ・タンパク質との強い相関が示された。
ADの脳組織と正常の脳組織を50症例前後で比較した。歯周病菌P. gingivalisが分泌するタンパク分解酵素gingipain(KgpやRgpA、RgpB)に対する抗体で調べると、AD患者では非常に高値を示し(グラフがlogスケールになっている)さらにタウ・タンパク質との強い相関が示された。
RgpB(アルギニン・ギンギパインB)はAD脳で多く、 さらにタウ・タンパク質の量も多いことを示した。 |
実験2
さらに組織学的に海馬のニューロンおよびアストロサイト内にgingipain(RgpB)が存在することが示された。マイクログリア内にはない。さらにタウ・タンパク質やアミロイドβ蛋白(Aβ)と、細胞内での局在が一致していることが示された。
実験3
ADでは大脳の灰白質の萎縮とも関連するけれど、Gingipain(Kgp)は、AD3症例すべて、コントロールの6症例中5例で灰白質中にウェスタンブロットで検出されている。陽性症例では大脳内にP. gingivalisの遺伝子が証明された。歯周病菌はほぼすべての人間の脳に侵入していることが示唆される。
実験4
実際のAD患者の髄液を調べるとPCRで高率に検出され、唾液PCRででは全員に検出された。一方H. pylori感染者では髄液に遺伝子は検出されない。バイキンならなんでも入るってものでもなさそう。
実験5
Gingipainは蛋白質分解酵素だが、タウ・タンパク質が短時間でgingipainで断片化されることを示している。(ADの引き金の一つは神経細胞内に異常なリン酸化タウが蓄積することで、これはAβの増加に誘導されると言われていた)さらに切断部位(222あたり)がタウもつれ(異常なタウの集合体)に多く存在していることから断片化が異常なタウの集合体形成に関与することを示した。
実験6
培養神経細胞に対するP. gingivalisの細胞障害性実験系を構築した。Gingipainを神経細胞に暴露すると細胞凝集が生じる。 そこで小分子gingipain阻害剤のライブラリを開発した。COR286、COR271と名付けたgingipain阻害剤が細胞毒性を濃度依存的に阻害し、Aβの関与は認めなかった。さらにin vivoではマウスでの神経変性をブロックできた。
実験7
もう一つのAD原因因子アミロイドβタンパク質(Aβ1–42 )との関係を明らかにした。Aβ1–42 は抗菌物質であるとされていて、実際P. gingivalisの感染により脳内にAβ1–42 が誘導されることを示している。ただしgingipainをノックアウトしたP. gingivalisあるいはKgp阻害剤COR119を投与したマウスはAβのコロニー形成が起こらない。これはAβの存在にはgingipainが必要であることを示す。Aβの集積はP. gingivalisに対する防御反応であることを示唆する一方Aβ1-40では抗菌活性が落ちる事が示され、これはSelectase(Aβ蛋白を切断する物質)の変異がADを発症しやすくするという過去の論文の根拠となり得る。
実験8
マウスへのP.gingivalisの感染実験系を確立し、Kgp阻害剤COR286、COR271が海馬神経の変性を抑制することを示した。COR271をさらに改良したCOR388を開発し、そのプローブなどを用いて性質を精査した。そしてこれに対する耐性が発現しないことを確認し、治験が開始された(ClinicalTrials.gov NCT03331900)。
考察
脳内のP. gingivalisとgingipainがADの病因において中心的な役割を果たし、疾患治療の新しい概念的枠組みを提供する証拠を示した。Gingipainの阻害剤が脳への細菌感染を防ぐ可能性があり、現在治験中である。
Gingipainを産生することが知られているポルフィロモナスには、Porphyromonas gulaeがあり、犬に感染している事から人間に感染するのかについては検討が必要である。
Aβは抗菌物質であるが、高レベルのAβは有害であるためその意味でもAβ軽減作用のあるKgp阻害剤は有効であるかもしれない。
検討していないがこの細菌、あるいはタウタンパク質は神経の走行に沿って広がりを示すという興味深い結果が示されている。
今回はApoE4(もう一つのADリスク)について考察されていないが、ApoE4がgingipainのターゲットでありApoE2、ApoE3より切断されやすく神経毒性フラグメントを生成するという論文がすでにある。
抗生物質はこの細菌には効果はない。
細胞内炎症の個人差や、細菌に対する自然応答が人により違うこと、特に21トリソミー患者での高率の歯周病感染率が抗菌物質Aβが21染色体上にあることと関連するのか、gigipainがタウタンパク質の代謝回転に異常を来す詳細な機序などについて、まだまだわからないことは多いけれども、現状ではCOR388がタウ・タンパク質の異常な集積を抑制し神経変性をブロック出来る可能性を強く示唆する証拠が多く見られているので興味深く見守りたい。21トリソミーに関しては彼らの若年からの中枢神経の変性を抑制できる可能性もあるので夢が広がる。ちなみに歯をいくら磨いてもアルツハイマー病に関しては無駄だと思われる。むしろ人間側の反応の違いに左右される。脳動脈瘤はじめ、腹部大動脈瘤にもP. gingivalisが検出される。つまり普通にしょっちゅう菌血症になり、侵入すると思われる。抗菌剤よりは原因酵素の阻害のほうが合理的な答えだ。
NASDAQ GS: CRTX は上場したばかりである。
COR388の臨床治験は第2相
PfizerからシリーズBのファイナンス 76ミリオン
https://www.cortexyme.com/?p=6475
この治験は長期化する可能性はあるが、途中でCNSにおけるPCRでの評価が可能など、短期で結果が得られそうなところも良い。調達額としては合計数百ミリオンが必要だが、上場で企業価値は700ミリオンを超えており、ストレートに行けば増資せずに上市は可能だ。
ただし実際には未知の副作用はあるかもしれないので、投資としては「夢を買う」程度にしておきましょう。
https://www.cortexyme.com/?p=6475
この治験は長期化する可能性はあるが、途中でCNSにおけるPCRでの評価が可能など、短期で結果が得られそうなところも良い。調達額としては合計数百ミリオンが必要だが、上場で企業価値は700ミリオンを超えており、ストレートに行けば増資せずに上市は可能だ。
ただし実際には未知の副作用はあるかもしれないので、投資としては「夢を買う」程度にしておきましょう。
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