2018/11/26

あざ(内出血)ができたときのチェック事項

知らないうちにあざができている、そういうときは、以下の症状がないかどうかを調べて下さい
・めまい
・極端な体力低下
・気を失う
・低血圧
・見え方がおかしい
・感覚異常
・片麻痺
・強い腹痛
・息切れ
・胸痛
・嘔気・嘔吐・下痢
・手術で血が止まりにくいと言われた。
・最近お薬をはじめた。
・家族も同様にあざができやすい。
・手足でなく、体幹部、背中、顔に出現する。

例えば血小板減少や凝固異常による内出血の時には頭蓋内出血も起きている事がありますから、片麻痺や感覚異常、強い頭痛、嚥下困難、視覚の異常、構語障害、意識消失などが出現します。
シェーンラインへノッホ紫斑病では腹痛が起きることが多いです。

アスピリン・抗凝固剤・抗血小板剤は青あざの原因となります。
アレルギー・喘息・湿疹などに使われる経口ステロイドは皮膚を薄くするのでやはり青あざはできやすくなります。
イチョウ葉エキスも同様です。
病院では、血小板数の他に、出血時間を調べます。凝固異常のスクリーニング検査として有用だからですが、普通の開業医では出血時間は調べない事があります。(PT-INRなどでは不十分です)
深刻な暴力や虐待がないかについて必ず医師はインタビューします。

それらが異常がないとされたとき、多くは皮膚が徐々に薄くなってきたためにできやすくなったのではないか、と説明されるでしょう。

その場合の予防法ですが、
・照明を明るくしましょう。
・階段にはラグをかけておきましょう。
・電気コードや家具が乱雑にならないようにしておきましょう。
・薬を今一度チェックしておきましょう。
・目か耳が悪くなっていないかどうかチェックしましょう。

一般的に女性は男性よりもあざができやすいとされますが、これは肌に脂肪が多くコラーゲンが少ないからではないか、とJeffrey Benabioは述べています
また、Dawn Davis, MD (Mayo Clinic)は、女性は皮下に脂肪を蓄積する傾向がある他に、エストロゲンにより血管脆弱性が起きることも指摘しています。

以上は、メイヨークリニックの記事をもとに書いています。

2018/10/23

体質改善

MRさんが見えて、「この薬は1ヶ月経つとだんだん効いてくるのが不思議で、体質改善作用でしょうか」と仰いました。

「体質改善、などとわけのわからない言葉をみなさん使いますが、要するに受容体のアップレギュレーションかダウンレギュレーションで理解出来ます」と私は言いました。ますますわけがわからないと言われそうなので説明します。

例えばロゼレム錠8mgという薬があります。これはメラトニン受容体アゴニストです。予想外に売れているんだそうです。

私はアメリカにいた頃にメラトニンは飲んだことがあります。確かに良く眠れるので色々な種類を買って試していました。

メラトニンというホルモンは松果体から分泌されるホルモンです。松果体はマウスでは脳の一番表面にあって光を感じています。マウスの頭蓋骨は薄いから周囲の光がある、ないを感じる事ができます。放出されるホルモンの分泌には日内変動が起きます。メラトニンが動物の日内リズムを司ると言われると容易に納得が出来るのです。

人間の松果体は脳の奥深くにあって、光を感じる事は出来ません。恐らく視覚から光の情報を得ていると思いますけれど、マウスより少し高等になってしまっているので、真っ暗にすると眠くなるというわけでもないのでしょう。

メラトニン分泌量は年をとると減ると言われています。これがお年寄りの日内リズムが狂いやすい事と関連がどの程度あるのかわからないのですけれど、少なくとも「だったらメラトニン飲めばアンチエイジングじゃないの?」という短絡的な考えは誤りではないかと思います。でも20年前にはそういう風潮があったのは事実で、ずいぶんアメリカでのメラトニン市場は大きかったと思います。

MR氏によれば、「しかし市販のメラトニンはすぐに代謝されて効かないので、是非ロゼレムを」という事でした。

これは私が色々試した中では「メラトニン舌下シロップ」が一番効果があったことと矛盾しません。メラトニンを舌下した場合、肝臓で代謝されずにすぐに体循環に回りますから効くのは当たり前です。どうして市販薬は全部舌下にしなかったのか不思議でなりません。そういえば、ビタミン剤もチューインガムに含ませると吸収が良いのに、売れないらしくてもう発売はされていません。

またMR氏によれば「時差呆けを直すには、なぜか1mgが良い」という事でした。

これはある意味当然かも知れません。恐らく8mg使用すると、受容体のダウンレギュレーションが起きるか、あるいは松果体でのメラトニン分泌は数日間は抑制されてしまうはずです。そうすれば時差呆けどころでなくて眠れなくなってしまう可能性がありますので、1mgの投与というのは適切なのでしょう。

最後に体質改善の話が出て来たのです。

想像でしかありませんが、不眠がある場合にはメラトニンは過剰に出ているか、ほとんど出ていないかなのだろうと思います。その時にその受容体は発現が抑制されていたり、逆に過剰発現したりしている可能性があります。それが1日に1回、8mgの受容体アゴニストが投薬された場合には、少なくとも松果体からのメラトニン分泌は抑制されるでしょう。一方で受容体についてはその発現が徐々に正常化あるいはややダウンレギュレートされた状態で発現するのではないでしょうか。それに1ヶ月かかるのだとすれば、「1ヶ月経つとだんだん効いてくるのが不思議」が説明されると思うのですがどうでしょう。

泌尿器科領域では、この薬が夜間の膀胱の過敏性を抑制するという報告があるそうでこれから治験が行われるそうです。もともとメラトニンは夜のホルモンですから、膀胱に受容体がある可能性はありそうですし、もしかしたら腎臓にも受容体があって尿量を抑制するかも知れません。

いわゆる「体質改善」を謳う薬については、このような受容体の数の調節が関与していると理解しております。漢方薬についても、「ゆっくり効いてくる」というようなものについては同様の理解をしています。

一方で、胃腸の薬にはあまりゆっくり効いてくる、というものは普通はありません。2,3日で決着はつきます。ある種のヨーグルトが、「1週間お試しを」というのは胡散臭いと思っていて、効くなら2日で効くだろう、と思うのは私だけでしょうか。

2018/09/22

前回の治療の結果を話さない人々:80%

初診以外の方で、前回の治療の結果をフィードバックくださらない方は80%ぐらいです。なるほど医療は自動販売機かなにかだと認識されているのだなあと納得ができます。
これをどうかしようとは思っておりません。

ここから先は心理的なゲームとなります。

例えば「どうでした?」とただ聞いたときに、ネガティブな答えをする方がいて、私が「この治療は良くなかったんでしょうか」と聞けば、そうではない、むしろ効いている、という風に意見を変える方は多くいます。

一方で「よくなりました」と言っておき、自分が「改善」とカルテに書きいれると「いやそうでもない」と意見を変える人も居ます。

最初の自分の質問の仕方で、答えがある程度コントロールできてしまいます。これはあまり精度の高いフィードバックとは言えないです。

感情や意見の振れ幅は最初は大きく、自分の引き出したいところ、で議論を終了しますと自在に患者の意見をコントロールが可能です。自分は悪人でもマーケターでもないので、患者の感情のボラティリティが少なくなって来るのを待ち、そのときにふと出てくる意見が本物だったりするのでそれを採用するのです。時間があればの話です。

2018/07/07

便潜血検査をシミュレーション

便潜血検査が検診で陽性になった人が、とある医療機関に行き、もう一度便潜血検査をして大丈夫だったから大腸内視鏡検査を受けなかった、というような話がありますが、それは間違っていますという事を説明したくてこの文章を書いています。

大腸がん検診の感度と特異度は両方95%ぐらいとされていますが、統計の照合方法、特に偽陰性はがん登録によるものなので、受けている人は何年も連続で受けているのが前提になっていると考えられ、それが精度を上げていると考えるのが素直です。すなわち、内視鏡医としての感覚で大雑把に各病変の出血率を書いてみると以下の図のような雰囲気になります。進行がんからの出血率は40%ぐらいとしておくと、2回法で64%がひっかかり、3回連続してすり抜ける人は5%程度になりますので、こんなものじゃないか、と思います。


さて、便潜血検査2回法で陽性になったとき、特にまだ検査をしたことがない人の場合、その人が異常がないのか、進行癌なのかはわかりません。
それなのに、検査を受けたくないという患者の意思を尊重してかわかりませんが、もう1-2回便潜血検査をしてみて異常がなかったら検査をしなくてもいいよ、と説明してしまうと、かなり大きなポリープの人でもすり抜けてしまうから危険だよ、というのが私の主張です。

上記の数字はデタラメで自分の感覚的なものだけれども、便潜血検査を受けるなら毎年ちゃんと受けなくちゃ意味がない、一度でも引っかかったらちゃんと検査を受けて欲しいということがわかっていただけると嬉しく思います。

などと、もう大腸内視鏡検査をする気のない自分が主張するのはおかしいんだけども。

2018/06/02

アミラーゼが高いときの説明

アミラーゼが高かったと心配している人がいる。
無駄な心配なので、思考法についてメモする。

健康診断で測定しているアミラーゼは、膵臓、ないしは、唾液腺から分泌されている酵素を血液中に検出したものである。
食事をした時には唾液がよく分泌されるし、膵臓からも膵液が分泌されるので、食後にアミラーゼを測定すると高くなる。
食前であってもチューインガムなどを噛んだあとには高くなる。
もちろん炎症で唾液腺や膵臓に障害が起きたときは高くなる。
アミラーゼは代謝されないで腎臓から尿に排泄されるので、腎臓からの排泄が悪くなるような条件が整った時にはアミラーゼは上昇する。濾過量が少ないときのほか、アミラーゼどうしが結合して二量体、四量体と分子が大きくなると排泄されにくいので血液中のアミラーゼは上昇する。

アミラーゼが高い時にはしたがって、
・炎症などで破壊されたとき
・食後や咀嚼など上昇する因子がある
・腎臓からの排泄が低下する
という状況を考える。

アルコールを飲んでいる人には飲まないようにしてもらい、
水分はたくさん飲んでGFRが低下しないように配慮した上で、
絶食にて採血をすることはその3つを鑑別するかもしれない。
唾液腺型アミラーゼと膵型アミラーゼを測定するのも良いであろう。
尿中アミラーゼも役に立つであろう。(クレアチニンとともに測定)
破壊を見るには超音波で膵臓、唾液腺をみたり、トリプシンなど別の酵素の測定も役に立つかもしれない。いずれにせよ相対的評価の連続となるので、高度な判断が出来る医師の元で行うことが大切である。いたずらにトリプシン測定しましょう、みたいな医療はNGである。

通常、アミラーゼが高い、と心配する人々は、背景に「飲み過ぎ」とか「膵臓がんの知り合いがいる」などなにか引っかかる事がある人々である。
だから、こういうアルゴリズムなどはどうでも良くて患者の背景を聞き出して、そこに潜む問題を解決することを自分は優先している。むろんIgG4をいきなり調べる場合もある。

2018/05/20

生存バイアスに目をつけろ

生存バイアス(Survivorship bias)という言葉があります。成功例のみ評価することであり、間違った結論に至る事があります。選択バイアスという論理的な誤りの一つです。

例を示します。世界大戦中、統計家のアブラハムワルドは、敵の攻撃に対する爆撃機の損失を最小限に抑える方法を検討する際に、生存バイアスを考慮した最初の研究者です。
Wikipediaより引用
当初海軍解析部の研究者らは、任務から帰還した航空機に与えられたダメージについて研究し、最も被害の大きかった領域を強化する事を推奨しました。
しかしアブラハムワルドは、彼らが被弾しながらもなんとか帰還した航空機のみを考慮し、実は撃墜された爆撃機はその評価のために存在しないことに気づきました。そこで逆の発想をしたのです。
帰還機の穴は、爆撃機がダメージを受けても安全に帰還できるエリアを表している、と考えたのです。逆に無傷の領域、ここを攻撃されると飛行機を失う原因となると考え、その部分を強化するよう提案しました。彼の研究は、当時の軍事研究の発達において画期的だとされています。

医者が「だいじょうぶですよー」とまず言うのは、人々が病院に来られた事実は致命的な部分に被弾していないことを意味するからです。逆に、いくら元気そうに見えていても、太っているとか、タバコを吸っているとか、アルコールを飲みすぎているとか、全く運動をしていない、などの場合には突然命を落とす事も知っているから、生命維持機能を強化しようと指導するのです。

胃が心配だと胃の検査ばかり受ける人がいますが、これは間違った考え方です。同じ部分を強化しても意味は少なく、全く無防備な部分を強化するのが正しい。

患者に「私の見立てが間違ったと思ったらフィードバックを下さい」とお願いするのも自分自身が成功バイアスの罠にはまらないためです。治った例ばかり集めたらだれだって名医です。ネガティブなフィードバックを集めてもなお、自分はどちらかというと良い医者かもしれない、という暫定的な結論を得るのには時間がかかります。他院で良くならないから来た、という人が非常に多いので、自分もきっと誤診しまくりだろうと、疑心暗鬼であることはずっと変わりありません。

2018/04/27

アルコール脱水素酵素(ADH)と日本人

酒に弱い日本人が増えるよう「進化」 遺伝情報から判明(朝日新聞)という記事
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180426-00000086-asahi-soci

元の論文
https://www.nature.com/articles/s41467-018-03274-0

日本人の遺伝情報を調べたところ、お酒に弱い体質の人が増えるよう数千年かけて「進化」してきたことが、理化学研究所などの分析でわかった。詳しい原因は不明だが、アルコールに弱い体質が何らかの理由で環境への適応に有利に働いたとみられるという。24日付の英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに発表した。(中略)研究チームの岡田随象(ゆきのり)・大阪大教授(遺伝統計学)は「似たような集団の進化には、アフリカ人がマラリアに感染しにくい形の赤血球を持つ例などが知られているが、アルコールに弱いことが日本人にとってなぜ有利だったのかはわからない」と話す。
この論文の肝は単一の集団で直近の自然選択の痕跡を検出することができるシングルトン密度スコア(SDS)という新しいメソッドを開発したことであり、これは凄い発見だと思う。いろいろな集団・遺伝子に応用できるに違いない。その自然選択上疫学的に何が起きたかを明らかにするのは別の専門家の仕事なのであろう。遺伝子上にいろいろな疫病の痕跡がないかを調べる、日本人の日本への経路毎の差異(は、ないそうだけれど)、当時の自然環境とのすり合わせなどやる事は沢山あるように思われたけれど、思考実験をするには格好の材料であるように思われた。

論文をざっと読んでみると、アルコールに弱い、食道がんの多い、あるいは痛風の多い集団が日本人のデータセットでは遺伝的に選択されてきている事が判明している。(その他クロライド、脂質など)海外のデータセットでは身長の高さ・あるいはCD8T細胞での選択が認められているのに比較すると随分異質である。

アルコール脱水素酵素(Alcohol Dehydrogenase: ADH) とは、アルコールを酸化する酵素で多くの型が存在する。人間では肝臓や胃などに多く存在する。この活性が弱い人はアルコールに弱いのだけれど、日本人にはそういう人々が多い。

アルコールに弱いタイプの酵素を持つ人間が、過去少なくとも100世代もかけて選択されてきた可能性というのは非常に興味深い。100世代というと2000-3000年も前(計算によれば1世代29年らしい)のことであるから、酒が発明される前から選択されてきた可能性を考える必要がある。

ここでまず、ADHは飲用、あるいは呪術、あるいは宗教などと共にあるアルコールとは関係がないと仮定して考えることとする。

そもそも酒の発明以前からなぜADHが存在するのかというと、発酵あるいは腐敗した植物を食べていたからなのだろう。
だから哺乳類とアルコールとの関係をおさらいしておく必要がある。ウサギなどのげっ歯類を除いて多くの哺乳類と人間のADHはよく似ている。

Marula (Sclerocarya birrea) fruits and leaves
アフリカのマルーラの果実は、落ちると自然に発酵しアルコールを含むようになる(十分お酒と呼ばれるレベルになるそう)。ゾウが倒したマルーラの木の周囲に落ちた果実が発行すると多くの動物が群がるそうである。ゾウもアルコールの味を認識するそうだ。ただしゾウ自身は発酵していないマルーラを好むという。1) 人間もまたアフリカ発祥なのだからマルーラなどを食べたに違いなく、人に進化する前からアルコールを分解するための酵素が存在するのは当然であろう。
ADHは、ノルエピネフリン、ドーパミン、セロトニン、および胆汁酸代謝にも関与するが、基本的にはアルコールを毒性ラジカルを生成することなく解毒するシステムとして哺乳類には存在すると理解されている。2)
では日本でADHの活性が低くなるべく選択されてきた事実は何を意味するのか。少し考えた2つの可能性を提示したい。(「わからない」にしても仮説ぐらいは書いておきたいから)

ひとつは人間の性ホルモンが変化するのではないか説。テストステロンはアルコールの少量摂取で増加する。3) 日本には自然発酵する果実が少なかったなどの理由で解毒をするためのADHの活性は高い必要がなく、むしろ少量でその効果を発揮したほうが有利、すなわちアルコールに弱い人のほうがテストステロン値が高くなりやすかった可能性。
ふたつめはアンモニアはADHの活性を高めるという事実。4) やはり腐ったものは食べただろうと思うが、魚類が腐った時のアンモニアはADH活性を高める可能性はあり、したがってADHが強い必要はなかった、という説だ。

証明せよ、と言われるのは勘弁願いたい。証明としては、性ホルモン関連の代謝に関わる遺伝子に関して選択が行われているかをSDSで見ること、あるいはアンモニア処理に関連する選択が行われたかどうかをデータセットから見ることではないか、と考える。

さて次に、飲用、あるいは呪術、あるいは宗教などにアルコールの使用が行われてきた時代で選択が行われたと仮定して考えることとする。

奈良時代前後における疫病流行5) という論文を見てみると、彼らは気温の変化と疫病とを関連付けて考察している。疫病が寒い時期に流行するのであれば(インフルエンザがそうだけれど)アルコールで暖を取りやすいかも、などと考えるのだがピンとこない。むしろ温度の高い時期に流行が多く、それは日本住血吸虫、マラリア、赤痢などの細菌疾患、あるいはウイルス疾患であろうと思われるけれども、薬用酒としてのアルコールが効果を発揮しやすかった、などの理由があったのだろうか。そう思い、感染症における薬用酒の効能効果を調べたがどうもはっきりしたものは見つからない。

あるいは戦闘などで選択が行われた可能性はどうか、まさか日本国内での戦争は酩酊状態で行われていたので酒に弱いほうが恐怖心がとれて有利であった、などという理由ではあるまい。

このように、アルコールが生活に取り入れられた状態での遺伝子選択圧力をうまく説明できる仮説は思いつかなかった。ところで酒に弱い日本人はそれだけ酒で失敗することが多かろうと思う。それはもしかすると権力者の地位を安泰にはさせず、絶えず新陳代謝を起こす、という別の意味があった可能性はあろうか、と昨今の日本を見ていると感じるがこれは下衆の勘繰りか。


  1. https://www.sciencedaily.com/releases/2005/12/051205235555.htm
  2. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11173978
  3. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12711931
  4. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC243041/
  5. https://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20180430075205.pdf?id=ART0009462161

2018/04/16

ヒポクラテスによるマッサージの創始


マッサージはもともと信仰や呪術の一つの形式として認識されていたそうです。これを合理的、科学的に再解釈したのはヒポクラテス(460B.C.-)だと言われています。

それまでの呪術では心臓から末梢側に向けていたマッサージを四肢から心臓へ、と逆転したのは彼の業績です。 参考URL:GREEK MEDICINE

ヒポクラテスの4つの教えとは以下の通りです。
①エネルギッシュなマッサージは身体をしっかり安定させる。
②優しいマッサージは筋肉を開放しリラックスさせる。
③頻回にマッサージすると身体を軽くする。
④少し頻度を落としたマッサージは身体を増大させる。

これを解釈すると①は運動前、②は運動後、③は肥満や浮腫を治す、④は身体を作りたい時、という事になろうかと思います。これらを実践の中で身につけること、とヒポクラテスは続けています。つまりマッサージが上手いも下手も努力と才能次第。 

という基礎知識をもって、私のブログを読んでみて下さい。 http://blog.ukawaiin.com/2010/12/blog-post_23.html

2018/03/25

不安は不快な感情ではない

自分は文章を、読む人にあわせて何通りにも書き直すことが良くあり、下の2つの文章は同じ内容を別の書き方で示したものです。言いたいことは、患者さんは良く不安になるのだけれど、検査をしてもしなくても一定の時間が経てば不安な状態ではなくなるわけで本来ならば不安を理由に検査しなくても?と思ったりするという事。逆に医療者側が「安心」を謳うのは詐欺っぽいので自分はなるべく「安心のために」などとは言わずにただ淡々と「科学的には必要」と言うにとどめている、という事です。もちろん演技的に患者に検査を受けるように訴えかけることはありますが、患者が科学的な思考の人ならばそうする必要は特にありません。


「情緒の系図」という本で哲学者の九鬼周造は「不安」を上手く書きあらわしています。すなわち一か他かの決定を孕んでいる危機の情緒が「不安」である、と。未来の可能性に対する緊張状態であり、しかしそれは不快とは限らないとも書いています。我々が行う治療には必ずリスクがつきまとい、未来は不定であるから、不安は医療の添え物のように存在するはずです。その乗り越え方には多様性があり、どれだけ多くの乗り越え方を提供できるかが医師の力量度量であると思います。第一次世界大戦終結はヨーロッパの人々をたいへんな不安状態におとしいれました。戦争が終わったのに、ますます不安なのです。ではどうやって彼らはそれを突破したか、というとそれが「実存主義」で、その言葉を聞いたことがあるでしょう。この実存という言葉は九鬼周造が作ったものです。ものすごく簡単に言うと個人・現実を大切にしよう、という事です。有名なのはサルトル。医学においてこの考え方は便利で「不安、未来に到達することで解消される精神状態です。一歩ずつ前に進みましょう」という主張に使えます。


第一次世界大戦は当時のヨーロッパの人々の価値観を破壊してしまい、特に宗教を背景にした確固たる自信は失われたようで、長い「不安の時代」に突入したみたいです。日本は戦争で疲弊したヨーロッパと比較すると非常に裕福であり、当時ヨーロッパに留学した日本人、九鬼周造もその一人ですけれどもずいぶんと良い暮らしをしたようです。おかげでその思想が輸入できたみたいですが。
当時のヨーロッパで発生してきたのが「個人主義」「今を楽しもう」というようなコンセプトです。めっちゃ大雑把に捉えればそれが実存主義なんでして、その考え方はいろんな不安を抱えている人と話し合う時に、「不安は未来の結果を予測する気分のひとつ」「しかしその未来が来た瞬間、その不安の有無はなんの意味ももたなかった事に気づくだろう」「その気分は良くも悪くもないけれど、とりあえず今をしっかりと生きようね」と説得するために使います。実存主義で有名なサルトルと交流のあった九鬼周造が実存主義という言葉を最初に使ったんですね。


患者さんによって「腑に落ちる」文章のパターンは異なります。普通に書くと(自分のメモとして書くと)前のパターンになります。患者さんの反応を見ながら話したという想定で書いたものが後ろのパターンです。でも明治維新で欧米列強に潰されずにすみ、日露戦争で一定の結果をおさめ、第一次世界大戦で疲弊した欧州の文化を日本が金に任せて(表現は悪いけど)輸入したというような自分の歴史感が、むじろ雑談系の文章には混ざり込んでいるのは面白いかもしれません。

2018/03/11

正確さ判定の能力

医学を含めた科学分野では、人類が残した知識のうち9割以上は英語で記載されているので、その言語を理解できるかどうかが知性の差になってしまう可能性がある。

得意不得意関係なく、理解しようとせざるを得ないから身につけるように、と自分の周囲の若い人々には話す。その話を聞いて「でも英語は嫌いだ」と言う若人は幸い居ない。だからこの話を書く必要もないのではあるけれど、英語に意味があるの?と思っている人もいるかもしれないので書いておくことにした。

ご存知の通り、Google翻訳は優秀で、2017年から飛躍的に機械学習アルゴリズムにより精度が向上している。最初は和英翻訳でその効果を実感したが、英和でも精度は上がっているように思われる。その他の翻訳ソフトも似たり寄ったりである。ソース、および細かい部分で人の手を入れているかどうかだけの差である。

自分は英語が得意でない部類に属している。しばらく現地で生活するとそれなりではあるが、普段は日本語の難しいフレーズをこねくり回すタイプであり、すぐに忘れてしまう。それでも文献(医学に限らず)は基本的には英語で読むが、それは細かい部分で一次情報の変化が起き、それを鵜呑みにするのが嫌だからである。日本語を読むのは変化がどこにあったかにより翻訳者の偏り(バイアス)を知るためである。報道では恣意的な変化が起きるのは皆さんご存知と思う。科学でも同様の事が起き得る。

時短のためにGoogle翻訳はありがたい。英語を斜め読みしてすべてが頭に入ってくる能力は自分にはない。しかしGoogle翻訳した日本語を斜め読みしてから英語を斜め読みするとまずは情報の第一相が脳に蓄積される。情報の第二相としては、共通言語としての専門用語を抜き出して理解する作業がある。

疑似科学の人々は、専門用語が一般の人には理解できない事につけこんで論理を恣意的に捻じ曲げてもっともらしいストーリーを作るのが得意である。一般の用語では説明できないからこその専門用語なのであるが、わざと間違えて使う事により、説得力のある嘘の文章を作ることが可能になっている。逆に我々も専門用語の無理解により、翻訳や理解を間違える事がある。したがって「どれが専門用語か」と判別する事は大切である。それが第二相である。

第三相は意味が通るかの再検証である。通らない部分は主語や係り受けなどを機械学習が正しく判定していない部分であり、どういう文章は自動翻訳が苦手か、などを我々が学習する良い教材になる。日本語能力、論理的な思考力が必要になる。

第四相として、めったにない事であるが、スキルのある職業翻訳家のアシストを受けることがある。あるいは同業者からの指摘も有り難い。なんとなく理解していた事が深く理解できる場合があり非常に助かる。細かい部分が間違っていると思われる日本語の医学記事を読んだ時にそれを指摘することがあるが相手からのレスポンスはほぼないので、最近はやめた。しかしこのように小さな間違いが日本語には沢山転がっている。(オリジナルアーティクルではない分、間違いがことさら多くなる、という特徴を知るべきだ)

さて、英語の検定であまり良い点数が取れなくてもこのぐらいまでは出来る気がするが、こういう事を繰り返す事のメリットとしては、「正確さ判定の能力」が向上する、という事がある。科学のみならず、あらゆる事象について、正しいかどうかの判定を繰り返すトレーニングが自分に非常に役立っている。

一次情報を取り扱える人間になれるかどうか、は将来を大きく左右する。時代として、人工知能が現在一次情報に侵入してきており、多くの天才が人工知能を恐れるのはその将来が少し見えるからである。知性の根源を握られると勝てない。若い人に勉強をしなさい、と自分は言わないが、物事が正しいかどうか、を考える作業は人生を楽しくするので、身につけておいたほうが良いスキルだ。多くの人は自然にやっていることだろうと思う。そしてとても良い教育をしている学校のカリキュラムはこうした能力が「自分が望めば」身につくようにプログラムされており感心する。

2018/03/04

正しい医療情報を得るための簡単なアルゴリズム

「コレステロールのお薬には怖い副作用があるんでしょう?ほら、筋肉がどうとか。筋肉が痛いって言ったら『それは大変だ、中止しなくちゃ』と、薬が中止になったんです。ですから私はその薬は使えません」という患者さんがいたとしましょう。


日本語で
コレステロールの薬 筋肉痛
と検索してみましょう。すると……

主に副作用(主に横紋筋融解症)を煽るような記事が多いです。ほとんどそうですね。


コレステロールの薬で最もメジャーなものはスタチンと呼ばれる薬なので、
スタチン 筋肉痛
で検索してみても同じです。



ところで、これを英語で検索してみることにします。わかる英語で良いです。
cholesterol drug mまで入れると勝手に muscle pain とサジェストすらしてくれます。
すると、

随分と違うんですね。冷静な記事が並びます。英語だからわからない?とりあえずGoogle翻訳してみましょう。すると筋肉痛が起きる原因ははっきりしていないが、薬が筋肉の増殖を抑制する可能性(抗炎症作用=筋肉は破壊により増殖するからそれをも抑制)とかCoQ10を減らすなどと書いてあり、それについては医療スタッフに相談せよと書いてあります。そのあとに横紋筋融解症の事が書いてあります。



以前私は健康の情報を得るためには、検索語+ site:ac.jp か、 site:go.jp site:or.jp を入れて検索すべきで、企業ないしアフィリエイト入りの記事は完全に無視しなさいと書きました。
しかしGoogle翻訳の精度が上がったので、日本語を英語に変換して検索し、その英語をまた日本語に変換して情報を得る、というアルゴリズムも勧めます。

少なくとも日本語でアフィリエイト入りの記事は完全に無視してもなんら不都合はありません。地球の知識の9割以上は英語で記述されているため、その分淘汰を受けやすくなるとも考えます。



この機能は簡単にWebサイトに実装も可能です。めちゃくちゃ暇になったらやるかもしれませんがーーー。

2018/01/18

体重と体調~日本は5月に一番体重が増加する~


正月明け、患者さんに体重を聞くと増加している事が多く、しばらく前の報告を思い出しました。一方、胸焼け症状を訴える人に体重の増減を必ず聞きますが、この質問に関してクリアに答える人は極めてまれ、と言いますか出会ったことはありません。

ある日、微妙な体重の違いによって人の身体の調子は変わることがある、との私の説明に非常に敏感に「そうですよねえ」と反応してくれた人がいました。何を見せながら説明したかというと、医療ビッグデータ界にちょっとしたセンセーションと、やられた感を醸し出したWithings(NOKIA)の体重計を利用したNEJMでの報告です。


患者さんには以下の説明をしました。

  1. 休日シーズンには平均体重が増加する。日本では増加の程度は最大0.4%とわずかだが、サンプル数が多いので統計学的に有意差が出、意味のあるデータです。これがビッグデータのパワー。
  2. クリスマスは祝うが正月は2日から仕事をするアメリカと、正月を中心に祝う日本ではピークが5日ぐらいずれているでしょう?さらに日本はお盆、3月末のお花見の頃、そしてゴールデンウィーク、休みになると体重が増加しているのがわかります。日本でのピークは諸外国とは異なり5月です!
  3. 経験的に逆流性食道炎の増悪は、こういう時期のあとによく見られ、その差が僅かな事も私にとっては非常に納得が出来ました。500g以下の体重変化が逆流性食道炎では重要です。逆流性食道炎患者は休み後に増える傾向があると思っているけれど、その原因の一つかもしれません。

わずかな体重の変化でも身体の調子に起きる可能性がある事を説明した時に、素直に納得してくれない人が実際は多いわけですが、そういう大雑把さは当然患者の主訴にバイアスを与えるため、その患者は自分の症状を見落としているという前提で思考していきます。逆にわずかな体重変化を一喜一憂している人は俯瞰が出来ていない可能性が高いため、やはりその前提で患者の自覚症状の一部をあえて切り捨てて考えます。
それを仕事のパフォーマンスや感性に結びつけて考えられる方は稀です。さきほど私の説明にすぐ納得してくれたのは職人さん、若いけれどさぞ腕が良いのだろうな、と思いました。