「先生、コーヒーを飲むと胃が痛くなるんですけど」と患者から問われ、
「そういう人、いますよね」と答えました。
「カフェイン、だと思う??」と私が聞くと、
「いや、だってカフェインだったら他の飲み物だって痛くなるじゃないですか」と患者は答えます。そう、誰だってそう思うのです。インターネットで、コーヒーx胃痛で調べてみると、すべてのサイトがカフェインだとかクロロゲン酸だとか書いてありますが、根拠に欠け、これでは患者が納得する答えにはなりません。(勘で記事を書いているものが日本にはたくさんあります)
ところで論文を検索してみましょう。
Coffee and gastrointestinal function: facts and fiction. A review.
Boekema PJ1, Samsom M, van Berge Henegouwen GP, Smout AJ.
Scand J Gastroenterol Suppl. 1999;230:35-9.
コーヒーは胃の消化不良症状の原因として頻繁に言及されているが、コーヒーと消化不良との関連は認められない。
胸焼けは、コーヒー飲用後に最も頻繁に報告される症状であり、実際コーヒーは胃食道逆流を促進する。コーヒーはガストリン放出および胃酸分泌を刺激するが、下部食道括約筋圧の低下に関する研究は相反する結果をもたらす。コーヒーはまた、胃の受け入れ反射を延長し、胃排出を遅らせる可能性があることを示唆している。しかしながら、他の研究は、コーヒーが胃内容排出または小腸通過に影響を及ぼさないことを示している。
コーヒーはコレシストキニンの放出と胆嚢の収縮を誘発し、なぜ症候性胆石患者がしばしばコーヒーを飲むのを避けるのかを説明するかもしれない 。
コーヒーは、一部の人々の摂取後4分以内に直腸結腸運動活性を増加させる。結腸に対するその効果は、1000kCalの食事と同等であることが判明している。コーヒーにはカロリーが含まれておらず、その作用をボリューム負荷、浸透圧、塩などに帰すことができないため、何らかの薬理作用があることが示唆される。そしてカフェインはこれらの胃腸の影響を説明することはできない。(抄訳)
コーヒーで胃が痛い、と言う人々に他の食べ物で痛くなりますか?と聞くとあまり特異的な食べ物は思い出してくれず、クロロゲン酸はポリフェノールの一種ですけれど他のポリフェノールが影響しなさそうだと言うことを考えると正解ではないのかもしれません。実は自分には答えらしきものが頭の中に浮かんで来ています。味、です。センブリは胃薬として使われますが苦味健胃剤などと分類されています。もともと苦味のある物質は、東西を問わず胃薬として使われてきた(東ではセンブリなど、西では塩酸キニーネなど)、という歴史があります。これは苦味が胃の運動を刺激する、胃酸分泌を刺激する、というような作用機序だと推測されますから、それで論文を検索してみましょう。
苦味に対する受容体が胃粘膜にあり、これが胃酸分泌を刺激する、という論文です。これはカフェインですが、さらに、
この実験では色々な味の寒天を口に含ませて胃の動きを胃電図で測定しているのですが、苦味は胃の動きに影響を与える、と結論しています。
コーヒーで胃が痛くなる人を観察していると、
・空腹時に飲むと特に
・ミルクなどを入れた上甘くすると大丈夫
・比較的すぐに痛くなる
と答える人が多いのですが、そこで味に関してこういう質問をしてみました。
Caffeine induces gastric acid secretion via bitter taste signaling
in gastric parietal cells.
Liszt KI, Ley JP, Lieder B, Behrens M, Stöger V, Reiner A,
Hochkogler CM, Köck E, Marchiori A, Hans J, Widder S,
Krammer G, Sanger GJ, Somoza MM, Meyerhof W, Somoza V.
Hochkogler CM, Köck E, Marchiori A, Hans J, Widder S,
Krammer G, Sanger GJ, Somoza MM, Meyerhof W, Somoza V.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2017 Jul 25;114(30):E6260-E6269.
doi: 10.1073/pnas.1703728114. Epub 2017 Jul 10.
苦味に対する受容体が胃粘膜にあり、これが胃酸分泌を刺激する、という論文です。これはカフェインですが、さらに、
Effects of taste stimulation
on gastric myoelectrical activity and autonomic balance
Marek Waluga, Krzysztof Jonderko, Ewelina Domosławska, Anna Matwiejszyn,
Marek Dzielicki, Beata Krusiec-Świdergoł, and Anna Kasicka-Jonderko
Marek Dzielicki, Beata Krusiec-Świdergoł, and Anna Kasicka-Jonderko
Saudi J Gastroenterol. 2018 Mar-Apr; 24(2): 100–108.
doi: 10.4103/sjg.SJG_419_17
この実験では色々な味の寒天を口に含ませて胃の動きを胃電図で測定しているのですが、苦味は胃の動きに影響を与える、と結論しています。
コーヒーで胃が痛くなる人を観察していると、
・空腹時に飲むと特に
・ミルクなどを入れた上甘くすると大丈夫
・比較的すぐに痛くなる
と答える人が多いのですが、そこで味に関してこういう質問をしてみました。
「あなたは苦い食べ物や飲み物は好き?」
すると多くの人が、
「好きではない/一切口にしない」
と答えたのです。
以上より、私はコーヒーの苦味成分が胃の動きに影響をする。特に空腹時に強く蠕動が起きることによりシクシクと痛むのではないか、あるいは苦味刺激が直接痛覚を刺激するのではないか、と考えます。胃酸分泌刺激が原因にしては症状発現までの時間が早い印象はあるので、主役ではないのではないか。
味と胃の生理の関連に関しての論文は、2017年、2018年、と案外若い年代のものが多く、あまり研究のメリットもないので取り残されている感はあるのですが、センブリや塩酸キニーネなどの薬理作用とも考え合わせ、比較的納得の行く説明ではないかと思っているのですがいかがでしょうか。
以上より、私はコーヒーの苦味成分が胃の動きに影響をする。特に空腹時に強く蠕動が起きることによりシクシクと痛むのではないか、あるいは苦味刺激が直接痛覚を刺激するのではないか、と考えます。胃酸分泌刺激が原因にしては症状発現までの時間が早い印象はあるので、主役ではないのではないか。
味と胃の生理の関連に関しての論文は、2017年、2018年、と案外若い年代のものが多く、あまり研究のメリットもないので取り残されている感はあるのですが、センブリや塩酸キニーネなどの薬理作用とも考え合わせ、比較的納得の行く説明ではないかと思っているのですがいかがでしょうか。
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