2018/03/11

正確さ判定の能力

医学を含めた科学分野では、人類が残した知識のうち9割以上は英語で記載されているので、その言語を理解できるかどうかが知性の差になってしまう可能性がある。

得意不得意関係なく、理解しようとせざるを得ないから身につけるように、と自分の周囲の若い人々には話す。その話を聞いて「でも英語は嫌いだ」と言う若人は幸い居ない。だからこの話を書く必要もないのではあるけれど、英語に意味があるの?と思っている人もいるかもしれないので書いておくことにした。

ご存知の通り、Google翻訳は優秀で、2017年から飛躍的に機械学習アルゴリズムにより精度が向上している。最初は和英翻訳でその効果を実感したが、英和でも精度は上がっているように思われる。その他の翻訳ソフトも似たり寄ったりである。ソース、および細かい部分で人の手を入れているかどうかだけの差である。

自分は英語が得意でない部類に属している。しばらく現地で生活するとそれなりではあるが、普段は日本語の難しいフレーズをこねくり回すタイプであり、すぐに忘れてしまう。それでも文献(医学に限らず)は基本的には英語で読むが、それは細かい部分で一次情報の変化が起き、それを鵜呑みにするのが嫌だからである。日本語を読むのは変化がどこにあったかにより翻訳者の偏り(バイアス)を知るためである。報道では恣意的な変化が起きるのは皆さんご存知と思う。科学でも同様の事が起き得る。

時短のためにGoogle翻訳はありがたい。英語を斜め読みしてすべてが頭に入ってくる能力は自分にはない。しかしGoogle翻訳した日本語を斜め読みしてから英語を斜め読みするとまずは情報の第一相が脳に蓄積される。情報の第二相としては、共通言語としての専門用語を抜き出して理解する作業がある。

疑似科学の人々は、専門用語が一般の人には理解できない事につけこんで論理を恣意的に捻じ曲げてもっともらしいストーリーを作るのが得意である。一般の用語では説明できないからこその専門用語なのであるが、わざと間違えて使う事により、説得力のある嘘の文章を作ることが可能になっている。逆に我々も専門用語の無理解により、翻訳や理解を間違える事がある。したがって「どれが専門用語か」と判別する事は大切である。それが第二相である。

第三相は意味が通るかの再検証である。通らない部分は主語や係り受けなどを機械学習が正しく判定していない部分であり、どういう文章は自動翻訳が苦手か、などを我々が学習する良い教材になる。日本語能力、論理的な思考力が必要になる。

第四相として、めったにない事であるが、スキルのある職業翻訳家のアシストを受けることがある。あるいは同業者からの指摘も有り難い。なんとなく理解していた事が深く理解できる場合があり非常に助かる。細かい部分が間違っていると思われる日本語の医学記事を読んだ時にそれを指摘することがあるが相手からのレスポンスはほぼないので、最近はやめた。しかしこのように小さな間違いが日本語には沢山転がっている。(オリジナルアーティクルではない分、間違いがことさら多くなる、という特徴を知るべきだ)

さて、英語の検定であまり良い点数が取れなくてもこのぐらいまでは出来る気がするが、こういう事を繰り返す事のメリットとしては、「正確さ判定の能力」が向上する、という事がある。科学のみならず、あらゆる事象について、正しいかどうかの判定を繰り返すトレーニングが自分に非常に役立っている。

一次情報を取り扱える人間になれるかどうか、は将来を大きく左右する。時代として、人工知能が現在一次情報に侵入してきており、多くの天才が人工知能を恐れるのはその将来が少し見えるからである。知性の根源を握られると勝てない。若い人に勉強をしなさい、と自分は言わないが、物事が正しいかどうか、を考える作業は人生を楽しくするので、身につけておいたほうが良いスキルだ。多くの人は自然にやっていることだろうと思う。そしてとても良い教育をしている学校のカリキュラムはこうした能力が「自分が望めば」身につくようにプログラムされており感心する。

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