2017/11/04

ビッグデータ時代の論文について気をつけるべきこと

メディカルトリビューンという週刊誌みたいなものがあって、内容を羅列するだけで中身の吟味がないメディアなので見出しだけをざっと読むことがある程度ではある。それでも読んでいる人はそこそこいて、影響を受ける人はいるのかもしれない。

今回ご紹介する記事、見出しとしては

「ピロリ除菌後PPI長期使用で胃がんリスク上昇」となっていて、、自分の興味ある所だったので思うことを何点か。おそらく適切にコメントできる人も多くないと思うので。

まず、レセプトの解析でこういうデータが取れる事については評価。僕にやらせるともっと良いです。>偉い人
臨床とコンピューター(にデータを格納するやりかた)の事を根っこから理解している人材はそうはいない。

元になったのは
Long-term proton pump inhibitors and risk of gastric cancer development after treatment for Helicobacter pylori: a population-based study
Ka Shing Cheung
という論文ですね。

http://gut.bmj.com/content/early/2017/09/18/gutjnl-2017-314605

自分はPPI長期使用反対派(長期使用すべき患者とそうでない患者を分けることには興味があるが、少なくとも現在の日本はセンスなく使いすぎ)なのでこういう論文が出たら「ほらみたことか」と煽るべきなんでしょうが、そうもいきません。一側面から捉えたにすぎない論文だから。

まず前提としてこの論文では
“Proton pump inhibitors (PPIs) is associated with worsening of gastric atrophy,”と言っているが、それは証明された事実とは言えません。HP陽性者に長期にPPI使っていた過去もひっくるめての医者の印象だから。

次にHP除菌12ヶ月以内の癌は除いたとありますが、欧米の論文では36ヶ月除外するのが通例でしょう。この12ヶ月と36ヶ月の違いは大きいので、これで倍ぐらいは数字はすぐに変化します。除菌後の潰瘍例を除いたのですが、逆にバイアスを大きくする可能性はあります(胃癌の多くは潰瘍で、しかも除菌後にこそ潰瘍として発見されやすく、PPI不使用の患者の胃癌の多くはこのグループに入って除外された可能性)ので注意が必要です。また胃癌と診断される前6ヶ月のPPI、H2RA使用ものぞいているのですが、これも解せない。症状がある人を全部のぞくと、むしろ除菌後でPPI不使用の患者の胃癌の多くはここに入ってしまうからです。

7.6年の観察期間で0.24%の患者が胃癌になっていますが、これは除菌後の患者としては少ないです。これは上記バイアスでかなりの胃癌を除かれてしまったか、診断能力が低いかで、見逃されてる可能性はあるからなおさら12ヶ月じゃ短い、という主張を補強する数字です。0.5%以上にはなるはずです。ハザード比が2.44で、PPI使用中は5.04とのことですが、もともと胃癌症例が6万中150例とか少ないのでいくらでも変わるだろう。

結論としては、「デザインが悪い」と思う。ビッグデータの利点を活かしていないのです。ビッグデータならパラメーター毎に結論を変えるのは簡単な事を示して、結論を読者に委ねることぐらいは簡単なのに。それこそがビッグデータ時代の論文であるべきなのに、それが出来ていない。私がビッグデータを取り扱うキラキラの医師に感じる不信感の根っこはここにあります。

ただし、理論的には考えられないことじゃないので一応仮説を書いておきます。

1)胃酸を抑えていると、胃癌は溶けない説
胃癌が胃酸で溶けちゃてわかんなくなって一度見えなくなった癌があとになって出て来るなんていう経験は内視鏡医は結構します。なので3年ぐらい遅れて出てくるなんてザラであるんだけど、仮にPPIを使っていると胃癌が溶けないので大きくなるチャンスが増えるかもしれない。
2)PPIを長期で使ってる人はNSAIDs使用者である事も多い。アスピリンは一部の大腸ポリープには抑制的に働きますが、自分が経験するHP陰性胃癌ではNSAIDs長期使用者が少なくなくて、リスクの一つと考えたりするんだけど、そういう影響はなかったか。
3)胃潰瘍を除くとバイアスに逆になる。HP陰性胃潰瘍は高率で胃癌なので、それを除いちゃうのはな~わざとじゃねーの、って感じです。
4)ガストリンの増加は胃癌は増やさないんじゃないか。
5)PPIを平気に全員使っている医師は胃癌の診断には不慣れなんじゃないか。

まだまだ考えられるけどこのぐらいにします。自分の結論としては、

1)PPIをだらだら出すことについて、日本以外の国では「ちゃんと考えようね」という論調になっていて、OTCにもなっているので濫用に警戒感がある。
2)ピロリ除菌後の胃で、Open typeの萎縮がある場合、PPIはtoo muchです。胃を汚くしてしまい、ほんとうに癌が見つけづらいです。今までの数万人の経験でこの患者はPPIが絶対必要というのはわずかに数十名以下で、しかもその半分は本来は食道裂孔ヘルニアの手術の適応なのですが日本の患者さんがそれを希望しないのでそのままになっている症例。PPIを使わなくても体重のコントロールなど生活習慣の指導、消化剤、整腸剤、あるいはPPIを隔日投与、H2RAなど使える薬は沢山ある。ガスモチンは動かしすぎるので症状が悪化したり前庭部に炎症が起きる症例があるから、病的に蠕動が低下する症例への投与にすべきで、エコーで前庭部がすでに肥厚している症例に処方するとかどれだけセンスないんだよ、と思っています。

2017/10/07

記憶の賞味期限

患者さんが症状で困ってなかなか治らないときに、非常に受診がうまい人がいる。

①ぎりぎり記憶に残るぐらいの受診間隔
2週間あけるとまず殆どの患者を忘れるのでそうならない程度。
②もらった薬が切れる前の受診
最低でも「○日間」は経過をみたいと思っている日数以上で、処方日数より短い程度のインターバルで受診すると「あれ?良くないのかな?」という印象を与える。毎日しつこく来る人は別な意味で病的だし、その逆に完全に薬が切れてから「効かなかった」という来院は……親身になろうとしてもなかなか難しいです。
③必ずフィードバックをくれる
良くならないなら良くならないなりに新しい情報を与えてくれる。
④明るい
つとめて理性的に振る舞おうと頑張っている姿は非常に心を打たれますので。
⑤種々の連絡手段
電話で少しでも良いから情報を与えてくれてから受診、メールで相談してからの受診、など、こちらが考える時間を与えてくれる。
⑥自分でも考える
いろいろ自分でも考えて、意見をくれる。
⑦優先順位が間違っていない。
自分の生活に折り合いをつけなければならないときに、妥協する部分を妥協できるかどうか。(例えば仕事が最優先でそれを譲らない、という人はどうなるだろうか、想像してみて下さい)

ご参考まで