2010/03/07

慢性疲労症候群とナトリウムチャンネル

疲労とナトリウムには特に注目しています。

注目する同機となったのが、シガテラ毒(Ciguatoxin)による中毒を外来で診断(実際には疑診であり確定ではない)したことです。

参考:Wikipediaによる、「シガトキシン

シガテラ毒では、ドライアイス・センセーションという特異的な症状があって、それが診断を容易にします。

水に手をつけるとまるでドライアイスのように冷たく(痛く)感じてしまう。結果としては痛くて水に手をつけることが出来ない。水で手を洗うことすら出来ないという症状です。
むろん最初は下痢・嘔吐・体のしびれなどを訴えますので他の中毒と鑑別はし辛いのですが。

大きな有機化合物である、このシガトキシンを生合成することは不可能とされていたそうです。この生合成に成功し奇跡の仕事を成し遂げたのは日本人で、平間正博先生をはじめとするグループです。(プレスリリース

シガトキシンに関してはその研究に日本人が深く関わっており、小説が二つも三つも書けそうなほど感動的なストーリーなのですが、それはきっとみなさんの目に誰かから発表されて触れることがあるでしょうから今回はそれは避け、むしろ私が気になった、シガテラ毒による中毒の症状の話をします。

それが、「だるさ」です。

実は伏線になったもうひとつの食中毒があります。
それは山菜による食中毒でしたが、非常に神経症状が当初強く、そしてだるさが何ヶ月も続いた・・・。
残念ながら専門医により「アレルギーでしょう」とお墨付きをいただいてそれ以上の検査が出来なかった事が残念ですが、今でも私はそれは神経毒であったと信じています。

そしてその症状と良く似た症例を外来で見たときに、神経毒じゃないかと思い検索、シガテラ毒に行きあたったのですから、私はGoogleに頭が上がりません。

そしてシガテラ毒による中毒も、どうしようもない「だるさ」が何ヶ月、時には一年以上も続きます。
その症状が慢性疲労症候群にそっくりだったわけです。

シガテラ毒は、前述のように非常に大きな分子です。これが神経のナトリウムチャンネルに結合して神経の過敏症状を来します。恐らく当初の過敏症状がおきたあと、チャンネルにシガテラ毒が結合しっぱなしになるので、興奮に何らかの変化が起きるに違いありません。こうした大きな分子は一度体に入れば分解は困難。あとは化学的にナトリウムチャンネルから遊離するのを待つしかないのです。この期間が数カ月から一年というわけです。

シガテラ毒には治療がありません。唯一の治療は、食べたらすぐにマンニトールという薬で強制的に利尿する、というものです。これは大分子がナトリウムチャンネルに結合する前になるべく多く排出してしまおうというアイディアだろうと考えます。ハワイでの民間療法では、強制的に浣腸するというシガテラ毒の治療法があります。これもアイディアとしては同じです。どちらにせよ、一度ナトリウムチャンネルに結合したシガテラ毒を引き離す術はないのです。

慢性疲労症候群には、いろいろな病因が考えられていますが、私はナトリウムチャンネルの機能不全だと思っています。例えば何かがきっかけでちょうどナトリウムチャンネルのリガンドになるような抗体が産生されてしまう、などです。

シガテラ毒が、慢性疲労症候群患者では高率に陽性になるという事です。これは取りも直さずナトリウムチャンネルに結合する何か(シガテラ毒とは限らない)が、慢性疲労症候群の原因であろう事を示す傍証のように感じています。しかしながら、シガテラ毒の研究には予算がつかないらしく、あまり成果が出ておりません。むしろ、シガテラ毒が色々なサイトカインのmRNA産生を促すんだよ、みたいな違う方向に行ってます。あんなデカイ毒が細胞内に影響を及ぼすには何かのチャンネル経由でしょう。そこを飛ばしてmRNAを議論しても結論は何も出ないんじゃないかと思います。

BMJ(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)でちょうど、
XMRVというウイルスが慢性疲労症候群の病因とは言えないらしい
という論文が出たので、上の話を思い出しました。(そもそもScienceで出た「とうとうXMRVが病因じゃないか?」という論文に対する反論)
難しすぎて、わけがわかりません。

魚を食べて痺れた、などという場合にはとりあえずマンニトールで利尿、という選択肢も考えておいた方が良いのではと思います。非常にポピュラーな中毒です。

2010/03/04

マロリーワイス症候群

嘔吐をしたときに、運悪く胃の入り口の粘膜が裂けてかなり出血することがあり、それをマロリーワイス症候群と言います。ものすごくたくさん出血することが稀にあって、その場合は頻脈になって血圧が下がりますが、たいてい酒を飲んでいる患者さんが多いために酒のために頻脈になって血圧が下がっているのか良く分からない場合も。

多くの患者さんはちょろっと出血しただけでびっくりして来院されますが、幸いほとんどは血がにじみ出ただけで、粘膜が裂けてはいません。とはいえ、ブールハーヴェ症候群(突発性食道破裂)という怖い病気になることもたまにありますから、出血したらやはり来院して下さい。(黒色便が出た場合もです:ついでにいうと黒色便は必ず柔らかいです)

叔父のDr. Choichi Sugawa (Wayne State University)から教わったのが、

「マロリーワイスも、嘔吐によるgastric congestion(胃粘膜のうっ血・・・これが出血の原因になります)も、ほぼ必ず前壁側に出来る」

という事で、これは目から鱗でした。

以後、ずっと観察していますが例外がほとんどありません。必ず前壁側、あるいは小彎前壁側です。例外があったらむしろ原因を突き止めて症例報告すべきです。Dr. Sugawaの気付きは、Urban hospital(都会の病院)のER(救命センター)で緊急内視鏡を長年行っている豊富な経験によるものなのでしょう。感心します。

検査中、稀に患者さんに嘔吐反射が起こると急いで食道胃接合部を観察しますと確かに前壁が食道内に入り込む様子が観察され、なるほどこうしてマロリーワイス症候群が形成されるのだと納得します。(これをmushroomingと呼ぶのだそうです。形がマッシュルームみたいだから)

その教示は以下のような結論も当然私に与えてくれます。
患者さんでいわゆる「吐き癖」がある人もつまり簡単にわかるのです。
穹窿部前壁にgastric congestionがあれば、その人は嘔吐が癖になっているのです。
摂食障害などでこうした所見は無視してはなりません。あるいはアルコール依存などで。
これは教科書には書いていないかも知れないので、覚えておきましょう。

嘔吐と似た生理に反芻(はんすう)があります。反芻はしかし、機序が全く違うようです。(前回書きましたっけ?)
最近示唆を与えてくれる症例があり、勉強になりました。
いっしょにしてはなりません。

マロリーワイス症候群から話が横にずれてしまいました。
ちょっとした病気から、胃の生理を学ぶたくさんのヒントがある。
経験豊富な名手のヒントには沢山の宝が隠されている。という話です。

話を元に戻しますが、マロリーワイス症候群が疑われた場合に、患者さんに嘔吐反射を起こしてしまうような挿入をするのはナンセンスです。鎮静剤を使えば良いと言うものではありません。治療にクリップを使用する可能性がありますし、もともと出血している場合、経鼻内視鏡の適応はありません。結局は鎮静剤を使った上に丁寧で安楽な挿入をしなければならないという事です。
鎮静剤を使えば良いや、ではなく普段からそういうつもり(絶対に反射を起こさない)で精進しなさいね、という話を研修の先生にはしています。

2010/02/26

3月15日お休みします

3月15日邦夫医師がお休みします。
かわりに3月16日に診療しますが、その日はたぶん空いています。お勧めです。

<おしらせ>
グルコサミンでアレルギー症状が出る方が多いので、
飲みたくても我慢して、必ず私に相談してください。

2010/02/23

NSAIDSによる胃腸障害で考えておくべきこと

健康ボランティアを対象とした、7日間のアスピリン(低用量)の投与で半数の方の食道に粘膜障害が生じる(しかもGERDと断言)という試験(浜松医大)があったというニュースを読みました。


これ、簡単なストーリーじゃないですか。

単純に考えれば、(臨床家の私の素直な解釈)

NSAIDS(非ステロイドの痛み止め)ではすぐに胸焼けが生じますね?

そういう人たちが数割おりますよ。

その理由は簡単。主にピロリ陰性の人たち、あるいは若い人達に起きますが、

胃酸で前庭部にびらん、浮腫が起きますから。

これはNSAIDSによって、粘膜内プロスタグランジンが低下したためです。

前庭部は動きが激しいから、他に比べると簡単にびらん、浮腫が生じます。

しかも狭いからその影響が出やすい。

まだ7日ぐらいだとすぐには前庭部から分泌するガストリンは減りません。

胃酸は胃体部とか穹窿部から出続けます。

一方浮腫で前庭部は蠕動不良になります。

だから胃酸は逆流します。

食道粘膜が刺激され、胸焼けが起こります。

たった7日では、こういう事が起きています。

ここまでで、「GERDだ!」というのはつまらない。




では7日以上経つとどうなるか。

ここからは私の経験談。

前庭部胃炎のおかげでガストリンが減る。

胃酸分泌が減る。

逆流も減ってきて、勝手に治ります。

案外みなさん大丈夫なのですよ。

むろん潰瘍になる人もおりますが、

全員にPPIですか?

それはどうでしょう。

NSAIDS+抗凝固薬ならばPPI推奨しますが。




以上、私見ですが、

たくさん患者さんを見ていますから、

こういう印象がある。

むろんある患者さんにはPPIを出すんです。それは後述の理由がある場合です。



リウマチの患者さんでNSAIDSによる胃障害が多いのは、血管障害というダブルパンチがあるからでしょう。そうしたリスクがはっきりしている場合、あるいは、ダイナミクスはこんなときも大活躍。

もちろん過去にNSAIDSを飲んで大出血、という患者さん。

むろん喫煙という最大の増悪因子もきちんと記録してあります。やめれば良いのですが。

そうした家族歴を記録してあると、今度は子々孫々にメリットがあります。

NSAIDSによる胃腸障害や、P450の代謝は当然家族歴が関係あるだろうからです。

むろんメンデルの法則に従うんでしょうが、こういう意味で電子カルテは重要です。



<まとめ>

NSAIDSによる胃腸障害を極めて真面目に研究するためには、

年齢別、家族歴別、ピロリの有無、萎縮の程度、ガストリン値(組織中、血清)、p450の考慮など、まずは母集団のセレクションが重要で、しかも長期に行わねば、大して意味がないと考えております。

個人的には、エコーで前庭部みりゃ良いじゃん、という結論なんですがそれを言っちゃあおしまいなので、言わないことにします。

2010/02/21

Reviewの天才

研究各分野の領域で、優れた天才というものがいるのでしょう。


むろん脚光を浴びることでしょう。

ノーベル賞も取れるかも知れません。



しかし世の中には、特に欧米では、

「Reviewの天才」というべきいる人がいるのだなあ、

と思ったきっかけは、

"Immunology Today" という雑誌を読んでからのことでした。

今は"Trends in Immunology"として継続されています。



著名な学者が「まとめ」を掲載するのですが、その内容がすごい。

だいたい200くらいの論文を引用しつつ、まさに「現在のトレンドと将来予測」を明確に示してくれる弩級の内容です。著者によりますが、内容が偏らないのが良いと感じていました。

内容が難しくて、今ではさっぱり理解出来ませんけれど、「ああ、世の中は知識を整理する天才たちがいて初めて成立するのだ」とわかった事は収穫でした。



調和のとれた知性がどういう背景で生み出されるのかは良くわかりませんが、こういう知性が頭角をあらわすことが出来るような日本になったらさぞ強力だろうな、といつも思っているのです。(他力本願な願望ではありますが)

2010/02/18

Never events

Never events:

日本ではまだあまりポピュラーではない、しかし小耳に挟むところによれば「院内での怪我」など、訴訟に絡む可能性もあり、メディケア(健康保険)が医療費を払わないと宣言した28の事故をアメリカでは"Never events"と呼ぶそうです。


異物を体内に残した
空気塞栓
血液型不適合
尿道カテーテル感染
深部静脈血栓/肺塞栓(股関節、膝関節手術後)
外科創部感染
深い褥瘡
処置に伴なう怪我(例:電気ショックによる火傷)
血糖コントロール不良による症状(低血糖など)
外科でのミス(取り違えなど)


上記のように「弁解できない転帰」を指すそうで、異物や取り違えなど確かに弁解しようがありません。しかし一方で完全な予防が難しく一定の確率で生じうる、という大変問題のある事故も含まれます。例えば血糖コントロール不良の場合の創部感染やカテ感染を完全に予防するというのは理論的にも不可能です。

これらをどう押さえ込むか、が医療のかかえる問題です。むろんそれらに個別に対応して様々な工夫が行われて来ました。特に「ミスから学ぶ」という風潮が現在では強い現代では検証がかなり行われています。しかし本当は事故が起きる前に、日本人が得意な「こんなこともあろうかと」という対応を見せたいところですが、そのあたりの情報共有は完璧ではありません。

アメリカのニュースサイト(medscape)によれば一般にはmalpractice(医療ミス)として訴えられた場合に、医療側は

1) 限り有る資源、抑制された医療費が優先されるため、対応には限界がある。
2) 完全な予防は患者さんに非常な苦痛を強いる場合が多いので難しい。(例:転倒防止のための拘束など)

という主張をしつつ、合意点を探ると言う事になるそうです。あちらは訴訟には医者はあまり関与しないのかもしれません。訴訟が多いのでそれに参加した場合に診療が出来ませんから他の患者さん達に非常に不利益があってそれこそ命がいくつも失われ次なる訴訟問題につながるからかもしれません。

つまりこの部分は医師が関わることができません。(日本は現在は違いますが、将来はアメリカ同様になるかもしれません)我々が出来るのは「こんなこともあろうかと」という部分に尽きるのだと、再確認した次第です。

日常診療でnever eventsはないに越したことはありませんが予防出来るものは予防し、生じた事故についても迅速に対処できるようにあらゆる事態に備えること。人工衛星イトカワの開発者のみなさんに負けぬようにしなければと思いを新たにする今日この頃。

2010/02/16

和訳は難しい

例:Taking the Campaign to Primary Care Practices in the United States


案:キャンペーンをプライマリ・ケア・プラクティスにつれていくこと、米国内で。

アメリカにはプライマリ・ケアというのがあります。プライマリ・ケアというのは医療費抑制のために考えられたひとつの方法で、人々すべてがかかりつけ医を持って、何か病気になったときにプライマリ・ケア医が振り分けるというシステムです。これにより、気軽に高度な医療は受けられなくなるので医療費が抑制出来るのです。これは時々不評です。プライマリ・ケア医は収入が相対的に低いという理由で、なり手が少ないので減少傾向にあります。一般的になり手が少ない市場ではその実力について標準偏差が大きくなります。実力がピンからキリなのでそれに対する人々の文句が出やすいと言う特徴があります。また、本当に迅速な対応が必要な場合でも医療に時間がかかってしまうと言う欠点があります。それらの因子を差し引いてもなお、プライマリ・ケアが医療費抑制に果たす役割は大きいだろうと米国医療は考えていると思います。これは一般医療のトリアージのようなものですが、米国は近い将来それを機械化するだろうと思います。同じ方法をとると日本の開業医は壊滅的な打撃を受けると反応する人がいるかもしれません。しかし現在先進国の現状を見ていると予防医療に医師が関わるほど余裕がなくなってきているのが実情です。将来の機械化に向けて今は情報を収集すべき時期、つまりプライマリ・ケアを実践する数十年を機械化のための本格的な研究にあてるつもりなのではないかと私は考えています。

という背景を考えて、この見出しを翻訳します。
practiceは、ここでは医療と翻訳するのが良いだろうと思います。アメリカの医療でprivate practiceと言いますと「開業」を表します。「(医師)個人の医療」だから「開業」です。ただ、アメリカではオフィスは固定じゃないのです。大きな病院内でも患者さんを個人的に診るので、開業という訳語を当てるのは時によりおかしいかもしれません。primary care practiceは、プライマリ・ケア医療という翻訳とします。primary careは、日本のかかりつけ医療とはそもそもの発想が違います。日本では内科以外の開業医も乱立しているのですが、時々患者を異なる科同士で奪いあうことが許されます。そういうシステムではそもそもかかりつけという発想自体機能しません。それからアメリカの場合、医者余りと言うのがかつて深刻だったという背景があります。食うに困った医者がプライマリ・ケアに従事して~というピラミッドが形成しやすかったわけです。今日本では開業医はなんと勤務医よりも収入があると言います。全然ピラミッドじゃありません。それでプライマリ・ケアをせよというと、医療費はどんどん膨らむことになりかねません。したがって、primary careはプライマリ・ケアであり、日本のかかりつけ医療とは、医療内容は同じでも区別せねばならないと考えました。日本ではprimary careに相当する医療の一部を自治体の健康管理課が行ったり保健所が行ったりします。これらが本当に効率的かどうかはさておき、アメリカのプライマリ・ケアの発想とオーバーラップする部分があり、日本の低い医療費に貢献してきたのでしょう。さて次、campainという英語に、適当な日本語訳はあるのでしょうか。これが非常に困ってしまいます。プライマリ・ケアをカタカナにしてしまったので、これをキャンペーンと翻訳するのは頭が悪いと思われかねません。おそらく学者さんがいつも行っている政治的な動きの事をキャンペーンと言っているのだと理解は出来るのですが、うまい日本語が浮かばないのです。take campain toですから、そのキャンペーンをプライマリ・ケアに持っていくとか、それに向けさせるというような意味なのだと思います。これは見出しだからしょうがなく逐語翻訳は諦めることにします。それでも日本語が浮かばない時に、堀口大學ってすごいなあと思うわけです。自分が記者ならどういう見出しにしようかと考えます。the United Statesは合衆国だけれど、これは米国で良いとして、「米国のプライマリ・ケアに向けたキャンペーン」とかいう翻訳しか思い浮かびません。これだけ考えてこんな日本語訳かよ、と自分にがっかりするわけです。

米国のプライマリ・ケア医療にテコ入れ、とか、そういう意味なんだとは思うのですが。専門家よりtakingを提起すると翻訳すれば良いのではとアドバイスをいただきました。「米国のプライマリ・ケア医療強化を提起」とかそういう翻訳ですと内容と合致するし、堅さもちょうど良いでしょうか。





At the conference, proponents of colonoscopy and its virtual counterpart, computed tomography (CT) colonography, promoted these two options, despite the fact that achieving high rates of screening solely with colonoscopy or CT colonography appears unlikely given the current lack of capacity and number of trained providers.

なんて全然英語がわかりません。
これ、なんとなく大腸内視鏡とCTコロノグラフィーを否定したいんだとはわかるのです。
大腸内視鏡は米国内で急速に普及してるのですが、メディケア(高齢者医療)でこうした高額(日本じゃ1万6千円ですが、アメリカでは15万~30万円ぐらいかかる)な検査を気軽にされてはたまったものじゃないのです。むろんメディケアだって病院と交渉して値切ってはいるはずですが。それに高齢者に検査を行うと合併症も多くなります。癌を予防できたとして平均寿命まであとわずかです。対費用効果だけを考えても確かに微妙なのです。日本の大腸内視鏡のように激安ではないからです。患者さんへのメリットという面でも微妙です。むろん彼らは二重盲検による比較試験がないから、という理由で現在は、そして将来も否定をします。ただ背景には普及が不可能な検査をスクリーニングとして認めることに対する危惧があるのは事実でしょう。それを考えて翻訳をしてみます。
At the conference, は「同会議では」と訳しました。theは「同」としました。前の文章を受けているから。proponentsは日本でいうと、「内視鏡派」とか「バリウム派」とか、それを応援する先生方の事だと思います。ここでは「支持者」とか「推薦者」あたりにしようかと。colonoscopy and its virtual counterpartは、どうでしょう。CT colonographyは日本ではバーチャル内視鏡とかバーチャルコロノスコピーとも呼ばれていて、検査の内容としては大腸の内腔を見ると言う意味で同義の検査です。counterpartはよく似たものという意味だから、its virtual counterpartはやっぱりバーチャルコロノスコピーをちょっと華麗に言い表してみたって感じなんでしょうね。じゃあ和訳も華麗に言い表さなくちゃって事になります。でも堀口大學ではないので、「バーチャルな同等手段である」とかいう日本語しか思い浮かびません。
proponents promoted these two options, despite --ということなので、「なんか不利な条件」をものともしないでこの連中はこの検査をぐいぐい宣伝した~っていう意味なのだとはわかります。じゃあその不利な条件ってなんでしょう。
despite the fact that achieving high rates of screening solely with colonoscopy or CT colonography appears unlikely given the current lack of capacity and number of trained providers.
これがよくわかんないので、
the fact that___ appears unlikely given the ___
とする。
だいたいgivenの品詞はなんなのか、高校のときによく勉強すりゃわかったんでしょうが、今じゃ「英文法精解」も絶版になっちゃって売ってないわけです。あと、アメリカ人はlikelyとunlikelyが好きですね。未だにピンと来ない英語です。しょうがないから、the current lack of capacity and number of trained providers.を先に訳すとします。lack of はcapacity とnumberにかかると思います。で、trained providersは専門医とか翻訳したいところですがそれは控えて「訓練された医療提供者」とします。専門医とか他の専門資格は扱いが微妙です。the current lackなんですから、アメリカではこれらの欠如がすでに既知の問題なんでしょう。「キャパシティと訓練された医療提供者の不足」と暫定的にしておきます。
次にgivenなんですが、これ、わかんない。だから取り敢えず訳さない。先に___ appears unlikely ___を考える。appearsは自動詞だからここで先に achieving high rates of screening solely with colonoscopy or CT colonography を翻訳すると、「大腸内視鏡あるいはCTコロノグラフィーそれぞれの検診率が高くなっている事」となります。これは現在のアメリカの現状だと思います。それがappearしてきたと。でそれらはthatに内包されるわけで、それがthe factになるのでしょう。すると文章の構造は、the fact unlikely given ___みたいになる。「大腸内視鏡あるいはCTコロノグラフィーそれぞれの検診率が高くなってきた事実」は、unlikely given 「施設と訓練された医療提供者の不足」って事になります。要するに二つの事実は矛盾するって事はわかります。でも、givenがまだわからない。しょうがないから、ここで私は一瞬気を失う事にして、この訳語が出てきました。考えてもわからないもん。
「同会議では、大腸内視鏡検査と、バーチャルな同等手段であるCTコロノグラフィの支持者は内視鏡あるいはCTコロノグラフィーそれぞれの検診の高受診率の達成が訓練された医療提供者の数や容量の現状での欠如をとうてい説明するものではないと言う事実もかかわらず、両選択肢を推奨した」
まあこれなら日本語として通るかなあと。

これも専門家から助言があって、会議では大腸内視鏡検査と、CTコロノグラフィー(バーチャル内視鏡)の専門家達が、実際には施設の容量や専門家の不足にもかかわらずそれらの受診率の成績がすでに上がっている事実をよそに、さらに積極的にこれら二つのオプションを奨励したという方が流れが良いかも知れないと言うことで、私もそう思いました。(2010/2/19追記しました)

despite the fact ___ unlikely given the lack ___
否定的な意味が二つ重なると流れがとても難しくなってこんがらがるのですが、聞いてなるほどなあと思った次第。


そういう苦労をしながら、NCI Cancer Bulletinは翻訳されています。
英文法精解を高校時代に買っておけば良かったと、本当に後悔しています。

2010/02/12

20歳代、十二指腸潰瘍の基本戦略

20歳代の十二指腸潰瘍について基本的な戦略を述べます。

◆20歳代の特徴について(予測)
ピロリ菌の菌量が多い
薬剤の肝臓での代謝が早い
喫煙者が多い(20歳代での十二指腸潰瘍の重要なリスクファクターがそもそも喫煙)
服薬コンプライアンスが悪い
内視鏡時の反射は強い

◇予測される結果
除菌成功率が低い

■成功率を上昇させる戦略
PPIをどうチョイスするか。オメプラールかタケプロンかパリエットか
クラリスは400mgか800mgか
禁煙は絶対必要
コンプライアンス上昇のためのきちんとした説明と同意

□その他
除菌後の逆流性食道炎は心配しないで良い、むしろ改善する
除菌後の体重上昇は禁煙による影響以外は必要ない
内視鏡検査に関するトラウマを残さないように気をつける

●まとめ
ラベプラゾール20mg+クラリスロマイシン800mg+アモキシシリン1500mgを基本とし、
それにソロン、LG21などを併用することも考慮する
2週間法や、PPI倍量が保険診療で可能になるとなお良い
禁煙指導および、きちんとした服薬を指導する
除菌後は運動、食事などについても指導を行い体重上昇に留意する
成功してライフスタイルを改善させれば、その後の人生を劇的に変化させるパワーのある治療であることに我々自身が気付き、個々にきめ細かく取り組む必要がある

2010/02/10

目標は共有されねばなりません。

私と患者さん、そして患者さんに付き添ってきた人の目標は共有されねばなりません。

何を言ってるのかこの医者は、と思われるかもしれませんが例えばこういうことです。



夕方(もう何も検査は出来ません)に気持ちが悪いと来院した場合。

私の目標:とりあえず今晩、健やかな眠りが訪れますように。

患者さんの目標:今、とりあえず楽になりたい。

という風にあまり齟齬がありません。そこに付き添ってきた人が登場して話をややこしくすることがあります。

付き添いの方の目標:原因はなんなのか。今後はどうなるのか。それが知りたい。

私が付き添いの方の希望とか目的などを面倒でも聞く様にしているのは、こういう齟齬がしばしばあるからです。そしてあとが面倒なのです。しかし重症で見るからに異常が見え隠れしている病態ならまだしも、なんとなくおかしいなという状態で、しかも話を聞いて診察をしただけの状態で、原因は何か、今後どうなるのか、答えるのが如何に困難な事かは私とつきあっていれば理解できるはずなんだけどなあと思います。と思う理由は付き添いの方は大抵当院に初めて来院したわけではないからです。

そういうときには正直に私の本日の目標を話します。今晩超えられることが第一です、と。それで理解できない方は幸いあまりおられませんので、次のステップへ進むことが出来ます。もしも改善しない場合、あるいは改善しても原因検索が必要な場合は検査を行うかもしれませんが、それはそれなりに早い時間に来院することが必要となります。

当院は確かに混みますから、混むのがいやだからと終わりぎりぎりにいらっしゃるお気持ちは理解できるのです。しかし実際問題それではあまりメリットは享受できないという事です。

2010/02/08

帰り際の決まり文句について

例えば腹痛と嘔吐とか、腹痛と下痢、発熱、などで患者さんが来院された場合には、脱水の程度を推し量って治療の後、多くの場合ウイルス性の胃腸炎と診断してお帰りいただくのですが、診察を終了する間際に必ず言うことがあります。

血尿、はっきりとした血便、高熱の持続がある場合の指示です。

実際の指示はやや煩雑なのでここには書きません。
ウイルス性の胃腸炎は放っておいても良くなるから良いのですが、病原性大腸菌であるとかビブリオなどという細菌性腸炎は重症化してしまうことがあるためその兆候を見逃したくないからです。
ゼリー状の血液が出た、ぐらいは良くあることで、ここで言う血便は本当に血液。血液が出た場合でも実際にはほとんどが虚血性大腸炎です。でも高熱が持続したり、尿が茶色っぽいなどというとやはり細菌性じゃないかとか溶血が起きてるんじゃないかと調べる必要があると考えるのです。私が経験したO-157の症例はしかし腹痛のみで血便はありませんでしたが、極めて印象的なエコー像を呈していました。
私の場合細菌性腸炎はエコーで診断するので、実際にはこの注意は念のためのものなのですが。

しかしいつかは役立つかもしれないので、やはり血尿、血便、高熱の持続については毎度言い続けるのでしょう。