2019/08/18

カフェインとコレステロール

コレステロールが高い若い人々を多く見るようになったが、実際に上昇トレンドなのか、採血をする機会が増えたせいで目立つのかはわからない。日本赤十字社はデータを持っているはずだが公開しておらず、彼ららしいと思う。(正常値の決定に利用などはされているようだ)データのオープン化は社会貢献のひとつだと思うし、ナショナルデータベース云々よりも以前に議論されなかったのは不思議だ。(貴重な食後のデータも含まれるのに)

カフェイン摂取量など生活習慣の変化と関連している可能性は当然ある。カフェイン摂取者でコレステロールが上昇するとの観察研究はとても多いのだ。
仮にカフェインが原因であるならば機序はなにか。ゆっくり調べたことはなかったのだが、二次性高脂血症には利尿剤が原因となるものがあるのは有名である。例えばサイアザイドやループ利尿薬はコレステロールが上昇する。カフェインは利尿剤の一種なのであるから、どこかで機序がかぶってもおかしくはなかろうと患者さんには説明している。(機序に関して書かれた論文を探しているのだがまだ見つけられない)

コーヒーはノンカフェインであってもコレステロールを上昇させると言われている。だからといってそれが有害だとは思わないが。コーヒーの油、ジテルペン内にはカフェストールという物質が含まれ、これがコレステロールを上げるというのだ。例えばコーヒーを金属フィルターを使って濾した場合には油が浮いているのが見える。一方ドリップコーヒーの場合にはほとんど吸着されてしまいカフェストールは含まないとされている。エスプレッソには若干含まれる。だったら猿田彦珈琲で金属フィルターで濾過したコーヒーは?

一方コーヒーにはポリフェノール(クロロゲン酸)は豊富であるし、抗酸化作用もあるとされるから、相殺される?ぶっちゃけどうでも良い話である。
コーヒー1杯あたりのカフェイン量は60mg程度である事は覚えておいて良い常識である。常識と書いたが一体何ccだ?(平均すると140cc程度のようだ)高温で抽出するエスプレッソは、少しカフェインが飛ぶので少なめになる。多量にカフェインを含むはずなのに玉露では覚醒作用が弱い気がするのはタンニン(ポリフェノールの一種)のせいだとされるが、タンニンとポリフェノールの違いはカフェインとの結合率のようである。


茶カテキンの構造


コーヒーのクロロゲン酸はタンニンとしての活性がほとんどない

さて、若年者でコレステロールが高い人にインタビューを繰り返していると、エナジードリンクへの嗜好が有意に高そうだと気付いて妙に納得してしまった。(一方で脂肪肝など肝障害においてはストロング系アルコール飲料を飲んでいる人が特にやばい印象がある)
エナジードリンクにはカフェインの悪い作用を打ち消してくれそうな成分が何もない。

カフェインでコレステロールが上昇する機序はわからないと書いたが、インスリン感受性の低下、胆汁酸の分泌抑制などが考えられており、エストロゲンには保護的作用があるらしく、男性でより上昇することは現状を良く説明するように思われる。

こうした現代の脂質プロファイルの変化については、一層注意を払っていきたいと思う。

2019/07/15

ラショウモンエフェクト

物理学者のファインマンさんの言葉を引用したザ・ニューヨーカーの記事で、"the Rashomon effect"という言葉があり、それは羅生門効果というものだということを初めて知りました。

1964年にコーネル大学での講義で、あのリチャード・ファインマンさんは2つの物体が引き合う事をどう説明するかについて三様の説明があることを示しました。ニュートン力学によるもの、重力による時空の歪みによるもの、エネルギーの最小化に伴うもの、があって、それぞれほぼ正しい予測を導くというものです。フェインマンさんはこのように、自然とはいくつもの解釈体系を持っている事が驚くべき特徴である、と述べたのです。

一般に、法律、であるとか、常識のような人間が作り出したものはこのような多様性はありませんよね?ところが自然のこうした神秘的な特徴は、しばしば学問を難しくしてしまいます。多様性がありすぎて。

例えばダークマターが一体なにか、という事について我々はまだ答えを得られていません。ある観察をすればこういう証拠があって、別の観測をしたらこういう証拠があった、これが羅生門効果を生み出してしまい、真実を覆い隠してしまっているようなのです、今のところは。

と言うことに物理学者は気づいている、というようなザ・ニューヨーカーの記事です。細かく見ていけば見ていくほど、彼らは既存の法則には矛盾があることに気がつきました。前述のファインマンさんの言葉は確かに自然の神秘をあらわしたものだけれども、実際には「ほぼ同じ」なのであり、細かく観察したときに競合します。それを突き詰めて考えたときに正しい事がしばしば判明する、という事を歴史上繰り返してきたのです。

今後も生じるいろいろな矛盾を越えていくためには、今までの理論を再定式化する事が大切だと物理学者は考えています。ファインマン・ダイアグラムはその一例です。Scattering Amplitudeはそこから派生して生まれました。アインシュタインの理論はビッグバンの瞬間にさかのぼったり特異点では通用しません。空間も時間も参照しないScattering Amplitudeならば書きあらわせる可能性があります。

https://www.newyorker.com/science/elements/a-different-kind-of-theory-of-everything

ファインマン・ダイアグラムを画像をアニメで解説
https://www.youtube.com/watch?v=qe7atm1x6Mg
(日本語解説:https://gigazine.net/news/20190516-feynman-diagrams/

と、いうような事を、記事を読んで2時間後にここに私が書いたのはなぜなのでしょうか。

①巨視的に物事を見たときと、詳細に物事を見たときにはしばしば食い違いが見られるのであるが、それについて「なぜか」「どこかに間違いがないか」「実は同じことを見ていないか」「何か真実が隠れていないか」そういう視点に欠けている人々が多い。私の仕事は患者さんにその矛盾に見える食い違いが矛盾ではないことを知ってもらうこと、と言っても過言ではないほどです。人の体については特にそうだから、羅生門効果を自覚しておくべきだし、自分はもともと意識しているので、私の意見は参考になるはずです。(と、患者さんに信頼してほしくて書いています)
②社会においていろいろな矛盾が生じるのは(自然Natureとは違い人間が作り出した一種のゲームの世界だから)当然の事で、それをどう修正していくかについても多数の視点で見るトレーニングを積んでいる人はまだ少ない。若い人々には大きな可能性があるので深く勉強してほしい。逆にゲームを馬鹿にするような大人は(略
③ファインマンさんは巨大な頭脳であるので、「ご冗談でしょう、ファインマンさん」は読んでおこうと思った。(もう読んだ気もするが)
ミチコカクタニさんがTwitterでRTしていたのでこの評論を読みました。ミチコカクタニさんは引退したけれど超有名な辛口書評家です。知性に触れたい場合、こういう有益な情報源があります。