2016/03/12

内視鏡は情報量が多いためすべてを説明しようとすると無理であり、それをどう抽象化するかが医師の実力の差となる。

内視鏡医の技量には3ステップあると考えています。


第一に手技ですが、これは誰でも一定のレベルに達する事が可能です。世間で「自分は上手い」と思っている医師の半数ぐらいはこのレベルかと。
イノベーターとなるのは各世代で数人ではありますが、その何十倍の人間がすぐに追いつく、を繰り返す世界です。車輪の再発明も多い。その何十倍かの人間はそこそこの技量を持って診療に当たるでしょう。一定のレベルの上に行くにはどうしたら良いのでしょう。才能がない人間に必要なのは生理学と解剖学と物理学の知識ではないですか?

第二に情報収集能力です。これは少し才能が必要かもしれませんが、才能があるのに教科書をまじめに読まないような人間ほど「独自理論」を作り出してしまいます。内視鏡用語集を熟読しないような医師にはあまり診てほしくないです。1年でトップレベルになる若い医師はこの才能に恵まれている人です。

第三に情報の抽象化です。これは意識してやっている人は少ないかもしれません。時々「不思議と癌を見つけてしまう」という人がいますが、才能です。「褪色は癌」などといった単純な知識では癌は見つけられないのです。私は才能がないのでしょうか、意識をして行います。これが内視鏡をしていた最も頭が疲れる作業です。内視鏡は情報が多すぎるので、すべてに意味がある、と思いこむと矛盾の沼にはまります。どれを捨て、どれを取るのか、それを行う作業が抽象化です。

エコーも似たようなもので情報量が多すぎるので、どう捨てるか、が上達の決め手になるかもしれません。指導を受けている人は、指導者から教わるときに彼が今なにを捨てたか、を意識してください。つまり「指導者が何を捨てたか」がわからないといけないという事です。それには座学が重要だし、観察力と一時記憶が重要になります。種々の情報をなるべく捨てずに済む、一時記憶量が多い人ほど当然うまくなるのは早いと思います。

注目すべきでない事をしつこくつついてくるトレイニーは要注意です。たいてい捨てている情報というのは非特異的だから、あるいは例外的だから捨てているのですが、これは10人、20人と繰り返していくと自然にそうだとわかるはずの事です。一回聞くのは構いませんが、しつこく聞いてくる人は大丈夫かしら?と心配になります。そういう情報から何かパターンを見出す能力があるとすれば人工知能(ディープラーニング)であって人間ではありません。将来は人工知能から我々が学ぶのです。

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