MRさんが見えて、「この薬は1ヶ月経つとだんだん効いてくるのが不思議で、体質改善作用でしょうか」と仰いました。
「体質改善、などとわけのわからない言葉をみなさん使いますが、要するに受容体のアップレギュレーションかダウンレギュレーションで理解出来ます」と私は言いました。ますますわけがわからないと言われそうなので説明します。
例えばロゼレム錠8mgという薬があります。これはメラトニン受容体アゴニストです。予想外に売れているんだそうです。
私はアメリカにいた頃にメラトニンは飲んだことがあります。確かに良く眠れるので色々な種類を買って試していました。
メラトニンというホルモンは松果体から分泌されるホルモンです。松果体はマウスでは脳の一番表面にあって光を感じています。マウスの頭蓋骨は薄いから周囲の光がある、ないを感じる事ができます。放出されるホルモンの分泌には日内変動が起きます。メラトニンが動物の日内リズムを司ると言われると容易に納得が出来るのです。
人間の松果体は脳の奥深くにあって、光を感じる事は出来ません。恐らく視覚から光の情報を得ていると思いますけれど、マウスより少し高等になってしまっているので、真っ暗にすると眠くなるというわけでもないのでしょう。
メラトニン分泌量は年をとると減ると言われています。これがお年寄りの日内リズムが狂いやすい事と関連がどの程度あるのかわからないのですけれど、少なくとも「だったらメラトニン飲めばアンチエイジングじゃないの?」という短絡的な考えは誤りではないかと思います。でも20年前にはそういう風潮があったのは事実で、ずいぶんアメリカでのメラトニン市場は大きかったと思います。
MR氏によれば、「しかし市販のメラトニンはすぐに代謝されて効かないので、是非ロゼレムを」という事でした。
これは私が色々試した中では「メラトニン舌下シロップ」が一番効果があったことと矛盾しません。メラトニンを舌下した場合、肝臓で代謝されずにすぐに体循環に回りますから効くのは当たり前です。どうして市販薬は全部舌下にしなかったのか不思議でなりません。そういえば、ビタミン剤もチューインガムに含ませると吸収が良いのに、売れないらしくてもう発売はされていません。
またMR氏によれば「時差呆けを直すには、なぜか1mgが良い」という事でした。
これはある意味当然かも知れません。恐らく8mg使用すると、受容体のダウンレギュレーションが起きるか、あるいは松果体でのメラトニン分泌は数日間は抑制されてしまうはずです。そうすれば時差呆けどころでなくて眠れなくなってしまう可能性がありますので、1mgの投与というのは適切なのでしょう。
最後に体質改善の話が出て来たのです。
想像でしかありませんが、不眠がある場合にはメラトニンは過剰に出ているか、ほとんど出ていないかなのだろうと思います。その時にその受容体は発現が抑制されていたり、逆に過剰発現したりしている可能性があります。それが1日に1回、8mgの受容体アゴニストが投薬された場合には、少なくとも松果体からのメラトニン分泌は抑制されるでしょう。一方で受容体についてはその発現が徐々に正常化あるいはややダウンレギュレートされた状態で発現するのではないでしょうか。それに1ヶ月かかるのだとすれば、「1ヶ月経つとだんだん効いてくるのが不思議」が説明されると思うのですがどうでしょう。
泌尿器科領域では、この薬が夜間の膀胱の過敏性を抑制するという報告があるそうでこれから治験が行われるそうです。もともとメラトニンは夜のホルモンですから、膀胱に受容体がある可能性はありそうですし、もしかしたら腎臓にも受容体があって尿量を抑制するかも知れません。
いわゆる「体質改善」を謳う薬については、このような受容体の数の調節が関与していると理解しております。漢方薬についても、「ゆっくり効いてくる」というようなものについては同様の理解をしています。
一方で、胃腸の薬にはあまりゆっくり効いてくる、というものは普通はありません。2,3日で決着はつきます。ある種のヨーグルトが、「1週間お試しを」というのは胡散臭いと思っていて、効くなら2日で効くだろう、と思うのは私だけでしょうか。
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