2017/04/30

母子感染症(サイトメガロウイルスやトキソプラズマを含めて)

みなさんは口の周りにブツブツが出来て「ヘルペスですね」とお医者さんに言われたり、周りの人に「ヘルペスね」と言われたりしたことはありますか?あなた自身、あるいは周囲の人で「帯状疱疹にかかって痛かった、大変だった」と仰る人を見たりしたことがあるかもしれません。口の周囲のヘルペスも、帯状疱疹も「身体の抵抗力が落ちたからなるのよ」などと言う人を聞いたことがあるのではないでしょうか。たしかにヘルペスはお薬を飲んで一旦改善しても疲れると再発することがありますし、帯状疱疹も何度もかかる人がいます。そもそも帯状疱疹は水痘(みずぼうそう)のウイルスが死なずに生き残っていて再燃することによって起きる病気です。サイトメガロウイルス(CMV)、という聞きなれないウイルスもこうしたヘルペスや帯状疱疹を起こすウイルスと同じヘルペスウイルス科に属するウイルスです。

感染症はなっちゃえば二度とかからないのよ、という話は嘘だ、という事はみなさん理解してほしいと思います。そして初めて感染したときには死んでしまったり永久に後遺症を残すことがあります。したがって感染症はワクチンで予防が出来ればその方が良いのです。ところがヘルペスウイルス科の感染症には有効なワクチンは今のところ水痘(みずぼうそう)しかありません。だからヘルペスウイルス1型2型(HSV-1、HSV-2)、エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)はその感染率の高さも相まってしばしば大きな問題になるのです。

人間はワクチン以外の方法では安全にウイルスや細菌に対する免疫を獲得することは基本的には出来ません。特に問題になるのは妊娠中の女性です。妊娠中に免疫を持っていないウイルスや細菌に感染してしまうと、自分ばかりか胎児にも感染を生じてしまい、死産や早産、赤ちゃんの病気、赤ちゃんに先天的な異常を起こすことがあります。だから妊娠中は気を付けなさいと言われるのです。また周囲の方は妊婦さんにうつさないように気を付ける必要があります。そのような感染症には以下のものがあります。(関連リンク:東京都保健福祉局

厚生労働省のパンフレットによりますと妊婦健診で調べている感染症
 B型肝炎ウイルス
 C型肝炎ウイルス
 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
 梅毒
 風疹ウイルス(関連リンク:風疹をなくそうの会「hand in hand」
 ヒトT細胞白血病ウイルス-1型(HTLV-1)
 性器クラミジア
 B群溶血性連鎖球菌(GBS)

妊婦健診で調べていないが、母子感染が少なくないと見積もられている感染症は
 ヒトパルボウイルスB19ウイルス感染症:伝染性紅斑、リンゴ病(関連リンク:国立感染症研究所
 サイトメガロウイルス(CMV)(関連リンク:TORCHの会
 トキソプラズマ(関連リンク:TORCHの会
 インフルエンザ
 呼吸器や腸の風邪とされるエンテロウイルス71、コクサッキーウイルスA9、コクサッキーウイルスB3、B4、B6

この他に
 水痘ウイルス
 麻疹ウイルス
 エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)
 ヘルペスウイルス(HSV)
 ジカウイルス(関連リンク:国立感染症研究所

などがあります。
それらの感染症はきちんと対策を取ることができますが、一般の内科や産科での指導が行き渡っていない場合もありますから関連リンクを出来れば読んでいただいて、知識としていただければと思います。

うんと端折って書きますと、きちんと手洗いをする、小さな子供との接触に気を付ける、肉はしっかり火を通す(生ハムなどはだめ)、殺菌されていないミルク由来の乳製品に注意、ネコ、ネズミなどの動物との接触に注意、コンドームを使う、打てるワクチンは打つ、検査をしてもらう、なのですが、あなたがおかかりのお医者さんでトキソプラズマやサイトメガロウイルスを検査してもらえない、あるいはどこで検査を受けたら良いのかわからない時には当院に相談してください。

今回の記事は、いわゆるキュレーションサイトの記事の質が低いと考え、自分はどうか、を念頭において書いたものです。(普段書く文章はむしろ少しニッチな内容が多い)内容は他と変わりません。しかし書き方を変えることで少数の人に「ああワクチン大切だな」「いろいろ感染症あるんだな」「それでもわからなかったら信頼できるお医者さんに質問すれば良い」と理解してもらう事を目的としています。

記事を書くにあたり、一旦完全に理解するように努め、古いレビューと最近のレビュー(時代により書き方が異なっている)を読み、押さえておくべき関連リンクをリストアップしました。しかし読者を戸惑わせぬようにするためには最後に「わからなければ私へ質問」という文章を入れざるを得ません。書いてみてわかりましたが、質問を受け付けないキュレーションサイトという存在(多くのマスコミもそうですけれど)には疑問を持たざるを得ませんでした。

2017/04/29

キュレーションメディアの役割はなんだったのか

コンプライアンスに抵触し多くのキュレーションメディアが閉鎖されました。
welqによる粗悪な健康記事に端を発しDeNA関連のキュレーションメディアがすべて閉鎖された報道はお目になった方は多いでしょうけれど、それとは関係ない生活をしておられる方もまた多いでしょう。


インターネット広告を収入源にするビジネスモデルの弊害が直接目に触れた事件として印象的です。粗悪なキュレーション/広告事業はひたすらユーザーにページをめくることを要求するのみです。ユーザーを人間ではなくページをめくる動物だと捉えていると言ってよい。
大手の新聞もやっている事ですが、

 記事を無駄に長くする
 次ページのボタンを押させる
 ソースの意見を捻じ曲げる事を厭わない
 コピー&ペーストを躊躇しない
 広告以外のサイトに直接リンクを張らない


このような特徴を持つ記事が氾濫しています。その原因としてはページの閲覧回数を成果として評価される事、文字当たりの報酬になっていること、スピードが要求される事、ライターの力量がない事、チェックが働かない事、広告以外には絶対に誘導しない意思、などが挙げられます。その背景には、優良なコンテンツがレスポンシブデザインに対応しておらずスマートフォンでは見られない事情があります。(当ブログはレスポンシブデザインですが、アクセスはスマートフォンからのほうが多い)その隙間産業としてキュレーションなるビジネスモデルが生まれたのは当然かもしれません。質は低いのですが。

では逆に、すぐれたキュレーション(ないけど)とはどういうものでしょうか。

 記事は極めて短く、本質を突く(400文字以内)
 直接ソースに飛べる
 ソースのわかりにくい部分を正しく伝える
 完全にライターの頭脳で内容が消化されてから書かれるのでコピペにならない
 ターゲットを完全に意識する*

文字ではないのですが、医療用イラストレーションで有名な医師ネッターさんの仕事が思い出されます。忠実な解剖図ではないのだが、本質を外さず、しかも美麗で、そして何も見ずに書いた、とされています。

優れたライターとして現在評価されているのは発想が豊かな人々であって、それはお笑い芸人とかクリエイターと呼ぶ方が近い。正しい意見は理路整然としすぎていて、あまり人の注目を集めません。メディアはその壁に当たり、収益のためには炎上上等、嘘は必要悪だぐらいに思っている広告代理店の偉い人が多いようですが、彼らの仕事こそAIに置き換えられる可能性を最初に指摘されていたことを忘れてはなりません。

さて医者の仕事は上質なキュレーションの特徴を有しています。小難しい医療を、患者さんひとりひとりにあわせて説明しています。私自身は患者さんすべてに違う言葉で説明をしています。一人の患者さんが理解できるまで3通り5通りの説明の仕方をするのは珍しいことではありません。患者さんそれぞれに響く言葉は違うのです。

優れたコンテンツであっても、例えば小説ならば大ヒットして100万部、日本の人口の1%に満たない人にしか届かないのは人間の多様性を考えるにしょうがないことです。しかし、必ず届いてほしい大切な情報はあるのです。それらを、キュレーションによって100通りの言葉に変化させたらどうでしょう。そうすれば沢山の人々に届くのではないでしょうか。

キュレーションメディアの本来の存在意義はそこにあり、コピペの入る隙はありません。ターゲットを絞りますので炎上させる必要もありません。インターネット広告は水増しなどが横行し、ビジネスモデルの化けの皮が剥がれてきつつあります。その代わりにブロックチェーン技術を利用し「相手にきちんと届いたか」を評価する時代です。読者が少なくても報酬面での問題は大きくないかもしれない。welqはつまづきましたが、有用な情報を、様々な人に、違った表現方法で届ける、そういうメディアが求められている、と思います。

2017/04/03

情報には序列をつけよ

診るのを避けたい、あるいは時間の浪費だ、と思うのだけれど、
患者の中に病態についての質問ではなくて、
「A医師はこういいました、B医師はこういいました、どちらが本当ですか?」という質問をする人がいる。特に混んでいるときは本当にやめてほしい。私の診察と関係ないのだから。

答えは簡単で、主に以下の4通りがある。
1)A医師の言い分もB医師の言い分も論理的に矛盾がなく、その疑問を持つのは間違っている。
2)A、ないしはB医師が正しい。
3)A医師もB医師も間違っている。
4)まだ結論が出ている問題ではない。好ましい方を選べば良い。

AないしはB医師のところに私の名前を入れる人もいてそれは若干礼を失している。過去1ヶ月間どちらの言うことを聞いたのか、例えばA医師の説明通りにした場合には以後A医師にかかるべきである。B医師の説明通りにした場合には以後B医師にかかるのが道理である。B医師にはこう言われたけれどA医師の言うとおりにしてみた。でもなんとなく調子が悪い。つまりB医師の言い分のほうが正しかったらしいけれど、本当に本当にそうなの?と確認する意味で「A医師とB医師とどちらが正しいのでしょう」ともう一度B医師に質問することは愚弄である。

医師に信頼の序列をつけることが患者の選択だと言える。選択したのなら選択したほうにかかるべきである。ドクターショッピングとは次から次へと選択を変更する行為で時には愚かだし、ある程度以上は診療費は自費にすれば良いと思うけれど、一貫しているといえば一貫しているといえる。それを勧めているわけではないが。

そもそもこうして医者の前でのふるまいを間違える人々は、その後フィードバックを繰り返しながら修正するというような本来の医療の姿を見ることなく終わる。残念。

興味深い事も起きる。A医師のところに過去の私、B医師のところに現在の私の名前を入れる人々である。例えば10年前にこう言われた、という話を持ち出してくる。その場合には答えは以下の3つである。
1)A医師の言い分もB医師の言い分も正しく、矛盾はない。(条件が異なる)
2)B医師が正しい。(医療は進歩する)
3)あなたの記憶が間違っている可能性がある。(10年前でもその説明はしなかっただろうと考えられるいくつかの証拠がカルテに残っている)
いずれにせよ、B医師の言い分を選択するのが賢いと言える。

当院には医師が二人いるけれど、他院に比較するとおどろくほどκ比(診療の一致率)は高く、そうした問題が起きにくいが、仮に二人が違う説明をした場合にはどちらの考えを採用するか、の問題は出るだろうとは思われるので、やはり序列をつけるべきである。

医師に何か言われた後にナースや薬剤師に何かを言われたと言って情報を上書きする人々がおられる。そしてナースに確認してみると、そのような事は言っていないと言う。残念ながら記憶違いなのである。カルテに6ヶ月後来院すべき、と書いてあるのに来院しない人々の殆どは情報の序列の付け方に混乱が見られる人々であり、前述の人々と問題の根は同じであるように思う。

情報をすべて公平に扱って正しい答えが導き出せるのは我々のような訓練されたプロであり、みなさんには無理だ。みなさんは誰の情報を優先すべきか、をまず考えれば、医療上の不利益を被りにくい。