2017/06/23

患者さんが使うと割りとナイーブに反応する言葉がある。

「昔からそうなんですが」

複数回受診している患者の場合には「今まで話していなかったのはなぜだ?」と感じる。
それは取るに足らないと患者が判断していたのだろうか。
しかし丁寧に聞き取りをしていると、患者の記憶が間違っていて、徐々に症状が変化しているらしいが自身はそう感じておらず一貫してその症状だったと思い込んでいる例も散見される。何れにせよ、この言葉を初診以外で使う人には注意している。

初診でこの言葉を使う人には「表現が大雑把だなあ」という感想を持つ。



「全然効かなかった」

この言葉は自分の症状を正確に把握することが難しい人が発することが多いため、注意している。薬や治療の効果というのは一言では言い表せないものであるのだが、それを簡単に「全然」という修飾語を使って表現する人は、正解から逆に遠ざかっているケースすら多い。もちろん本当に効かないケースはあるもののこちらは具体的なフィードバックを期待している。うまく表現が出来ず困ってもじもじしている人には助け舟を出すので、問題ない。少なくとも一刀両断な表現で断じる事は避けたほうが良いと思う。



「ありとあらゆることを試した」

人間が考えつくアイディアというのは一部に過ぎない。したがってまだ試していない、あるいは考えていないところに答えがあるかもしれない。どういうことを試したか、を聞きたいのに「全部」と答えられてしまうと困る。記憶よりも記録が欲しい、といつも言っているのだけれど、それは消去法で考えていく時に必要だからだ。


論理的に思考して診断を考える時には、患者からの正確な情報収集が不可欠だがその妨げとなりやすい言葉がある。その場合丁寧に言葉を選んで患者の考えを解きほぐしてその真実を明らかにしようと努力するのであるが、比較的高度な作業だと言える。

2017/06/06

人工知能の現状と競争放棄

人工知能の現状と競争政策
http://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.files/170331data02.pdf

というスライドがWebに転がっていました。
政策放棄、に空目したので、面白いなと思いました。

仰っている事は完全に正しい。

データを開放せよ、ないしは自由に「出来る奴」に使わせよ。

ハードウェアを開発せよ。つまりロボットを作れ。
(頭脳の部分はどうせ横並びになるのだ)

2017/05/28

遠隔診療のはじめかた

■保険外併用寮費の報告
 関東信越厚生局のホームページより様式をダウンロード(→リンク
 2通作成し、送付
 1ヶ月以内に1通返送されて来て準備完了
 予約診療料の設定をしない場合は不要

■curon ないしは CLINICS ないしは LINE@ ないしは Skype の準備
 curon(クロン)の問い合わせ先→リンク
 CLINICS の問い合わせ先→リンク
 LINE@の問い合わせ先→リンク
 Skypeの登録→リンク

■LINE@あるいはSkype利用の場合には決済サービスへの申込み
 楽天ペイ→リンク
 coineyペイジ→リンク
 YahooウォレットFastPay→終了
 LINE pay→リンク
 など

■患者との通話端末は脆弱性を持つと考える事
 ネット接続側には患者の医療情報を持たないこと
 遠隔診療をしている医療機関は明らかに攻撃対象になる
 (私がクラッカーならまずクラウド、遠隔診療をしている医療機関を
 攻撃対象とする)
 >USBリンクケーブルを利用して最低限必要な情報をやりとり
 >患者氏名をニックネームで隠蔽
 >ここには書けない仕組みの情報伝達デバイスを用意

■院内に掲示する
 「お薬だけ必要な場合には処方箋を送付・
  薬を送付することが可能です」
 「登録はこちら→QRコード」
 その情報は院外に出さないこと。
 漏れたらコードを変更することも考慮。
 ただし基本的に通話は医師→患者という方向なので、
 普段は着信拒否しておけばよく、
 curonやCLINICSにあるような再診コードなどのシステムは
 必ずしも必要ない。

■送付について
 レターパックプラス・レターパックライト→リンク
 宅急便コンパクト→リンク

■処方箋の期限について
 発行日を含め4日以内に患者が薬局に行くことは困難なので
 期間延長する。

■記録
 スクリーンショットの記録、診療内容の記載

<患者さんへ>
遠隔診療クリニックの選び方
1)予約外診療料はいくらかかるか
 0円か500円か2000円か5000円か
 自分が通院に際してどのくらい時間と交通費を使っているかを
 考慮して、妥当な価格かどうかを考えること。
 遠方の患者が多く混雑する医療機関は
 ある程度高めの値段を設定するはず。
2)curonかCLINICSか、あるいはLINEかSkypeか
 curonは600円~の手数料がさらにかかる。
 スマホとクレジットカードは持っていないといけない
3)院内処方か院外処方か
 院内処方のほうがかなり安いし、
 院外処方は薬局に行かねばならずメリットがほとんどない。
 院内処方を売りにする遠隔診療クリニックは増加する
 はずであるので、それを待つ。
 処方薬に冷蔵品がある場合など、宅配では対応できない場合が
 あります。その場合は必ず院外処方です。
 処方箋薬局の宅配サービスを利用するのも一方です。
4)プラスアルファがあるか
という事で選んでください。

2017/05/20

不要なプロトンポンプ阻害薬(PPI)を使わないアルゴリズム

Deprescribing proton pump inhibitors
Evidence-based clinical practice guideline

Barbara Farrell, Kevin Pottie, Wade Thompson, Taline Boghossian,
Lisa Pizzola, Farah Joy Rashid, Carlos Rojas-Fernandez, Kate Walsh,
Vivian Welch and Paul Moayyedi
Canadian Family Physician May 2017, 63 (5) 354-364;

不要なPPI処方が多いので、やめましょう、という提案です。(繰り返し繰り返し書いていますが)
いつもこういう事言ってると「鵜川医院は薬使わない派ですか?」って聞かれますがむしろ逆。バリッバリの西洋医で「効く薬をガッツリ使う。早期介入命」って答えています。
とりあえず英語のまま掲載します。


2017/04/30

母子感染症(サイトメガロウイルスやトキソプラズマを含めて)

みなさんは口の周りにブツブツが出来て「ヘルペスですね」とお医者さんに言われたり、周りの人に「ヘルペスね」と言われたりしたことはありますか?あなた自身、あるいは周囲の人で「帯状疱疹にかかって痛かった、大変だった」と仰る人を見たりしたことがあるかもしれません。口の周囲のヘルペスも、帯状疱疹も「身体の抵抗力が落ちたからなるのよ」などと言う人を聞いたことがあるのではないでしょうか。たしかにヘルペスはお薬を飲んで一旦改善しても疲れると再発することがありますし、帯状疱疹も何度もかかる人がいます。そもそも帯状疱疹は水痘(みずぼうそう)のウイルスが死なずに生き残っていて再燃することによって起きる病気です。サイトメガロウイルス(CMV)、という聞きなれないウイルスもこうしたヘルペスや帯状疱疹を起こすウイルスと同じヘルペスウイルス科に属するウイルスです。

感染症はなっちゃえば二度とかからないのよ、という話は嘘だ、という事はみなさん理解してほしいと思います。そして初めて感染したときには死んでしまったり永久に後遺症を残すことがあります。したがって感染症はワクチンで予防が出来ればその方が良いのです。ところがヘルペスウイルス科の感染症には有効なワクチンは今のところ水痘(みずぼうそう)しかありません。だからヘルペスウイルス1型2型(HSV-1、HSV-2)、エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)はその感染率の高さも相まってしばしば大きな問題になるのです。

人間はワクチン以外の方法では安全にウイルスや細菌に対する免疫を獲得することは基本的には出来ません。特に問題になるのは妊娠中の女性です。妊娠中に免疫を持っていないウイルスや細菌に感染してしまうと、自分ばかりか胎児にも感染を生じてしまい、死産や早産、赤ちゃんの病気、赤ちゃんに先天的な異常を起こすことがあります。だから妊娠中は気を付けなさいと言われるのです。また周囲の方は妊婦さんにうつさないように気を付ける必要があります。そのような感染症には以下のものがあります。(関連リンク:東京都保健福祉局

厚生労働省のパンフレットによりますと妊婦健診で調べている感染症
 B型肝炎ウイルス
 C型肝炎ウイルス
 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
 梅毒
 風疹ウイルス(関連リンク:風疹をなくそうの会「hand in hand」
 ヒトT細胞白血病ウイルス-1型(HTLV-1)
 性器クラミジア
 B群溶血性連鎖球菌(GBS)

妊婦健診で調べていないが、母子感染が少なくないと見積もられている感染症は
 ヒトパルボウイルスB19ウイルス感染症:伝染性紅斑、リンゴ病(関連リンク:国立感染症研究所
 サイトメガロウイルス(CMV)(関連リンク:TORCHの会
 トキソプラズマ(関連リンク:TORCHの会
 インフルエンザ
 呼吸器や腸の風邪とされるエンテロウイルス71、コクサッキーウイルスA9、コクサッキーウイルスB3、B4、B6

この他に
 水痘ウイルス
 麻疹ウイルス
 エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)
 ヘルペスウイルス(HSV)
 ジカウイルス(関連リンク:国立感染症研究所

などがあります。
それらの感染症はきちんと対策を取ることができますが、一般の内科や産科での指導が行き渡っていない場合もありますから関連リンクを出来れば読んでいただいて、知識としていただければと思います。

うんと端折って書きますと、きちんと手洗いをする、小さな子供との接触に気を付ける、肉はしっかり火を通す(生ハムなどはだめ)、殺菌されていないミルク由来の乳製品に注意、ネコ、ネズミなどの動物との接触に注意、コンドームを使う、打てるワクチンは打つ、検査をしてもらう、なのですが、あなたがおかかりのお医者さんでトキソプラズマやサイトメガロウイルスを検査してもらえない、あるいはどこで検査を受けたら良いのかわからない時には当院に相談してください。

今回の記事は、いわゆるキュレーションサイトの記事の質が低いと考え、自分はどうか、を念頭において書いたものです。(普段書く文章はむしろ少しニッチな内容が多い)内容は他と変わりません。しかし書き方を変えることで少数の人に「ああワクチン大切だな」「いろいろ感染症あるんだな」「それでもわからなかったら信頼できるお医者さんに質問すれば良い」と理解してもらう事を目的としています。

記事を書くにあたり、一旦完全に理解するように努め、古いレビューと最近のレビュー(時代により書き方が異なっている)を読み、押さえておくべき関連リンクをリストアップしました。しかし読者を戸惑わせぬようにするためには最後に「わからなければ私へ質問」という文章を入れざるを得ません。書いてみてわかりましたが、質問を受け付けないキュレーションサイトという存在(多くのマスコミもそうですけれど)には疑問を持たざるを得ませんでした。

2017/04/29

キュレーションメディアの役割はなんだったのか

コンプライアンスに抵触し多くのキュレーションメディアが閉鎖されました。
welqによる粗悪な健康記事に端を発しDeNA関連のキュレーションメディアがすべて閉鎖された報道はお目になった方は多いでしょうけれど、それとは関係ない生活をしておられる方もまた多いでしょう。


インターネット広告を収入源にするビジネスモデルの弊害が直接目に触れた事件として印象的です。粗悪なキュレーション/広告事業はひたすらユーザーにページをめくることを要求するのみです。ユーザーを人間ではなくページをめくる動物だと捉えていると言ってよい。
大手の新聞もやっている事ですが、

 記事を無駄に長くする
 次ページのボタンを押させる
 ソースの意見を捻じ曲げる事を厭わない
 コピー&ペーストを躊躇しない
 広告以外のサイトに直接リンクを張らない


このような特徴を持つ記事が氾濫しています。その原因としてはページの閲覧回数を成果として評価される事、文字当たりの報酬になっていること、スピードが要求される事、ライターの力量がない事、チェックが働かない事、広告以外には絶対に誘導しない意思、などが挙げられます。その背景には、優良なコンテンツがレスポンシブデザインに対応しておらずスマートフォンでは見られない事情があります。(当ブログはレスポンシブデザインですが、アクセスはスマートフォンからのほうが多い)その隙間産業としてキュレーションなるビジネスモデルが生まれたのは当然かもしれません。質は低いのですが。

では逆に、すぐれたキュレーション(ないけど)とはどういうものでしょうか。

 記事は極めて短く、本質を突く(400文字以内)
 直接ソースに飛べる
 ソースのわかりにくい部分を正しく伝える
 完全にライターの頭脳で内容が消化されてから書かれるのでコピペにならない
 ターゲットを完全に意識する*

文字ではないのですが、医療用イラストレーションで有名な医師ネッターさんの仕事が思い出されます。忠実な解剖図ではないのだが、本質を外さず、しかも美麗で、そして何も見ずに書いた、とされています。

優れたライターとして現在評価されているのは発想が豊かな人々であって、それはお笑い芸人とかクリエイターと呼ぶ方が近い。正しい意見は理路整然としすぎていて、あまり人の注目を集めません。メディアはその壁に当たり、収益のためには炎上上等、嘘は必要悪だぐらいに思っている広告代理店の偉い人が多いようですが、彼らの仕事こそAIに置き換えられる可能性を最初に指摘されていたことを忘れてはなりません。

さて医者の仕事は上質なキュレーションの特徴を有しています。小難しい医療を、患者さんひとりひとりにあわせて説明しています。私自身は患者さんすべてに違う言葉で説明をしています。一人の患者さんが理解できるまで3通り5通りの説明の仕方をするのは珍しいことではありません。患者さんそれぞれに響く言葉は違うのです。

優れたコンテンツであっても、例えば小説ならば大ヒットして100万部、日本の人口の1%に満たない人にしか届かないのは人間の多様性を考えるにしょうがないことです。しかし、必ず届いてほしい大切な情報はあるのです。それらを、キュレーションによって100通りの言葉に変化させたらどうでしょう。そうすれば沢山の人々に届くのではないでしょうか。

キュレーションメディアの本来の存在意義はそこにあり、コピペの入る隙はありません。ターゲットを絞りますので炎上させる必要もありません。インターネット広告は水増しなどが横行し、ビジネスモデルの化けの皮が剥がれてきつつあります。その代わりにブロックチェーン技術を利用し「相手にきちんと届いたか」を評価する時代です。読者が少なくても報酬面での問題は大きくないかもしれない。welqはつまづきましたが、有用な情報を、様々な人に、違った表現方法で届ける、そういうメディアが求められている、と思います。

2017/04/03

情報には序列をつけよ

診るのを避けたい、あるいは時間の浪費だ、と思うのだけれど、
患者の中に病態についての質問ではなくて、
「A医師はこういいました、B医師はこういいました、どちらが本当ですか?」という質問をする人がいる。特に混んでいるときは本当にやめてほしい。私の診察と関係ないのだから。

答えは簡単で、主に以下の4通りがある。
1)A医師の言い分もB医師の言い分も論理的に矛盾がなく、その疑問を持つのは間違っている。
2)A、ないしはB医師が正しい。
3)A医師もB医師も間違っている。
4)まだ結論が出ている問題ではない。好ましい方を選べば良い。

AないしはB医師のところに私の名前を入れる人もいてそれは若干礼を失している。過去1ヶ月間どちらの言うことを聞いたのか、例えばA医師の説明通りにした場合には以後A医師にかかるべきである。B医師の説明通りにした場合には以後B医師にかかるのが道理である。B医師にはこう言われたけれどA医師の言うとおりにしてみた。でもなんとなく調子が悪い。つまりB医師の言い分のほうが正しかったらしいけれど、本当に本当にそうなの?と確認する意味で「A医師とB医師とどちらが正しいのでしょう」ともう一度B医師に質問することは愚弄である。

医師に信頼の序列をつけることが患者の選択だと言える。選択したのなら選択したほうにかかるべきである。ドクターショッピングとは次から次へと選択を変更する行為で時には愚かだし、ある程度以上は診療費は自費にすれば良いと思うけれど、一貫しているといえば一貫しているといえる。それを勧めているわけではないが。

そもそもこうして医者の前でのふるまいを間違える人々は、その後フィードバックを繰り返しながら修正するというような本来の医療の姿を見ることなく終わる。残念。

興味深い事も起きる。A医師のところに過去の私、B医師のところに現在の私の名前を入れる人々である。例えば10年前にこう言われた、という話を持ち出してくる。その場合には答えは以下の3つである。
1)A医師の言い分もB医師の言い分も正しく、矛盾はない。(条件が異なる)
2)B医師が正しい。(医療は進歩する)
3)あなたの記憶が間違っている可能性がある。(10年前でもその説明はしなかっただろうと考えられるいくつかの証拠がカルテに残っている)
いずれにせよ、B医師の言い分を選択するのが賢いと言える。

当院には医師が二人いるけれど、他院に比較するとおどろくほどκ比(診療の一致率)は高く、そうした問題が起きにくいが、仮に二人が違う説明をした場合にはどちらの考えを採用するか、の問題は出るだろうとは思われるので、やはり序列をつけるべきである。

医師に何か言われた後にナースや薬剤師に何かを言われたと言って情報を上書きする人々がおられる。そしてナースに確認してみると、そのような事は言っていないと言う。残念ながら記憶違いなのである。カルテに6ヶ月後来院すべき、と書いてあるのに来院しない人々の殆どは情報の序列の付け方に混乱が見られる人々であり、前述の人々と問題の根は同じであるように思う。

情報をすべて公平に扱って正しい答えが導き出せるのは我々のような訓練されたプロであり、みなさんには無理だ。みなさんは誰の情報を優先すべきか、をまず考えれば、医療上の不利益を被りにくい。

2017/03/20

高瀬舟における3つのテーマについて

青空文庫で森鴎外の小説「高瀬舟」を読むことが出来る。→リンク

時は寛政、つまり1789年〜1801年。明治天皇の曽祖父にあたる光格天皇の御代という舞台設定である。遠島を申し付けられた罪人を京都から大阪まで運ぶ高瀬舟で、同心羽田庄兵衞は弟殺しの罪人という喜助という男の不思議な佇まいに引き寄せられる。肉親殺しの罪人のはずだが、どういうわけか涼やかで晴れやかに見える。不思議さに堪えきれなくなった庄兵衛はとうとう聞く「喜助。お前何を思つてゐるのか。」

将軍は11代家斉。15歳だった家斉に代わり治世を行ったのが老中首座、白河楽翁候。白河藩主で名君の誉れ高く11代将軍候補であったとも言う8代将軍吉宗の孫松平定信であり、天明の大飢饉で傾いた財政を立て直す目的で、祖父吉宗の享保の改革にならい寛政の改革を行っている。松平定信は碩学(せきがく:ものしりな人)で朱子学(儒学)を重視した人。真面目すぎるが故に尊号一件事件など、明治維新につながる幕府と朝廷との軋轢の原因を作ってしまった人物でもある。

天明とは寛政の前の年号。寛政になる前年1788年には京都で歴史上最大の天明の大火が起きており御所を含めて広い範囲が消失している。主人公である喜助の職場があった西陣(御所の西側)も焼失したはずであり、むろん再建はされたとは思うけれども近くには住む場所はなかったと思う。北山は焼失していなかったはずであるから、兄弟で北山に住み、その辺りから通う、という設定は現実的である。高瀬舟にはそういう時代背景がある事を知っておくと良い。

この話の元は「翁草」にある「流人の話」であるとされているが、このような細かい背景の設定はない。当然これには作者の意図があると考えるべきだ。解説は森鴎外本人が「高瀬舟縁起」として書いている。

高瀬舟には2つのテーマ、「足るを知る」と「安楽死」とがあるとされている。

足るを知るという点について:日英同盟を背景にして1914年にヨーロッパで第一次世界大戦が起きた機会に乗じて日本が中国に攻め入り1915年、21ヵ条の要求をした事に対しての政府批判である、という解釈があるそうだ。さて足るを知る、という概念は当時一般化していたのであろうか。森鴎外がドイツ留学した時期(1884〜1888年)は、ヨーロッパにおいて「再現のない成長と進歩」という価値観への疑問が沸き起こった時期と重なりあう。ニーチェが活躍したのもその時期で、彼の著作を読んだのかなあなどと思うと感慨深いものがある。(生田長江がニーチェの翻訳をする際に鴎外に教えを請うた、とある)従って森鴎外がこの思考に至ったことは自然であると言える。

良く高瀬舟のテーマは「知足」か「安楽死」か両方か、と議論されている。森鴎外は知っている人には「寛政の京都」という時代設定だけで喜助の過去に何があったのか、を想起させる人である。これほどの天才であるから、この短い小説の中に「知足」「安楽死」だけでなく「尊属殺人」に関しても何らかの問題提起があったと考えるべきではなかろうか、と思う。というのも、高瀬舟が発表された1916年から遡って8年前、1908年に明治刑法が制定されているのだが、明治刑法には殺人の他に尊属殺人の項が設けられ重い刑罰が科せられる事となったのである。その刑法の思想背景には朱子学があるとされ、森鴎外の言うオオトリテ(オーソリティー:権威)はそれを指すに違いない。

主人公の喜助の罪は尊属殺に相当する。それを有無を言わさずに重罪、としてしまう事に対する、批判を込めたのではないかとも思える。朱子学を背景にしていた寛政の世と同じく朱子学を背景にする明治刑法とを結び付けぬわけにはいかないのである。

先に尊属殺について述べたが、安楽死について述べる。森鴎外が高瀬舟縁起で言うところのユウタナジイ Euthanasie は安楽死の事で、当時は安楽死という言葉がまだなかったものと考えるけれど、ギリシャでは戦争において相手を苦しませぬために素早く殺すというような意味合いであったという。現代の安楽死という意味では、フランシス・ベーコンが17世紀に記述したのが最初だとされている。ヨーロッパで研鑽を積んだ森鴎外が「流人の話」を読んだ時、彼はユウタナジイを想起し死が多様であることを示そうと思っただろうし、さらに当時の日本で新しく制定された法律によって尊属殺は問答無用で重罪、とすることに対して疑問を呈したのではないか、と想像するのである。

この尊属殺人に関して違憲判決が出るのは実に1973年であり、一定の結論が出るまでに65年もの時間がかかった。安楽死に関してはまだ日本では十分な議論がなされているとは言いがたい。天才の問題提起の有効期限は死後50年を経てもまだ切れていない。

2017/03/02

続・医者に「精神的なものだ」と言われたら

医師側に要因がないかどうかを考える。

・自分の専門分野について異常がない、という説明は見落としが起こっていることがわからないので無意味。
ー鑑別診断を挙げ、それらをこういう根拠で否定した、という説明が非常に丁寧。
ー医師の質は均質ではない事を意識しておくこと。説明の記録が重要。
 (記憶は全く役に立たない)
・途中で症状経過を整理してくれる医師に出会えると幸せ。
ー状況を混乱させないためには、きちんとした記録が必要であるため。
 (そうした労をいとわない医師を大切に思うこと) 
・診療情報提供書が極めて重要で、中身のある情報のやり取りがあればなお良い。
ードクターショッピングを途中で止めてくれる意志のある先生に出会う事が大切。

今まで見た患者さんの病歴を振り返ると、必ずその中に一人以上親切な先生がおられるのだが患者が素通りしているケースが多いです。診断が滞った時に、その医師の元に戻ったら知恵がいただけるのではないか。

患者側に要因がないかどうかを考える。

医師が精神疾患に伴うものだ、と考えがちなケースは以下の通り。
・多彩な症状を訴え、要領を得ない
・症状が一貫しない、ないしは一貫していないと誤解されるような言い回し
・医師の治療になんら反応しない(全くフィードバックがない、「全然」というような言い回しを使う)
・気分が不安定でコミュニケーションが取りにくい
・偏った考えを持つ(難病不安、精神疾患を絶対に否定)

善意の第三者が必要なケースが多くあります。公平で理知的な家族や友人がいると良い。また、人間の記憶は実に曖昧で、しかも記憶の書き換えすら生じますので、「自分は今困難な状況にいる」と思ったらその時点から日記をつけるべきです。

精神科は終点ではないし、しかも一つではない。

たとえば病状が長引くと精神症状が出てくるスプルーのような病気もありますし、医師に言われた一言で傷ついてPTSDのような症状になっている人、消耗して睡眠障害や気分障害が認められるような人もいます。それがますます症状を複雑にすることがあります。
したがって、精神科に相談することで改善することは多くあります。その症状が精神疾患に伴うものであれ、そうでない場合であれ、精神科を受診することで恩恵を受けることがありますから患者自身がその可能性を否定してはいけません。
良く患者が言う言葉に「薬があわなかった」というものがありますが、それはどんな病気でもあり得ることで、薬に対する反応で病態を医師が把握しようとしてくれますから通院を一回でやめるのはもったいない。別の医師によるアプローチで軽快する場合もあります。

まとめ:気が急いてしょうがない精神状態は状況を悪化させてしまう。

不安や焦りは病気の診断にはノイズになってしまいます。
こういう状況に陥ってしまった方を見ていると、周囲で静かに支えてくれる方が多くはなく、不安を煽る一言を本人に言うような寄り添いの態度に欠ける方々の存在を感じます。インターネットにも不安を増幅させる言葉やネガティブな感情、根拠なく安心させようとする言葉が並んでいます。少なくとも不安を与えるものとは少し距離を取るほうが良いでしょう。

2017/02/23

医者に「精神的なものだ」と言われたら

これはもう哲学の問題ですが、私は脳を含めた人間の機能はすべてシミュレーション出来ると考えている医者なので、「精神的な」という言葉を使って病態を患者に説明することを避けていると思います。鵜川にそう説明を受けたよ、という患者さんがおられたらすみません。説明が難しすぎて理解できない患者が「結局精神的なものですか?」と仰って、それに対して「みたいなものです」と説明したことはあったと思います。

でも世の中ではこの言葉はよく使われるようです。では医者はどういう時に「精神的な」という言葉を使って患者に説明したがるのかを考えてみます。

1)時間短縮のため
多彩な症状の一つ一つを一元的に説明することは天才であってもなかなか難しい事であり、ましてやそれを医学知識のない患者に理解してもらうのは大変です。詳しく説明することは自分の知識不足を露呈してしまう可能性もあり、したがって「精神的なものです」という言葉を使います。いずれは治る、と確信している場合に使ってみたり、医師によっては濫用しているケースもあるように思います。

2)精神疾患に随伴する症状である
例えばうつ病に胸焼けを伴う患者は多く、またうつ病の薬の副作用にも胸焼けがあり、原因だ結果だと決めつけられないため取扱いはデリケートでなければなりませんが、精神疾患に随伴する症状である可能性を考えるときはあります。その解決は患者自身には難しいのではないでしょうか。したがって精神疾患に伴う症状である可能性を説明してその専門家の先生に紹介する事をします。ただし患者がそれに心理的抵抗を示す場合はあり、診療は簡単ではありません。日本における特異なハードルであり、精神科に対する強い偏見は逆に日本の医療の進歩を阻害している印象です。今後取り組むべき課題。

3)その医師の理解を超えている
何が患者におきているのか医師自身が理解ができないが、今までの経験から放っておいても悪化はしないと予測し、多彩な症状を患者が訴える場合にその言葉を使う医師がいると思います。1)と見分けがつきにくいため、患者が戸惑います。

4)その言葉を治療の代わりに使う
世の中には「気のせいだ」と言われるだけで症状が無くなる人が多くいるのは事実なので、その例に習って精神的なものだ、という声をかけて治るかどうか見守っている、という医師はいるような気がします。

5)患者自身の誤解
そういう言葉を使って説明されていないのに、説明が理解できないときに患者が「精神的なもの」と思い込んでいる場合があります。

さて、以上をふまえて、どのように患者は振る舞えば良いのでしょうか。
ここまで書いたら少し疲れましたので、続きはまたあとで書きます。
こんな内容で。

医者が使う「精神的なもの」という言葉が「別れの言葉」のような印象を持たれてしまうと良くない。
患者は「精神的なもの」と言われた時に一人で悩まないための手段を身に着けましょう。その手段にはこんなことがある、という内容。

2017/02/03

私の医療情報収集方法

お薬の情報はここから収集します。

Pmda 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

薬品名+pmdaで検索しています。?view=みたいな邪魔な文字が出てきたら削除する、というような技が自然に出来るようになったら一人前です。interq.or.jpの情報はノイズです。いちいち「医療従事者か?」と確認が出て来るサイトにはアクセスはしません。

ここの添付文書+インタビューフォームを読むのが基本です。
大規模臨床試験はLancetあたりをフォローすれば良いので、薬品名+Lancetでいけます。


さらに詳しく見たい時にはKEGG MEDICUSです。

KEGGはP450情報、添加物情報が詳しく、唯一無二のデータベースです。貴重。


特許情報はチェックします。薬品名でチェックしておけば良いです。時々製薬会社名でチェックもいれます。

商標登録データベースは、新しいお薬の名前を当てるゲームをするときに使えたりします。

治験の第Ⅲ相試験はデータベースがあるのでざっとチェックします。治験が進んでなくてやばいな、、、みたいな事はわかります。

アメリカのFDAの情報は見ます。日本と異なり厳しい目に晒される国ですので、新しい副作用情報はFDAが早かったりします。また、日本やヨーロッパでは売っているのにFDAの治験を通していない薬剤については「どうしてだろう?」と考えることにしています。基本的にFDAはアメリカの国益を重視する、という視点は持っておくようにしています。

いくら売れるか、は考えます。売れても50億円、という薬だったら有望であっても治験はしてくれないだろうな、と思考したりです。公知申請するにはどうしたら良いだろう、と考えたりもします。


とある新薬の使い心地はどうだろう、という時には医師が書いたブログを検索したりします。いろいろな説明会の内容が書いてあったりします。


こうした情報の収集によって、少しエッジの効いた解釈が出来るようになります。わざとリンクは張りませんでした。