2016/07/16

胃痛の三原則


これほど美しい胃粘膜をもちながら、「胃が痛い」という人々は多いわけで、その人々に「機能性ディスペプシア」と大雑把に病名をつけてお薬を処方するというやり方はいかがなものでしょうか。エビデンス、にたよるならPPI。しかしPPIを長期に渡り漫然と投与する事を問題視しないのは診療センスがないというものです。(海外では少なくともかなりしつこく警告されているが日本では皆無です)妊娠可能な女性なら尚更です。

胃の痛みはカプサイシン受容体で感じますが、それは筋層のそばにあります。少々荒れた程度では痛まないので、よくある「この胃の荒れが云々」という説明は医師のごまかしでしかありません。私はこの人々に以下の三原則を説明し、まず理解していただく。

胃痛の三原則(鵜川)
1)胃酸が粘膜に染みこんで痛覚を刺激する。
2)胃の平滑筋が過度に収縮し圧が上昇する事が痛覚を刺激する。
3)胃粘膜の相対的な虚血状態が痛覚を刺激する。

患者の症状というのは、知識に修飾を受けます。最初に概念を理解していただいた上で投薬し、彼らのフィードバックを待ちます。するとより具体的に、痛みが発現するきっかけ、性質、経過、投薬の効果を報告してくださるのでより良く対処する事が可能です。

ここで私が強調したいことは、医療には診断をつけてガイドライン通りに治療をする、というようなやり方では到達できない領域もある、ということです。患者教育をした上でコミュニーケーションする、という方法を用いてゴールを目指そうとする。これには2つのゴールがあります。1つめは知識を得て患者が自立することであり、2つめは理解できないまでも患者が医師を信頼する事です。この目的を達成するために私自身も柔軟でなければならぬ。こうした文章を書くのは、自分自身にフィードバックをして知識や意識を再確認するためでもあります。

3 件のコメント:

  1. 胃痛の対症療法と説得的寛解はGFの確実な診断能力を背景にしないと怖いところはありますね。幸い、とても真面目に診てくれる先生方が近所に居られるのでなるべくそちらにお回しして、足許不自由など理由のある方々だけ当方で診ております。その後に、こういう情報は、やはりとても役に立ちます。ありがとうございます。

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    1. コメントありがとうございます。
      内視鏡さえ確実であるならば、むしろ消化器内科医よりも患者さんとリアルに情報をやり取りしていらっしゃるPOMC先生のほうがよほど患者さんにとっては「よく効く」処方をなさるはずなのです。
      若い女性のいわゆる機能性ディスペプシアは非常に多く、本来処方して欲しくはない、高プロラクチン血症を来す薬剤が消化器内科医から多く処方されますし、PPIの使用も「エビデンスがあるから」という理由で使われます。使わざるを得ないケースもありますが、むしろ総合内科的な診療が出来る先生方による教育が患者さんを助ける例は多いと思っています。
      痛みの原則について患者さんに説明するときのミニマムな説明はこの三原則で、正座を長くした時の足の痛みと同じである、というような説明で患者さんが納得してくれ、「だから手を当ててあたためると楽なのか」などと返してくれると、この人は症状が楽になるのだろうなという手応えを感じます。

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    2. 体重減少、貧血、炎症反応の上昇、低たんぱく、高たんぱく、治療に抵抗する痛み、特に睡眠中の痛み、などがある場合は注意が必要で、消化器内科医にご紹介いただけると助かります。

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