2015/07/12

ヘリコバクターはピロリだけではない


ピロリ菌の証明方法には「UBT」「迅速ウレアーゼ試験」「便中抗原」「組織検査」「培養」「抗体」などがある。通常内視鏡をしているとこれらの検査をする前に「ピロリ菌+」「ピロリ菌-」は高精度で予測がつくけれど、肉眼所見と結果とが矛盾することがある。例えば鳥肌胃炎があるのにピロリ菌が証明できない、MALTリンパ腫があるのにピロリ菌が証明できない、などである。

検査の偽陰性も当然考えられるがしつこく検査をしてもなおピロリが証明できず、しかし組織検査でギムザ染色をしてらせん菌が証明されると、「ヘリコバクター・ピロリ以外のヘリコバクター属の細菌がいるのではないか?」と疑うこととなる。

東海大学の高木敦司教授にご相談したところそれは H. suis ではないか、と教えていただいた。

下記はJournal of Infection and Chemotherapy September 2014Volume 20, Issue 9, Pages 517–526 に掲載されている、胃に感染するヘリコバクター属をまとめた表である。


左から細菌の名称、宿主、発見年が記載してある。H.feris はイヌ・ネコに感染しているヘリコバクターとして耳にしたことがある人もいるはずである。H. suis はかつては H. heilmanii-like organisms と呼ばれていたんですよ、とも教えていただいて、2年前のヘリコバクター学会で「heilmanii がなにか別の名前になりました」と聞いて失念していた記憶が蘇ってきた。H.suis はMALTリンパ腫との関連も深い重要な細菌だ。

ヘリコバクター属は哺乳類の消化管を好むようである。人間とイルカとは2500万年以上前に分かれているはずで、その当時かららせん菌は哺乳類の消化管に生息していたと推測されるがそれほど驚くべきことではないと思う。
したがってイヌにはイヌの中で進化した、ネコにはネコの中で進化した独自のヘリコバクターがいて然るべきであり実際そうである。

ところがこれらは人畜共通感染症としてふるまうのが困った点であり、ブタを宿主とする H. suis もそうである。ブタと言えば最近生食が正式に禁止されたけれども、それ以前から種々の感染症の宿主として医療従事者は認識しているはずである。……例えばトキソプラズマやE型肝炎だけれども、これには当然H. suis も含まれるわけだから、そういう目で内視鏡を見なければならぬ、という思いを新たにした次第。

実際経験を積んではじめて知識が身につくようではまだまだだなと痛感しております。


2015/07/09

日常のゆらぎを許容できるか

感冒のように、自然に治る状態に総合風邪薬で介入することに慣れてしまうと、

日常のゆらぎを許容出来なくなるのかもしれません。



胃腸の症状にもゆらぎというのはあるはずですが、

ある方は「生まれてこの方絶好調だ」と言いますし、

ある方は「さっきからムカムカする」と電話をかけてきます。



どちらも自然のリズムを感じようとしない感性の発言なので私にとっては違和感があります。



そうした訴え方は個性の一つなので直す必要は全くありませんし悪いと言っているわけでもありません。

総合感冒薬を欲しいという方の多くは日常のゆらぎを良しとしない方々で、

そういう方は大きな病気をしたときの受け入れも少し悪い印象があります。

ある方は重大さがわかっていないし、あるいは深刻に受け止めすぎる。



風邪は自然に治るものだ。(治らない場合はどういう場合なのか、を学ぶ貴重な機会でもある)

という教育は、癌の告知にも響いてくると思っています。

そういう理由もあって当院では風邪での受診は勧めていないのです。

2015/07/04

閾値

外来で行う作業を通して患者さんの何を知ろうとしているかというと、

「どういう考えで今日外来に受診しようと思ったのか」ということだ。

それは「このぐらいだったら検査を受けようと思う」というその患者さん特有の「閾値」を知る作業だとも言える。



去年この胃潰瘍瘢痕は2年後に見れば良いと説明したと仮定して、今年また健康診断のバリウム検査で「要精検」判定されたとする。

その時には、我々の指示通り2年後と解釈し受診しない人。

写真を我々に見てもらいその判断を委ねようとする人。

写真は見てもらうがそれはただの確認で2年後に受けたいと思っている人。

我々の判断はどうあれ要精検は要精検であるから検査を受けたいと思っている人。

などが居る。そのどのグループに属するか、というのは今後の説明の仕方にも関わってくる。

例えば指示通り2年後と解釈し受診しない人の場合には突発的に予想外の事が起きた時に修正できるチャンスがほとんどないグループに属していると言える。

どうしても検査を受けたい人はやや過剰診断・過剰診療を受けやすい人だと言える。



どんな人にも行動には閾値が存在する。それに影響する因子は多様で複雑だけれど、それをある程度掴んで説明に応用してバランスを取ろうとするのは、人々の医療をなるべく平等にしておきたいという私なりのバイアスだといえる。