2015/02/10

坐剤の研究

ふとしたことから坐剤に注意がいった。
オメプラゾールを坐剤として作るとものすごく効くとか、五苓散を坐剤にすると効くとか、そういう事は10年以上前から見聞きする。しかし見たことは、ない。
そもそも薬学部では坐剤の作り方を習うんだそうだ。全く儲からないのに作ってくれる薬剤師はさぞ心意気のある人なんだろう。アメリカでは薬剤師はロボットに取って代わられてしまう職業の筆頭に挙げられてしまっているが、心意気とはプログラミングと同じ意味であるように思われ、自らをプログラムし直すことが出来れば簡単には取って代わられる事はないと思う。内視鏡でも色々な自家調剤の製剤を使うからいつも薬剤師のみなさんにはお世話になっている。

さて試しにデータベースで「坐」で検索すると151しかない。ならばすべてを検証できそうだ。

ボルタレンサポは坐とついていないのでいまいましい。アデフロニックズポなどという、使ってくれるな、検索してくれるな、と主張しているような名前すらある。

ちなみにほとんどが坐剤、であって坐薬はプロクトセディル坐薬、ポステリザンF坐薬、テレミンソフト坐薬の三つしかない。これはクイズに使えそうなムダ知識だ。

鎮痛、あるいは鎮痛・解熱に使う系:発熱を下げよう、とか痛みを取ろう、という相手が乳幼児であって飲ませるよりも坐剤のほうが簡単である、といった理由であるとか、癌などの消耗性疾患で服用が困難であろう、とか、飲み薬よりは潰瘍が出来ないんじゃなかろうか(本当は大して変わらないと思うけれど)といった理由なのだろうと想像するけれども成分によって随分と参入するメーカーの数が違うものである。また命名のいい加減さというか、やっつけ加減が良い。
  • アセトアミノフェン:アルピニー坐剤、カロナール坐剤アフロギス坐剤アンヒバ坐剤、アセトアミノフェン坐剤、パラセタ坐剤
  • ジクロフェナク:ボルタレンサポ、ジクロフェナク坐剤、ボナフェック坐剤、ボラボミン坐剤、ベギータ坐剤、アデフロニックズポ、メリカット坐剤
  • インドメタシン:インテバン坐剤、インデラニック坐剤、インドメタシン坐剤、インメシン坐剤、ミカメタン坐剤
  • ケトプロフェン:エパテック坐剤、ケトプロフェン坐剤、レイナノン坐剤、メジェイド坐剤
  • ピロキシカム:バキソ坐剤、フェルデン坐剤、アフロギス坐剤、フェルデン坐剤
  • イブプロフェン:アネオール坐剤
  • 合成麻薬:レペタン坐剤
  • モルヒネ:アンペック坐剤
痙攣止め系:痙攣しているときには注射か坐薬じゃないと対応できないわけで、これも必然の帰結という気がする。
  • ジアゼパム:ダイアップ坐剤、お母さん必携の坐薬だろうと思う。後発品がなくて商品名が単一なのも良い感じである。アセトアミノフェンの乱立ぶりはよろしくない事だ。
  • 抱水クロラール:エスクレ坐剤
  • フェノバルビタール:ルピアール坐剤、ワコビタール坐剤
吐き気止め系:もっとあるだろうと思いきや、全然ないのが吐き気止めである。ドンペリドンは結構吸収が悪いために経口薬より容量が大きめ、と聞いた。メジャートランキライザーの坐薬なんてものはあっても良さそうであるけれども。基材が面白くて、マクロゴールが主体なのであるがこれは水溶性であり他の坐薬のように溶ける油ではない。したがって室温が高くとも十分に保存が可能だ。
潰瘍性大腸炎:直腸型潰瘍性大腸炎の坐薬は結構有用な薬だと思う。添加物の違いが実に面白いので書き出してみた。新しい薬は「ハードファット」みたいなテキトーな基材では作らないのか。
  • サラゾピリン坐剤(添加物:C12~C18の植物性飽和脂肪酸のトリグリセライドに、モノ及びジグリセライドを混合したもの、ポビドン)
  • ペンタサ坐剤(添加物:マクロゴール6000EP、ポビドン、タルク、ステアリン酸マグネシウム)
  • リンデロン坐剤(添加物:カルナウバロウ,ゴマ油,ゼラチン,グリセリン,水酸化ナトリウム,硫酸,ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60,パラオキシ安息香酸エチル,パラオキシ安息香酸プロピル,ハードファット)
便秘の薬:市販のコーラックはビサコジルを口から飲ませるというちょっと恐ろしい製剤である。かつてはヒマシ油だって飲んだんだからしょうがないか。新レシカルボン坐剤は日本以外にあるのだろうか、極めて優れた特徴を持つリハビリ用製剤である。患者さんにその素晴らしさが伝わらないのは私の力不足に過ぎない。
痔の薬:一番うんざりしたのが痔の薬である。基材が重要だと思うんだけれど、これがかなり薬によって違うのだ。また長期投与が出来ないものが非常に多くてこれも困った。
  • ネリプロクト坐剤:ジフルコルトロン吉草酸エステル・リドカイン痔疾用坐剤であって、1993年に薬価収載である。それを追って2003年にネイサート坐剤、ネリコルト坐剤が、2006年ネリダロン坐剤が、2010年ネリザ坐剤が収載されている。ネリネリネリネリ煩いが、わかりやすいとも言える。先発であるネリプロクトが39.5円で他が22.5円かと思いきやテバ製薬(旧大洋薬品)のネリダロンのみ19.9円でありなんとなく「安定供給」という名のもとに決められる薬価の悲哀を感ずるのである。
  • プロクトセディル坐薬:1967年発売であるから、自分と同じ年齢である。痔の薬の帝王だろうか。そのわりにネリプロクトより安かったりするのだ。フラジオマイシンが入っていたりしてちょっと他とは違う雰囲気を醸し出している。
  • ヘルチミンS:材料にハッカ油とか書いてあってヒエ~~な感じがするけれど、1958年発売である。この薬価が19円台であり、歴史の割に値段は底辺であって、まるでアスピリンである。しかも発売は日本ジェネリック株式会社である。個人的にはビスマスを成分としているのが興味を引いた。
  • ポステリザンF坐薬:強力ポステリザン軟膏というやけに頭に残る名前を考え出した人はすごいと思うんだけれど成分がまたすごくて「大腸死菌浮遊液+ステロイド」である。なんかまるでラッピング療法の創傷治癒を予言したかのような成分であるけれどドイツのドクトル・カーデ製薬会社協力っていうのだから、伝統的な治療方法のはずである。先行した強力ポステリザン軟膏は1965年の発売。なるほどインタビューフォームを読むと1922年には原理が見いだされてドイツで発売され、1957年にステロイドを加えて「強力」としたんだということ。それをマルホが輸入して販売ですか。勉強になります。みなさんポステリザン(Posterisan® forte)はドイツ語風に発音ですよ!!
  • ボラザG:トリベノシド+リドカイン、トリベノシドはヘモクロンという飲み薬の成分ですね。これだけはステロイド含有じゃないです。でもリドカイン要らなくないか?とも思うんですよね。
  • ロートエキス・タンニン坐剤「サトウ」:もう発売していないんですけれどね、でもね、飲めば下痢止めが痔の薬ですよ!知らなかったなあ。
ユニーク系
註:ある程度リンクを貼りましたが、興味のある方は「薬品名 pmda」で検索し、左下のインタビューフォームのリンクをクリックすれば良いです。

坐薬の基材にもいろいろあるのがわかります。ハードファット、ウイテブソール、硬化油、グリセリン脂肪酸エステル、マクロゴールなどなど。冷所保存となっているもののほうが基本的には溶けやすく、挿入も痛がりません。シンプルにハードファット、っていうのとめったやたらと色々入っているものの違いなども考えてみると面白いかもしれませんが面倒で考えていません。

舌下ですとか肛門からの投与は門脈を回避できるのでいろいろ便利な場合があります。院内で作りたい場合にはウイテブソールでいろいろな硬さのものが売っているのでそれを用いれば良いことがわかります。

特許を見ていたら面白い第一三共製薬の特許がありました。平成20年の特許5279343号です。
これの途中に彼らが想定する痔関連の坐薬の成分がすべて網羅的に書いてあって参考になります。

消えていった坐薬たち
データベースを少しいじって、消えていった坐薬たちを検索した。かいつまんで名前のみご紹介しようと思う。
アテネメン坐剤、アナバン坐剤、アニルーメ坐剤、インデラポロン坐剤、オルサポス坐剤、カルジール小児用坐剤、テオカルチン坐剤、ヘモジャスト坐剤、ヘモリサット坐剤、ボルマゲン坐剤。
全くのムダ知識である。