2014/02/21

「必要」と「得」

患者さんからの質問で「それは必要なんですか?」というものがあります。
割合本質をついていて、良い質問だと思う。

医者になって20年以上、それについて深く考え続けて来ましたし、医者は「目の前に困っている人を救いたい」という情熱(ドラマではたいていこれだけ)のほかに、シビアに公衆衛生への貢献を考えねばならない難しさがありますし、いかに自分が儲からないように(医療費を節約することは公衆衛生に貢献する)するか、教育(教育には逆にお金がかかる)をいかに行うか、自分の生活と健康(持続性がなければならない)を維持できるだけの収入をどう得るかを高次元で調和させる必要がある事は子供のころから祖父や父を見てわかっていましたから、そういう質問に対して本気で答えはじめると話が終わりません。

ただ、患者さんが期待しているのは本当は、「必要か」ではなくて「自分が得をするか」なのだと思うのですね。それはマーケティング上も重要だし、患者さんのモチベーションは治療の成否にかかわる部分ですので、「必要か」を答えるよりは「得をするか」という視点で答えるようにしています。

ピロリ菌の除菌なんていうのは、高齢者にとっては非常に重いテーマで、「必要かどうか」という視点ではなかなか話が収束しませんが、「得かどうか」で考えると若干わかりやすい。

「胃癌のリスクが70歳で委縮がO-3のあなたの場合は毎年0.4%だと見込めて、それを0.13%に絞り込むことができ、しかし除菌をしようがしなかろうが内視鏡をする回数は今後もほとんど変化がなくて、そのかわり内視鏡をしていれば9割は内視鏡切除可能な癌で見つかる。除菌をすると1.5%の人は副作用で苦しむし、0.1%の人がかなり苦しむ。つまり今後10年で胃癌になるリスクを4.1%から1.3%に絞り込めるが寿命にはおそらく影響はしない。しかし内視鏡を全く受けないような不真面目な人の場合には寿命には影響するかもしれない。ところでそのために短期での薬疹のリスクを取りますか、という判断を患者さんがすれば良いと思います」

という説明でわかるでしょうか。70歳の方にはなかなか理解が難しいかもしれない。

ただ、ひとつ注意したいのは、「必要かどうか」という質問をすると必ず、「…%は死ぬ」とか「…%は癌になる」という話題が不可欠になるわけです。ですから私が「死亡率」という話題を出した時に、「先生驚かさないで下さいよ」という患者さんがおられるわけですが、それは患者さんが「必要かどうか」という質問をしたからやむなく答えているわけで、決して驚かしているわけじゃない。

一定の患者さんにとっては医療はブラックボックスであったほうが、精神的には幸せである場合があるので、そういう方は「必要か」という質問(ブラックボックスを開ける質問、開けゴマのような呪文)は避けた方が無難ではないかと思います。でも出来ればみなさんが命を見つめる目を身につけてそのブラックボックスを開けてしまう世の中になれば良いとは思います。

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