2010/06/15

細菌ブーム

当院では昔から細菌ブームでありまして、とにかく人間を守るのは善玉菌であると。

私が子供の頃、40年近く前になりますが、院長(私の父:当時40歳くらい)は私に痛み止めを渡すときには必ず「胃腸を保護するために」と整腸剤の袋も渡したものです。長年そうでしたから、医学部に入りまして、痛み止めは胃を荒らすと習ったときに、「ひょっとして整腸剤は違うんじゃないか?」などと思ったりしたわけですが、しかし実は胃の保護剤こそほとんどNSAIDS潰瘍には効かないという事実がわかってくるにつけ、やっぱり整腸剤は良かったんじゃないか?などと今更思うわけです。

乳酸が胃酸分泌をコントロールする、などというソースの見つかりにくい話もあります。便利なので、根拠がはっきりしないままネタにしていますが、そのうちちゃんと調べようと思っています。

ところで乳酸菌は胃酸で死んでしまって届かないから云々という話がありますが、あれは半分本当で半分嘘です。「届かない」と断言している人は、金儲けが好きなのか、愚かなのかどちらかだと思います。世の中はなんでも確率統計に支配されておりまして、胃酸にさらされたとしてもそれで乳酸菌が死ぬとは限らないわけです。しかも、液体というものは胃の通過スピードは恐ろしく早いものであります。収縮した胃であれば、30秒もあれば液体は十二指腸に通過していくわけであります。バリウムの検査で、ブスコパンを使わなければあっという間に流れて行くことからも明らかであります。いずれにせよ、飲めば何でもある程度効くわけです。

だんだん話が支離滅裂になってきましたが、100種類以上の細菌、100兆個と言われますけれども、それらのバランスが重要であります。むろんその殆どは大腸に存在するわけでありますけれども、口腔内とか食道とか、小腸にもあるでしょうし、副鼻腔の中とか、皮膚とかにも当然存在するわけであります。

赤ちゃんのうんちは乳酸菌が多いわけですけれど、お母さんから自然に受け渡されるものです。コアラの離乳食は母親のうんち「バップ」で、草食動物にとって極めて重要な消化のための腸内細菌を子供に受け渡します。人間の場合、消化には腸内細菌は関わらないはずですから、きれいにした乳首やお母さんの手にわずかに付着した細菌が赤ちゃんの中に入るのでしょう。それが乳酸菌なのですから、実によく出来ていると思います。しかし抗生物質でしばしば細菌叢は破壊されますから、そのたびに正常に戻さねばなりません。抗生物質とともに整腸剤を処方するのはこういう訳があるのです。母親が糠漬けを作っておいてくれれば完璧でありまして、それを食べると元に戻るはずだなあなどと考えるわけです。

細菌ブームはまだまだ始まったばかりで、今は大腸に関して多少嘘を含んだ情報が飛び交っているだけですけれども、機能性の様々な細菌はこれからも市場に登場するでしょう。

口腔内常在菌LS-1という商品がありますが、私は好んでおります。口の中の悪玉菌の多さと言ったら、人間はまだましで、動物ではひどいものでして。咬創の治りにくさは最悪です。その口腔内に目をつけたというのはすばらしく、口内炎の方、虫歯がある方、口臭で悩む方などに勧めています。以前は冷蔵品でありまして、発売されてあっという間にドラッグストアから姿を消してしまいました。現在も細々とネットで販売しておりまして、手にいれるのに少し敷居は高いものの、おすすめ出来る商品であります。

皮膚に関しても当然善玉菌がおりまして、次のブームは皮膚だろうなと思っています。細菌同士が成長をコントロールする仕組みも最近Natureに発表されました。

整腸剤もいくつか種類がありまして、当院では何種類か並行して使っておりましたが、患者さんの評判がだんだん収斂していくもので、現在は2種類使用しています。かつてラックビーという優れた製品がありましたが、現在は手に入らないのがやや残念です。

整腸剤は次の場合には積極的に使用します。胃切除後、高度の萎縮性胃炎、下痢の後、抗生物質使用時、使用後、胃腸炎、便通異常、腹満感。

未熟児に整腸剤を投与すると死亡率が低下した、という論文も最近発表されました。単なるブームでは終わらない、重要な事象であろうと考えます。

0 件のコメント:

コメントを投稿