2008/04/21

ピロリ菌除菌のその先

ピロリ菌関連のガイドラインが出版される度に「除菌後の未来」についての言及の有無に関して注目します。

ピロリ菌を除菌すると潰瘍の再発率は激減します。言うまでもなく画期的な治療法です。
癌については、除菌で発癌が激減するのか単に発癌を遅らせているだけなのか決着は付いておらず、過信は禁物です。萎縮がなくとも胃型胃癌は発生することがあり、小さな褪色を見逃さない「鵜の目」が必要です。こうした疑問は将来解決されるでしょう。

しかし今回も落胆した事があります。それは「除菌後の肥満」つまり「ピロリ菌除菌がかえってメタボリック症候群を作り出している恐れ」については全く注意が払われていないことです。

さて当院では内視鏡時に患者さんの体重をコンピューターに記録しているのですが、除菌治療が許可された2000年直後から、除菌の前後1年間で体重が増加している人がいるのに気付いていました。その条件はやや複雑で、禁煙に伴う体重増加と区別が付きにくく、全く体重が変化しない人もいて、解析は容易ではありません。前向き研究をデザインする事は私にはできそうにありません。

除菌と同時に禁煙をした人、あるいはアルコールを摂取している人、女性よりは男性、コンプライアンスが悪い人(まじめに病院に来ない人)が体重が増加しやすいのかもしれませんが確信はまだありません。たった数百例では解析しようがないからです。年齢は関係ないように思います。体重が増加しなくとも、血圧が上昇したり、コレステロールが上昇する場合もあります。

禁煙をした人は「明らかに以前よりも食べている」と告白します。しかし、それ以外の人については「食べている量は変わらない」と強く主張するのがその特徴と言えます。

ピロリ菌を除菌すると粘膜に炎症が生じて萎縮することによって落ちていた胃酸分泌能が回復します。するとカルシウムや鉄などの吸収は良くなりそうです。タンパク質も胃酸で処理されることによって吸収されやすくなるのでしょうか。あるいは、患者さんは実は食べている量が増えているのでしょうか。増加した胃酸を中和するために、より多くの食事を摂取しているのでしょうか。

除菌をしたのに、その後長期にわたりPPIを服用する事は栄養吸収についてのせっかくのメリットを相殺してはいないでしょうか。

こうした地道な事を調べるのは大変ですが、ポスト除菌時代を語るならば栄養の吸収についての研究も不可欠なように思います。

当院ではピロリ菌を除菌する場合、禁煙指導(除菌成功率が高くなると見込まれる為)はもちろん、体重増加に対して強く注意を払っています。除菌することで潰瘍の再発や発癌を抑制できればもちろんすばらしい事ですが、メタボリック症候群を誘発してしまえばそのメリットを帳消しにしてしまう可能性があるからです。

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